第234話 ケツァール

獣人とは動物をそのまま人型に変化したものであり全身が毛に覆われていることが多い。

元となる動物の特徴を引き継いでおり爪や牙だけでなく人間を遥かに凌駕する筋力を持つ者のが一般的だ。

逆にハーフの場合は見た目は耳と尻尾がある人間といったところで爪が少し鋭く五感が優れている特徴がある。

だが、ケツァールの姿は今までの獣人とは全く異なっている。

パッと見た目は蒼い肌の女性に見えるが頭から肩にかけて綺麗な色の羽に覆われている。

指先には鋭利な爪が生え、爬虫類のような鋭い眼光、牙のような歯が並び獣人とは掛け離れた姿なのだ。

それに強靭な獣人の頂点に立つのが華奢な女性だった事も衝撃である。


「どうした、余の姿が何処か変か?」


呆気に取られるタルトは質問され我に返った。


「えっ?

あの…その…。

整った顔立ちで綺麗な人だなって…」

「綺麗だと?

くっくっくっ、余が綺麗か。

今まで恐れられるのが常であったが面白いなそなたは」


その時、大切な事を思い出すタルト。


「それよりも次の相手がケツァールさんってどういうことですか!?

それこそ死んじゃいますって!」

「闘いで戦士が死ぬことは当然であろう?

手加減はしてやるが運悪く死ねば所詮、その程度の実力であったということだ」

「私は戦士じゃないんだけどぉ…。

ただの魔法少女ですって」

「噂は聞いておるぞ。

あの羅刹めを倒したというではないか。

幾度か手合わせしたが決着はつかなんだ。

それだけの実力がある者が戦士でないはずがあるまい。

どちらにせよ闘わねば道は開けんぞ?」

「うぅ…分かりましたよー!

ちゃんと手加減してくださいね!」


ケツァールは貴賓席から飛び立ち舞台中央へとふわりと舞うように降り立つ。

タルトがステッキを構えた瞬間、ふっと姿が消え真上へと跳躍していた。


「ちょっ!

早いですって!!」


回転しながら腕を振り下ろしたが危機一髪、タルトは回避行動が間に合う。

そのままあの場にいたら、その鋭い鉤爪で引き裂かれていただろう。

そのまま止まることなく溜めのない動きでタルトにピッタリ追い付き手刀で心臓を狙ってきた。


「危ない!!」


鋭い金属音が鳴り響きステッキと手刀が衝突する。


「並みの武器であれば引き裂く余の斬撃を止めるとはやりおる。

ただの棒切れに見えるが…。

急に出現させた事といい魔力を具現化出来るようだな」


指摘の通り魔法少女の服やステッキは魔力の結晶と言っても過言ではない。

その強度は魔力量に比例することからタルトのそれは世界最強の強度とも言える。


「魔力をそれだけ高密度で具現化出来るならこれくらいの攻撃でやられるでないぞ!」


話ながら止むことのない連続攻撃がタルトを襲う。

溜めもなく切れ目のなく続くことから防戦一方になっていた。


「ちょっ、まって、ください、って!

わっ!わっ!わっ!わっ!わっ!」


何とか追い付いて防御しているが一撃一撃が急所を正確に狙っており一瞬の油断が死に繋がる状態だ。


「このままじゃ不味い!

何とか距離を取らないと!」


タルトとケツァールの間に割って入る黒い影。

攻撃で伸びきった腕を狙う小さな姿はカルンであった。


「貰ったゼ!」


ケツァールの右腕が切断され地面に落ちる。

タルトとカルンは並ぶように後方へ下がった。


「何人でも良いって言ってたヨナ?

加勢するゼ、タルト姉」

「カルンちゃん、気を付けて!

速度が尋常じゃないの」

「アア、見てて分かってるが助けねえとヤバイ状況だったダ…ッテ、オイ!」


切断された右腕が一瞬で燃え尽きたかと思ったら燃える切断面から生えてきたのだ。

新しい腕の感覚を確かめるように指を動かし確認している。


「うむ…確かに何人でも構わんぞ。

悪魔が近寄って来ていたのは知っていたが近接戦闘に長けているとは驚いたぞ。

元来、悪魔とは魔法が得意であるが格闘術は苦手なのだが面白い奴だ」

「そんなことより腕が生えるなんて魔法なのカ!?

治癒するどころか燃えてタゾ!」

「余は不老不死なのだ。

知らなかったのか?

如何なる攻撃も余を倒すことは出来ぬ」


それは容易に絶望を感じさせる。

不老不死。

夢物語のようだが異世界ではあり得ぬ話ではないだろう。

実際、目の前で治癒とは異なり腕が再生したのだ。

そして、代替わりせずずっと頂点に君臨しているが年老いている様子が全く見られない。

正真正銘の不老不死かは不明だが近い存在であるのは明らかだ。


「不老不死ってそんなの倒せないじゃん…」

「倒さずとも力を示すが良い。

そろそろ準備体操も終わりにして少し本気を出すぞ、蒼雷イメル


ケツァールの身体にパチパチと電気を帯びていくのが遠目でもはっきりと分かる。


「カルンちゃん、下がって!

私が前に出るのでサポートをお願い!」


タルトが一瞬、後ろのカルンを確認し前を見たときには既に姿が消えていた。

なんと後方へ下がったカルンの背後まで移動していたのだ。

魔力でギリギリ感知でき振り返るがとても間に合わない。

無慈悲にもカルンの背後から心臓を狙い手刀を放った。


「危ない!!」


カルンは全く反応出来ておらずタルトも間に合わない状況でとても助かるとは思えない状況だ。

だが、その手刀を弾いた者がいる。


「何者だ?」


弾かれると同時にもう片方で間髪入れずにその相手を攻撃する。

それをも回避しながら反撃に転じ激しい攻防戦になった。


「何者か知らぬが余とここまでやりあえるとは大した奴だ」

「セリーンちゃん!」


そうケツァールと互角の闘いを繰り広げてるのは日が暮れ大人バージョンになったセリーンだ。


「腹が隙だらけだぞ!」


ケツァールの右の手刀がセリーンの腹部を貫いた。

だが、怯むどころか腕を掴み牙を突き立てる。


「掛かりましたね!

精気吸収エナジードレイン!」


今までの余裕な表情から一転し噛まれた腕を自ら切断しその場を離れる。


「まだ生き残りがいるとはな。

吸血鬼はとうの昔に滅んだと思っていたぞ」

「私はタルト姉様に救って貰ったんです。

裏切って酷いことをしたセリーンを許してくれたんです…。

だから、少しでも恩返しをするんです!」

「吸血鬼がそこまで他人に肩入れをするとはな。

精気吸収か…。

懐かしい技よ。

かつて吸血鬼の王と戦った以来か。

だが、警戒するほどの威力ではなかったが、つい身体が反応してしまったぞ」


タルト、カルン、セリーンは三人で連携できるよう陣形をとる。

主にタルトとセリーンが迎え撃ちカルンが遠距離攻撃などでサポートするのだ。


「セリーンちゃん、助かったよー。

それにしても本当に強いんだね!」

「夜だけの限定ですけど…。

でも、そうじゃなくても盾くらいにはなれます」

「無理はすんじゃネエゾ。

奴は最強の一角を担ってるんだからナ」


ケツァールに意識を向けながら話をする。

既に切断した腕も元通りのケツァールが楽しそうに笑みを浮かべていた。


「これだけ余と闘える者がいようとは思わなんだ。

さあ、更に楽しませてくれ」


右手を天に向け突き上げると雷が渦を巻いて巨大化していく。


「この技に耐えきってみるがいい!

出来ねば消し炭になるぞ!」

「やべえゾ、タルト姉!

凄まじい魔力量ダ!

ここ一帯吹き飛ぶ威力ダゼ!」


とても回避できるような大きさではなく闘技場が消し飛ぶほどである。

しかも後方にはリーシャ達もおり避ける訳にもいかず、どうにか耐え凌ぐしか道はないのであった。

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