第226話 妖刀

暗闇に囚われている桜華。

周囲を警戒しながらいつでも抜刀出来るよう構える。

すると目の前の闇が人型へと変化していった。


「力を求めし者よ。

汝は何故に求めるのか?」

「ああ?

何故、力を求めるかって?

そりゃ、誰よりも強くなりてえからだろ」

「何故、最強を求める?」

「おいおい、きりがねえ質問みてえだな。

何故って、そりゃあ…」


桜華はふと思った。

以前の自分であれば鬼の本能として最強を目指していたと。

だが、今はどうかといえば違うような気がする。

誰かれ構わず最強を目刺し勝負を挑んでいた時と違い本気で闘うのは目的があるのだ。

それは誰かや何かを守ろうとする為である。


「あぁー…何て言うか…守りてえものを守る為かもなあ」


再び質問が来ると思っていたが黒い人型の何かは黙ったままだ。

次の瞬間、暗闇が晴れて元の部屋の景色に戻っていったがすぐに異常が発生しているころに気付く。


「待ってましたよ、桜華さん。

どっかにいっちゃうんですもん。

心配しましたよー」


そこにはタルトがいた。

ただ、いつもと違うのは血が滴るステッキを握り愉悦な笑みを浮かべていたことだ。

タルトから目を離さず周囲を窺うと床にシトリー、リリス、オスワルド、雪恋が倒れている。

皆、血を流し息絶えていると思われた。

桜華の背中に冷や汗が流れる。


「心配って何の心配をしてたんだ?」

「それは決まってるじゃないですかー。

私の手で殺せないかと心配したんですよー」


明らかに言動がおかしいタルトであった。


「何でこいつ等を殺したんだ…?」

「何でって…クスクス。

みんなを殺せば私が最強って証明できるじゃないですか」

「おいおい、まさか刀に呪われたのか?

いい加減、目を覚ましやがれ!!」

「目は覚めてますよー。

変な桜華さんですねー。

さあ殺し合いましょう!」


タルトが凄い速さで間合いを詰めてきて桜華の脳天目掛けステッキを振り下ろす。

それはいつものように手加減したものではなく確実に殺しにきている威力であった。


「おいおいマジか!

落ち着け、タルト!

いつものお前に戻れって!」

「落ち着いてますよー。

冷静な状態で攻めないと桜華さんを殺せないですもん」


タルトの必殺の攻撃に防戦一方の桜華。


(くそ、やべえな…。

手加減なんて出来る相手じゃねえ…。

というか、本気でやっても負ける相手だぜえ)


どても重い一撃で受ける腕が痺れるかと思うほどだ。


「あはははははー!

楽しいですねー、桜華さん」

「くそ!

こんな形じゃなくてちゃんと再戦したかったぜ」


防戦しつつも気持ちの高鳴りを感じる桜華。

タルトという強者との闘いは鬼の本能を呼び起こすのに十分である。

傷つけたくないと頭で考えていても身体が本能に従い勝手に反応してしまいそうだ。

快楽に落ちてしまいそうな自分を必死に抑え込む。


「うぜええええええええ!!」


桜華は渾身の一撃でタルトを押し返し距離をとる。

そして、斬りたい衝動を抑えるように鞘へと刀を納め抜刀の構えをとった。


「ついに必殺技を出してくれるんですね!

待ってましたよー、ワクワクしちゃいますね」


タルトの挑発は無視して自問自答を静かに行う。


「最速の抜刀術ですか?

反応できずに真っ二つにされちゃいそうですねー」

「いくぜ…影桜一閃かげざくらいっせん


一気にタルトまで間合いを詰める桜華。

場所を予測しステッキでガードを固めるタルト。


「えっ!!?」


抜刀はフェイクで高速の左アッパーがタルトの顎を捉える。

綺麗に打ち抜いたと思ったらタルトも周囲の景色も消えて暗闇に戻った。


「やっぱり幻の類いだったか…。

良い趣味してやがるぜぇ」

「心を試させて貰った」


いつの間にか目の前に黒い人型の何かが立っている。


「試すだあ?

それでうちは合格だったのか?」

「我は鬼斬丸、別名を血桜と呼ばれしもの。

過去に一人の剣士に仲間を守る力を貸した。

そう、我の力は守るための力」

「そうか…だから鬼族で扱えるものがいなかったのか。

うちもあのままタルトを斬ってたら失格だったんだろ?」

「然り。

その場合はその精神が壊れていただろう」

「そりゃあ、恐ろしいこった。

破壊には力を貸さないようにってことか。

で、合格したってことは力を貸してくれるんだろうなあ?」

「真に強き者よ。

そなたの信念が変わらない限り力を貸し続けよう。

今は血塗られた名称で呼ばれるが、我が真名は百花剣ひゃくはなのつるぎ

我が力を用い笑顔の花を咲かす為に付けられた名だ」


暗闇が消え辺りは花びらが舞う花畑へと変化した。

そして、目の前には花の妖精のようなものが立っている。


「ああ、分かったぜ。

これから宜しくなあ、相棒!」


そのまま桜華の意識は遠くなっていった。


「桜華さん!

桜華さん、目を覚ましてください!」


次、目を覚ますと涙目のタルトの顔が目の前にあった。


「おいおい、うるせえぞ。

なに騒いでんだあ?」


状況がいまいち飲み込めない桜華にタルトは服を掴みグラグラと前後に揺さぶられた。


「うるさいじゃないですよー!

急に倒れて目を覚まさないから心配したんですからー!!」

「うおおお!

分かった、分かったから落ち着けって!

これで死んじまう!」


ようやく手を離してくれ自由になったので起き上がることが出来た。


「姫様、本当にどこも問題ないのでしょうか…?」


雪恋も心配そうな顔で尋ねる。


「ああ、何の問題もないぜ」

「ですが、原因となった鬼斬丸は手から離した方が良いのではないでしょうか?」


桜華は自分がしっかりと刀を握っていることに気付く。

そして、何の躊躇いもなく抜き放った。

その刀身は見る角度によって色が変化し美しい花のようである。


「この刀の名前は百花剣だ。

さっきのは使うのに相応しいか試されたみてえだな」

「すごい綺麗ですー!!

花が咲いたみたいです!」


シトリーはじっと考え込みながら刀を見ていたがあることに気付き口を開いた。


「その刀身は神の金属で出来てマスワネ。

オスワルドが持つ剣と似た魔力を感じマスワ」

「へー、そりゃ相当頑丈で折れねえって事だな。

歯こぼれもしねえんじゃ楽でいいじゃねえか。

気に入ったぜ!」


桜華はすっと鞘に納める。


「さあ、用事は済んだし戻ろうぜ。

何だか腹が減ったぜ」

「あはは、桜華さんらしいですね!

そうですね、戻りましょう!」


タルトが部屋を出ようとすると違和感に気づいた。


「ん?

この辺の床に空気の流れがありますね」


床にへばりつき隙間を見たり叩いたりして確信を得る。


「やっぱりこの下に空間がありますよ。

接着されれないので持ち上げられそうです」


タルトは怪しいと思われた床の石材を魔法で浮かび上がらせると下に続く階段が現れたのであった。

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