第233話 機会
馬車を降り案内されるがまま暗い通路を進んでいく。
壁は石造りで綺麗に隙間なく組み合わされていることから技術の高さが分かる。
先の方に出口と思われる光を目指して歩いていき通路を出た途端、あまりの眩しさに目が眩んだ。
「ん…眩しくてなにも見えない。
やっと目が慣れてって…何なのここ!?」
視界に飛び込んできた景色は中央にある大きな舞台。
それを中心にして円形の観客席に囲まれており
、さながらコロッセオのような建物である。
「あれ…これって私達が出場者みたいじゃないですか…?」
「これから歓迎の催しを最前列で見せてくれる雰囲気ではないな。
安全の保証とは眉唾ものか?」
ティアナが呆れてぼやいたように既に獣人が観客席を埋めており歓声が上がり盛り上がっている。
既に入ってきた扉は閉じられており逃げ場はないようだ。
「これから何が始まるんでしょう…?」
タルトも少し不安げに辺りを見渡してると澄み渡るような綺麗な声が聴こえた。
「静まるがよい」
静かでありながら闘技場全体に響き渡る不思議な声が聴こえた途端、けたたましいほどの歓声がピタッと止まった。
その声は白く薄い布で隠された貴賓席から聞こえるが姿を見ることは出来ない。
「よくぞ来た聖女一行よ。
余が獣帝ケツァールである」
その声は心に響き渡るようで我を忘れてしまうほどだ。
慌ててタルトが返事をする。
「あっ、あの私が聖女のタルトです!
今回は会談に応じてくれてありがとうございます。
それでこれは一体、どんな状況なんでしょうか…?」
恐る恐る挨拶をしながら率直に聞いてみた。
「何を言っておる。
誰も応じるとは言っておらぬぞ。
機会を与えると文には書いてあったろう?」
「え?
どれどれ…あっ!」
確かにそう書いてあるのをタルトが都合良く解釈してしまったのである。
「そぅ…みたいですね…」
「全くタルトの勘違いとは…」
「それで機会って何をすれば良いんですか?」
「余と言葉を交わしたければ武を示すが良い。
ここは獣人の国。
弱き者に耳を貸すことはない」
スーっと正面の奥にある扉が開き数人の獣人が現れた。
手には武器を持っており戦闘態勢もバッチリである。
「安心するが良い。
命までは奪うまい。
この者達は余の親衛隊だ。
何人でも構わんぞ。
ここで武を示すが良い」
既に親衛隊と呼ばれた獣人達は既に舞台の上で待機している。
「こんな事なら桜華さんも連れてくれば良かったかな」
「タルト姉、どうスル?
全員で掛かるカ?」
「ううん、ティアナさん、カルンちゃん、ティート君はリーシャちゃん達をお願い。
ここは私に任せて」
タルトは一人で舞台への上へと向かっていく。
「一人で闘うとは面白い。
さあ、そなたの強さを見せてみろ」
舞台上でタルトと獣人達が対峙する。
人間より元々が体が大きいことが多い獣人だがタルトと比べると歴然の差がある。
知らないものがみれば虐殺が始まると思ってしまうだろう。
だが、仲間達はそんな心配などせずタルトを信じているのだ。
「行くよ、ウル!」
光に包まれ魔法少女へと変身する。
見たこともない光景に観客は多いに盛り上がる。
「喰らうがいい!!」
音もなく近寄っていた獣人の一人がタルトと同じくらいある斧を振り下ろした。
「そんな攻撃は効きません!」
その斧を片手で受け止め回し蹴りを放つ。
自分より遥かに大きい獣人の巨体を舞台の外まで吹き飛ばした。
「これって本当に殺す気ないんですよね!?
明らかに殺気を感じたんですけど!」
文句を言いつつ次の攻撃に備える。
だが、様子をうかがっているようだったので反撃に転じることにした。
「一気に決めます!
ショット!!」
横にステッキを薙ぎ払うと無数の魔力弾が獣人達に襲いかかった。
その速度と威力は凄まじく避けれた者はおらず防御の上から吹き飛ばされていく。
あっという間に舞台上に残ったのはタルトだけになった。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
闘技場全体が揺れるほどの歓声が上がった。
あまりの大きさにタルトは耳を塞ぐ。
「うわわわわっ!!
鼓膜がやぶれちゃうよー!」
これだけの体格と人数差を物ともせず圧勝したタルトを称えている。
「ほう、予想以上の強さだ。
それに珍しい魔法を使うな。
そなたはここ最近、急に現れたと聞く。
一体、何者なのだ?」
永きに渡る歴史でこれほどの実力を持った人間などいないのだ。
それが彗星の如くどこからともなく現れ世界を変えんばかりの活躍を見せている。
不思議に思うのも当然であろう。
「私は女神の使いです。
遠い場所からこの世の中を正しに来たんです」
「女神…か。
伝承に伝わるその名を聞くのも久しいな。
それであれば不思議な魔法も頷けるか…」
壁まで吹き飛ばされた獣人達がゆっくりと起き上がる。
派手に吹き飛んだが軽傷のようであった。
「配下の者達も無事なようだな。
手加減するだけの余裕があるとは。
良かろう、次の闘いで試してやる」
「次、勝てば話が出来るんですね?
いよーし、誰でもだしてください!
頑張ります!」
タルトは正面の扉が開くのをじっと見つめる。
だが、いつまでたっても開くことがなかった。
「あれ…誰も出てこないんですけど…」
その時、観客が驚きどよめいているのに気付く。
ふと見上げると薄い布が開かれ仁王立ちの人物が見える。
「次の相手は余だ。
他の者では相手にならないようだから余、自らで見極めてやろう」
その姿にタルトは驚愕する。
そこには華奢な女性の姿があったのだ。
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