第227話 クローディア

タルトが床の石を持ち上げると更に下へと続く階段が現れた。


「まじかよ、こんなのうちでさえ聞いたこともねえぞ。

雪恋は何か知ってるか?」

「申し訳ございません。

宝物庫の情報は只でさえ乏しくこのようなものは一切残されておりませんでした…」

「当主の関係者でさえ知らなかったんですからすごいモノが眠ってるかもしれないですね!

何だかワクワクしますねー」


驚いてる桜華や雪恋と違い子供のようにはしゃぐタルトであった。

実際、タルトは子供なのだが。


「では宝探しにレッツゴーですよー!」

「お待ちください、お一人で先に行かれては危険です、聖女様!」

「そうデスワ、ワタクシの傍から離れてはいけマセンワ」


早速、階段を降りていくタルトと心配して追いかけるオスワルドとシトリー。

そのやりとりに苦笑しつつ後に付いていく桜華達であった。


「やっと到着ー!」


終わりの見えない長い長い螺旋階段を降りていくとやがて平らな場所に着く。

その先には木で出来た扉が一つあるだけであった。


「この中にお宝が眠ってるんですね!

どれどれ開けてみま…って、おわ!」


扉の取っ手を掴んで回そうとしたら扉が粉々に砕けた。

取っ手だけを握ったままのタルトは後ろにいる二人の方へ振り返る。


「これは私が怪力だからじゃないですよ!

それにわざとじゃないんですからっ!」


必死に言い訳するタルトであったがシトリーは床に散らばった木片を見ている。


「これは相当に丈夫な木材のようデスワネ。

これがここまで腐るとは何千年も前のものなのデショウ。

しかも、その間は誰も訪れなかったのデスワ」

「ほら、やっぱり私のせいじゃなかったです。

そんなに古いんじゃ期待大ですねー!」


元気を取り戻し意気揚々と部屋に入ったタルトであったが、一歩踏み入れただけで足が止まってしまった。


「なにこれ…?」


そこにあったのは何かの実験室のようであった。

この世界では見掛けない科学の実験室のようであり機材がところ狭しと並べられている。

また、透明で液体に満たされた筒状のモノが何本も立っており奥まで見渡せないのであった。


「これは聖女様が造られた学校の実験室に似ておりますね。

過去には今以上に栄えた文明があったのでしょうか…?」


この世界では科学技術など過ぎたものを手にすると天罰が下ると信じられていた。

古文書には滅んだ国の話も残されており多くの国で禁止となっている。

だが、タルトが推進役となり少しずつだが緩和されてきていた。


「こんなに文明が発展した逸話は残っていまセンワ。

それにここは同じくらい昔から鬼が治める土地ですから人間が住んだ事もないでしょうし、鬼族が持っていたとも考えにくいデスワ」

「だろうなあ、うちらがこんなものに興味もつはずはねえよ」

「じゃあ、誰がこんなものを…あれって…?」


タルトは部屋の奥にある透明な筒が気になった。

近づいてみると思いもよらない光景がそこにあったのである。


「みんな来てください!

この筒に人が入ってますよ!」


そう一番奥の筒だけ液体で満たされ裸の女性が漂っている。


「人間とはどういうことですか!?

聖女様、これは…ぶへっ!」

「オスワルドさんはあっち行っててください!

もう、エッチなんですから」


一番先に駆けつけたオスワルドであったが女性を見た瞬間、タルトにステッキで叩かれてしまった。


「おいおい、どうなってんだよ。

ここにいつからいるんだ、こいつは?」

「まじカヨ…。

シトリーの推測が正しいなら数千年前からここにいるってことダゼ」

「それじゃあリリスちゃん、すぐに助けないと!」

「オイ、ちょっと待てッテ!

もう少し調べてからダナ…」

「えっ!?」


リリスが止める間もなくタルトは筒をステッキで思いきり叩き割っていた。

勢いよく中の液体が溢れだし中の人物が倒れ込んで来たのをタルトは受け止め、ゆっくりと床に寝かす。


「この人物がそれほど前からここで眠っていたのであれば、どんな知識を知っているかが楽しみデスワ」

「それもそうですけど、それより息してないですけどー!!

ちょっとどうにかなるか調べてみます!」


タルトは急ぎ手を当てて魔力でスキャンを開始する。

ところが自分で思うより多くの魔力を吸われてしまった。


「おわ!?

なんですか、この感覚!」


魔力を吸われるのは初めての感覚で驚くタルト。

その直後、更なる驚きが待っていた。


「…ピ…魔力供給ヲ検知…起動…完了…魔力パターン登録…完了…正常二始動…」


急に横たわる女性が喋りだし目を開けたのだ。

そして、上半身を起こし周囲を観察するとタルトのところで視線を止める。


「魔力パターン一致…主ヲ認識。

命令ヲドウゾ」

「わっ!わっ!わっ!

見た目は人間なのにロボットなのかな?」

「ロボット…認識デキマセン。

ワタシハ魔導人形、製造番号960デス」

「魔導人形?

つまりさっき吸った私の魔力で動いてるの?」

「肯定」

「うわー、すごーい!

名前はあるのかな?

あ、私はタルトだよ!」

「個体名、タルト…登録。

ワタシハ製造番号960デス」

「えー、それは番号で名前じゃないよー。

私が付けてあげるね…どんなのが良いかな。

960…クロウ…クローディアでどうかな?」

「クローディア…ワタシハクローディア」

「そう、今からクローディアね!」


はしゃぐタルトに追いてかれている他のメンバー。


「クローディアね、じゃねえよ!

なに普通に受け入れてるんだよ!

こんな奴みたことも聞いたこともねえぞ!」


桜華がみんなを代表して突っ込んだ。


「えー、そんなことどうでも良いじゃないですかー。

それでクローディアはこれからどうするの?」

「主様ノ命令ニ従イマス」

「うぅーん、取り合えず服を着ないとね。

雪恋さん、上着を一枚借りても良いですか?」

「はっ、お待ちください。

これで宜しいですか?」


受け取った服をクローディアに着せる。


「詳しい話は街に戻ってからにでもしましょう。

ティアナさんなら何かしってるかもですよ」


素直にタルトに従うクローディアに危険性はないとみて様子見することになった。

もう他に変わったものは無い為、宝物庫に戻る。

そして、タルト達は宝物庫を後にし部屋に戻った。

もう一泊だけして街に戻ることにし、翌朝、帰る準備をしていると部屋の扉が突然開く。

そこにいたのは死闘を繰り広げた羅刹であった。


「なんだ帰るのに文句でも言いに来たのか?」

「桜華さん、普通はお別れの挨拶じゃないんですか…」

「どちらでもないわ。

一言忠告を言いに来た」


意外な訪問者に緊張が走るが敵意や戦意は感じられないことから話に来ただけであると分かる。


「忠告たあ珍しいこともあるもんだ。

で、何についてだ?」

「神に気を付けろ。

あの方は底が知れぬ」


それだけ言うと来たときと同じように颯爽と部屋を出ていった。


「いったいなんだったんでしょう…?」

「さあなあ、それもクローディアの事と含めれ街に戻ってからにでも話そうぜ。

そろそろ出発の時間だ」


色々と新しい疑問が出てきたが一旦は持ち帰ることにして帰路に着いたのであった。

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