第232話 返事
タルトは獣帝ケツァール宛に会談を打診する手紙を送った。
はっきり言うと良い結果は期待出来ないという予測だが返信が来るには時間が掛かることから普段通りの生活をしながら待つのである。
暫く街を離れていたこともあり色々な場所を回り人々に安心と癒しを与えていった。
日が暮れるまで連日、続けることで街に以前のような活気が戻ってきている。
「ふー、今日も疲れたよー。
久々に訪問治療したら病状が悪化してる人がいたんだよね…。
もっと頑張らないとー」
「主様ハ最適ナ行動ヲシテオリマス。
他人デハ実施不可デスカラ特二問題ハアリマセン」
タルトのマッサージをしながらクローディアが答える。
「いや、そうかもしれないですけどぉ…。
クローディアさんには心や気持ちが伝わらないんですよねー」
「キモチトハ非効率ナモノデスネ。
合理的二行動スルニハ不要ト思ワレマス」
「うぅーん、最初よりかは流暢に話すようになったのに中々、気持ちを近いして貰えないなぁ。
もうちょっと時間を掛ければ変わると良いんだけど」
クローディアは流体金属で出来た人形であることから計算されたような結果を元に行動している。
つまり機械的で心や気持ちのような不確定要素は全くないのだ。
そんな二人のもとにセリーンが訪れる。
「タルト姉様、探しましたよ。
獣人の国から手紙が返って来たから探しに来たんだけど…」
「えっ!返事彼って来たんだ!
すぐに行かないと!
ほらセリーンちゃんも一緒に」
「わ、私は探しに来ただけで…。
え、いや、その!」
手を引っ張れて一緒に連れていかれるセリーン。
会議室に集まれたのはシトリー、カルン、ティアナだけである。
「これが手紙ですねー。
何だか立派な封筒に入ってますね。
どれどれ、どんな返事なのかな?」
タルトは早速、封を開け手紙を取り出し読み始める。
「ふむふむ…。
おや?
何だか会談を受けてくれるみたいですよー」
「怪しいデスワネ。
何か企んでいるとしか思えマセンワ」
「だが、こっちから申し込んでるんだ。
向こうが受けるのであれば行くしかあるまい」
「ティアナさんの言う通りですよー。
この手紙も本人じゃなく代筆っぽいですけど国にいる間の身の安全は保証するって書いてありますし」
素直に会談を受けてくれた事に戸惑う一同。
相手の真意はいくら考えても分からないことから行くしかないと皆、考えていた。
「よし、やっぱり行ってみましょう!
せっかくの機会ですし行かないと分からないですしね」
「タルト様の決定であれば従いマスワ。
万全の準備をして行くことにシマショウ」
「せっかくだしティート君とミミちゃんを誘って里帰りさせないと。
たまにはセリーンちゃんも一緒に行こうね!」
「いやああ、そんなところに行ったら殺されちゃう。
こんな私じゃ足手まといだし…」
「それはお姉ちゃんに任せなさーーい!」
こうして会談に向け急ピッチで準備を進める。
闘う意思がないのを示すためミミ、リーシャ、リリー、セリーンの子供を含めた。
それにティートと子守り役としてカルン、交渉役としてティアナという顔ぶれだ。
「道案内はティート君にお任せで良いのかな?」
「お任せください。
安全なルートを行くため鬼の領地を行きます。
そこを北に抜けたさきが目的地になります」
「鬼の領地は安全なの?」
「桜華様が父上宛に通行の許可を取ってくれました。
魔物が出る可能性はありますが比較的に安全なルートです」
「なるほど。
じゃあ、早速出発しようか!」
豪華な2台の馬車が神殿の前から出発する。
前回と同じ村を通ると正体がバレて騒がれるので別のルートを通ることにした。
少し遠回りだが貴族の一行という事で誤魔化しながら歩を進める。
そして、鬼の勢力圏が近くなると進む方向を北から東へ進路を変更するのであった。
「ティート君。
獣人の国ってどんなところなの?」
「そうですね…。
国全体は深い森の中にあって中央に大きな石造りの神殿などあり周囲に多数の居住区が囲んでいます。
獣人も鬼と同様に強き者に従う習慣があります。
最低限の法律のようなものはありますが争いは真剣勝負にて決めるんです」
「どうして好戦的な人ばっかりなんだろう…」
「ですが、根は優しい者が多いですから略奪などはそこまで多くありません。
我が父が将軍の時には悪さをする輩に睨みをきかせていたそうで、今でも継続していると聞きました」
「でも、そんなふうに普通の生活を送ってるのにどうして人間と戦うのかな?」
これはタルトが常々思っていることだ。
アルマールで住む獣人、鬼族は人間と共存している。
それと同様な暮らしをしていると聞けば仲良く出来るのではと考えてしまうのだ。
「それは永きに渡る争いが生んだ憎悪でしょうか…。
幼き頃から敵だと教えられたり両親が殺された者など現状では憎しみしか産み出していません。
もし、戦がなくなり時間が経過すれば憎しみなど消えるかもしれませんね」
「その為にももっと頑張らないとね!」
魔物に襲われることなく順調に進んでいる。
途中、鬼族と思われる部隊を見掛けたので街道の安全を守っているのであろう。
そのお陰で予定より早く分岐点に辿り着く。
ここから東に向かうと鬼の里があるのだが、今回は北へと向かう。
すぐに深い森に入ったが街道が整備されており馬車で進むのには困らない程だ。
「そろそろ領地に入ります。
おそらくは周囲から監視されているはずです」
タルトはそっと周囲に魔力波を放ち索敵を行う。
「近くに10人以上はいるみたい」
「気配を一切、殺しているな。
これは我らエルフ並みだぞ」
「襲撃がないところをみると事前に訪問があることが末端まで通知されているみたいですね。
ですが、警戒は怠らずにいきましょう」
何事も起こることなく進んでいくと街道が大きな木で出来た門で塞がれており衛兵が数人立っている。
「あの門の先が獣人の国、トゥランになります」
門の前で馬車を停止させると衛兵が近づいてくる。
ティアナが馬車からおり丁寧な口調で声を描けた。
「我らは人間の街、アルマールから来た聖女一行である。
獣帝ケツァール殿と面会の約束を取り付けてある。
ここを通して頂けないだろうか?」
ひそひそと衛兵達は内緒話をしていたが位が高いと思われる一人が前に出た。
「話は聞いている。
案内を一人つけるゆえ付いて行くが良い。
不審な行動を行えば無事に帰れると思わないことだ」
「承知した。
会談が目的ゆえ大人しくするつもりだ。
では、案内を頼む」
ゆっくりと門が開き中へ進むよう促される。
少し行くと左右には家が立ち並ぶようになってきて多くの獣人がこっちを見ていた。
馬車の窓から外を覗いていたタルトだったが急にドアを開け飛び出していく。
「おい、タルト!
急にどこに行く?
変な行動で問題を起こすな!」
ティアナが止める間もなく獣人の中へと飛び込んでいった。
突然の行動にビックリした獣人達は道を開けるように避けていき問題の場所にすぐに辿り着けたのである。
「大丈夫?」
「ああ?何だお前は?」
ティアナが駆けつけると小さな男の子を抱き抱えたタルトを大きな獣人が見下ろしていた。
獣人の手には鞭が握られており少年には鎖が付いていることから奴隷のようである。
「もう大丈夫だよ。
すぐに治してあげるねー」
少年の肌には無数の傷跡があり鞭で何度も打たれたものである。
タルトは治癒魔法で傷を癒していく。
「おい、何してやがる!
俺の奴隷だぞ!
無視するなら殺すぞ!」
獣人が怒鳴り散らす中、タルトが怒りが宿る瞳で睨み付ける。
その瞬間、自分の死を意識した獣人。
絶対的な実力差の前に心臓を掴まれたかのように動けなくなった。
「さあ、もう大丈夫だから一緒に行こうねー」
そんな獣人を無視して少年を抱え馬車を戻ろうとするタルト。
恐ろしいものを見るようにタルトから距離をとっていく周囲の獣人達。
ある意味ほっとしたティアナは急ぎタルトと共に馬車に戻りその場を立ち去った。
「大事にならなければいいがな。
タルトも少しは自重してくれ」
「しょうがないじゃないですかー。
あんなの見過ごせないですよー」
「ここは獣人の国だ。
人間の奴隷などたくさんいるんだぞ」
「そう聞いてましたけど目撃しちゃうとちょっと。
いつかは皆を解放してみせますよ!」
捕まったりするかと思ったが何事も起こらないことが逆に不気味である。
やがて案内されるがまま大きな建物の前で馬車を止めさせられたので遂に目的の会談が近いと思われるのであった。
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