第235話 歓迎
不敵な笑みを浮かべたままケツァールの頭上の雷球は更に大きくうねっている。
タルトは覚悟を決めたようにステッキを構えた。
「カルンちゃん、セリーンちゃん。
何とか私が迎え撃つから万が一の時はリーシャちゃん達を守って」
「タルト姉、あんなのどうにか出来るノカ?」
「やれるだけのことはやってみるよ!」
「分かりました。
タルト姉様も気を付けてください!」
カルンとセリーンはその場から待避しタルト一人残された。
頭上にステッキを掲げ自らも雷を呼び出す。
「ほう、そなたも雷を操るか。
それでは力比べといこうか」
タルトのステッキの上にも巨大な剣を模した雷が形成されていく。
両者準備が整い闘技場には不気味な静寂が訪れる。
「準備が出来たようだな。
では行くぞ、
「エクス…カリバアアアアアアアアアアア!!!」
巨大な雷同士の衝突。
激しい轟音と共に周囲へ余波なのか四方八方へ雷が降り注ぐ。
「ヤベエ!
これで何とか防げルカ!!」
カルンは前面に真空の壁を作り降り注ぐ雷を受け流していく。
後方にいる仲間の命も掛かっているため全魔力を注ぎ集中していた。
やがて鳴り響いていた轟音も収まり闘技場の中央にあった舞台は消滅していた事から衝突の威力を物語っていた。
ケツァールとタルトは対峙したままである。
「ふはははははは!
これをも相殺するか!
気に入ったぞ、聖女よ」
「はぁ…はぁ…、これで終わりにして欲しいですぅ…」
ケツァールは両手を広げ観客席にいる獣人へと語り出す。
「見たか同胞よ。
この者は余と対等に闘うことが出来る強者である。
これ以降、余の客人として丁重に扱うが良い」
そして、タルトの方へ振り返る。
「遊びはここまでよ。
余と語り合う資格を証明したのだ。
神殿でもてなそうぞ。
聞きたいことがあるのであろう?」
「ここには話し合いに来ただけなんですからー。
それがいきなり死闘みたいになるんですもん…」
「久しく強者と出会っていなくてな。
つい楽しんでしまったのだ。
余は先に行って待っておる。
配下の者が案内するから付いていくがよい」
ケツァールは一跳びで貴賓席へと飛び移り奥の通路へと消えていった。
それを見て急に力が抜けたタルトはその場に座り込む。
「終わって良かったー。
生きた心地がしなかったよー」
その途端、今日一番の大きな歓声があがる。
強者を好む獣人にとって神にも近いケツァールとあれだけ互角に闘った者への最大の称賛であった。
「タルト姉、お疲れダゼ」
「さすがです、姉様!
一気に英雄扱いですね!」
「何だか凄い熱気だね…。
まあ、好意的になってくれたのは良かったかな」
そこへ一人の獣人が近づいてきた。
「聖女一行よ。
ご案内しますのでついてきてください」
「今度は信じても大丈夫かなぁ…」
タルトは疑いながらもしぶしぶ衛兵らしき獣人に付いていった。
さっきの件もあることから警戒しつつ案内されるがまま通路を進んでいく。
建物から出るとそこには今までのうっそうとした森とは異なり巨大な石造りの建物があちこちに見えた。
「すごーい!
メキシコの方にあるジャングルの中にある遺跡みたい!」
「これは驚いたな。
獣人の建築技術はここまであるのか…。
統率され体格にも恵まれているからな。
石材の加工や運搬も問題ないのだろう」
素直に喜ぶタルトとその技術に感心するティアナ。
案内する獣人も喜ぶその姿に悪い気はしないようでゆっくりと進んでくれている。
やがて白い石材で出来た美しい神殿のような建築物に辿り着く。
案内されるがまま中へ入っていき螺旋状の階段を登っていくと大きな広間に出た。
中央にはふかふかの毛皮で出来た敷物があり長机の上には多種多様な食べ物が並んでいる。
「待っておったぞ。
さあ、そこに座ってくつろぐが良い」
「うわあー、美味しそう!
見たことないものばかりだー」
奥にある豪華な椅子にケツァールは座っていたが、すっと立ち上がり机を挟んだ向こう側の敷物に腰を下ろす。
タルトも警戒を解きいそいそと敷物も上に座り料理を見定めていた。
その姿に他の者も警戒してるのが馬鹿らしくなり腰を下ろす。
「タルトといったな。
その幼き齢、華奢な体躯でありながら見事な闘いぶりであったぞ。
それに…」
そこでケツァールはぐるっと皆を見渡す。
「獣人、ハーフ、エルフに悪魔。
それに吸血鬼を従えておるとは不思議な魅力を持っとるようだな。
しかもただの吸血鬼ではない。
あれだけの力量からすると
「セリーンちゃんは本当に強いんですから!」
「それに極めつけは…そなたは化け物を飼っているようだな」
じっとリリーを見据える。
「飼ってるんじゃなくてリリーちゃんは大切な妹ですよ!」
「妹か…。
正体は分からぬがその娘を見ていると鳥肌が立つわ。
そなた以上の実力があるやもしれん…。
まあ良い、馳走を準備したのだ。
好きなだけ食べるが良い」
「わあーい!
いただきまーす!!」
会話は一旦、中断し食事を楽しむことにした。
タルトのたべっぷりと食欲にさすがのケツァールも驚いた顔をしている。
「気持ちの良いたべっぷりだの。
だが、その小さな体のどこに入るのかの?」
「すごい美味しいんですもん。
それに魔力をいっぱい使ったらお腹減っちゃって」
「暫くは満足しそうにないの。
ところでそっちの獣人はティートであろう?」
「!?
俺のことを覚えているんですか?」
これにはティートは立ち上がってしまうほど驚愕する。
幼き日にここを離れているのに神にも近い存在が自分の事を知っていたのだ。
「勿論よ。
立派に育ち良き師にも恵まれたようだな」
「はい、タルト様を頼り良くして貰っています」
「だが、まだまだ強くなるのだぞ。
ここは獣人の国。
やりたいことがあれば強さを示せ。
弱き者は何も語れぬぞ」
胸の奥を見透かされたようで言葉に詰まる。
吹っ切れたつもりであったがこの国に戻ってきて父への想いが蘇り復習心が僅かながらにあったのだ。
それをずばり見抜けれ言い当てられてしまったのである。
「精進します…」
何とか絞り出せた言葉であった。
「そうするが良い。
幼き妹を守れる程度にはならんとな。
さて、そろそろ食べ終わったようだの。
ここに来たのは余に聞きたい事があるのであろう?」
タルトが食べ終わったのを待っていたかのように話を振る。
ようやく本来の目的が果たせる時がきたのだ。
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