第236話 会食

獣人の国に来た目的はケツァールに神について知っている情報を聞くためである。

ようやく落ち着いた状況で話せる機会が来たのだ。


「最初にケツァールさんは不老不死って言ってましたがどれくらい生きてるんですか?」

「そうだな…。

もう正確には覚えていないが数千年は生きておるぞ。

天使や悪魔の寿命は知らぬが寿命の前に戦いで命を落とすものも多い。

大天使どももミカエルを除き代替わりしていると聞くから余の同程度に長命な者は数えるほどだろう」

「それだけ長く生きてるのであれば神様について詳しく知っていますか?」

「神…。

ノアールの事か…」


そう呟き何か考え込むように目を閉じる、


「あの方には永き時間の中でも謁見したのは数回のみだ。

時折、呼び出しがあり直接の指示を出される。

最後にあったのは数百年前であったか…。

名前は忘れたが人間の国を滅ぼせと命じられた」

「その…どんな人物でどれくらい強いとか…。

能力とか何でも良いんですが分かることはないですか?」

「先程、不老不死と言ったが正確には死ぬ方法もある。

その余でもあの方を目の前にすると死を感じるほどだ。

姿は暗くてよく分からぬが声からでは若く思えたが…、まあ見た目と年齢は一致せぬからの」


事実、ケツァール自身も10代後半に見えるが数千年も生きているのだ。


「最近、そなたの活躍はよぅ耳にするからな。

警戒する気持ちは分からんでもない」

「実は羅刹さんにも注意するよう言われまして…」

「ふはははは!

あの羅刹めが他人の心配をするとは焼きが回ったか!

まあ奴の娘を案じての事やも知れぬがあの方に狙われてはどうすることも出来ぬであろう。

先程の闘いから判断するにあの方には到底及ばぬ」

「えぇー…。

何か良い方法はないんですか…?」

「あるとすれば大人しくしておることだな。

これ以上、騒ぎを起こすと余にも討伐命令が下るやもしれん」

「別に目立ちたい訳じゃないんですけど…。

それでその場合は命令を受けるんですか…?」

「余はこの国を守護する責務がある。

従わねば滅ぼされかねんからな」

「一緒に戦うという選択肢は…?」

「勝つ可能性がない賭けにはのれんな。

協力を求めたければ強さや根拠を示すがよい」

「うぅ…今はとても出来ません…」

「ならば大人しくしておることだな」


期待を込めて来てみたが大した収穫もなく、どうしようも出来ない実力差を確認出来ただけである。


「そうしょげるでない。

ここまで来て手ぶらで帰る訳にはいかぬであろう。

余と情報交換せぬか?」

「情報交換…ですか?」


思わぬ提案に呆気にとられるタルト。


「そなた等は古い遺跡を探していると聞く。

その場所に関する情報を持っているのだがな」

「おお!

教えてくれるんですか?」

「勿論、タダではないぞ」

「えぇー、代わりにどんな情報が欲しいんですか?

もしかしてお金とかですか?」

「人間の金などいらぬ。

そなたに聞きたかった事があるのよ」


思い当たる事がないか思案するタルト。


「私はそんなに大した事は知らないんだけどなぁ。

それで何が聞きたいんですか…?」

「簡単な事よ。

羅刹をどう倒したのだ?

あやつとは以前、闘ったことがあるがお互いに決め手がなく決着がつかなんだ。

先程の手合わせで分かったがそなたは格闘術が素人よ。

だが、魔法で倒すにも羅刹には効かぬ。

これをどう突破したのか非常に興味があるのだ」

「あぁ、その事ですね…」


素直に答えて良いものか考え込む。

特に教えても問題はないと判断し要点だけ伝えることにした。


「えーっとどう説明したらいいのかな…。

私の魔法って皆さんと性質が違うんです」

「性質とな?」

「はい、ケツァールさんもさっき雷を操ってましたよね。

あれはどうやって出しているんですか?」

「不思議な事を問うな。

そんなもの魔力を変換させるのであろう?」

「普通はそうなんですが私は魔力を何かに変換している訳じゃなく自然の雷を発生させてるんです。

羅刹さんは魔力を無効化する事が出来るんですが自然現象は駄目みたいです」


これまでと違い少し前のめりになってタルトの話を興味深く聞くケツァール。


「ほう…そんな事が出来るのか…。

それは面白い発想だの。

自然現象とは…」

「でも、更に修行するような事も言ってましたから次は駄目だと思いますが」

「だが、面白いことが聞けた。

あやつを倒す糸口になるやもしれぬ」

「こんなんで良かったですか…?」

「ああ、とても興味深い話が聞けたわ。

では、こちらも情報を提供するとしよう。

既にいくつかの遺跡は見つけたようだから余が知っておるのはあと一ヶ所のみよ」

「それはどこにあるんですか?」

「天使の国よ。

永き人生にて一度だけ敵地の奥深くに攻めいった事がある。

その際に天使らの本拠地内の地下で見たのだ。

未だにその価値は知らぬから興味はないがな」

「天使の国って…。

そんなところに行ったら殺されちゃいますよぉ…」

「情報交換だからな。

それをどう利用するかはそなた自身が考えるが良い。

だが、有用であっただろう?」

「それはそうなんですが…」


タルトにとって天使も敵に変わりがない。

そんな場所に赴けばどれだけの被害があるか分からない。

それに最高戦力である大天使が3人もいるのだ。

はっきりいって勝てる見込みがない。

だから、この問題についてはアルマールに戻ってから仲間と相談することにした。


「今宵は有意義な会食であったぞ。

この国には好きなだけ滞在するが良い」

「あっ、待ってください!

最後にひとつだけ聞いて良いですか?」

「何でも聞くが良い」

「あのぅ…人間の奴隷って解放する事は出来ませんか…?」

「それは出来ぬ相談だな。

戦いに負けた奴等をどうしようと勝者の権利だ。

もし取り返したくば余を倒すが良い」

「それ以外に平和的な解決は出来ないですか…?」

「そなたの情報は聞いておる。

奴隷であった同胞を救ってくれた事は感謝しよう。

だが、これとは別の話だ」

「そんなぁ…。

戦い以外で解決出来ないんですか…?」

「そうだな…。

そなたが掲げる平和な世を実現出来たら奴隷を解放してやろうぞ」

「本当ですか!?

俄然やるきが出てきました!」

「その道はとても険しいものぞ。

余を倒す以上にな」

「そうかもしれませんが…。

でも、戦わなくて済むならそっちを選びます!」

「他の者の発言であれば頭がおかしくなったとおもうところだが、そなたが言うと不思議と出来そうな気がする。

せいぜい努力して余を驚かせてみせよ!」

「しっかり見ててくださいね!」


タルトは両手でガッツポーズを見せる。

その瞳からは強い決心がみてとれた。


「良い眼だ。

では、余は自室に戻るゆえ好きなだけ寛いでいくがよい」


そう言い残しケツァールは部屋を立ち去った。

残されたタルト達は集まって今後の対応を話し始める。


「当初の目的は果たせたとはいえないが他の有益な情報も得たのだ。

まあ、及第点といえるんじゃないか?」

「ティアナさんの言う通りですよ!

前向きにいきましょう!」

「どれも解決にはほど遠いんだけドナ」

「カルンちゃん、みんなで考えれば良い案も出るって!

今日は泊めてもらって明日に出発しようか」


こうして想定よりかは波瀾万丈な展開であったが無事に帰路につけそうだと安心して夢へと落ちていった。

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