第225話 宝物庫

翌朝、タルトが目を覚ますと部屋にはシトリーだけしかいなかった。


「おはよぅ…ございますぅ…むにゃむにゃ。

うぅ…ん!

あれ?

シトリーさん一人だけですか?」

「おはようございマス。

桜華と雪恋はもう刀を見に行きマシタワ。

リリスはお風呂でオスワルドは別室で待っておりマスワ」

「全然、目が覚めないくらい深い眠った気がします。

でも、スッキリしましたね!」

「昨日はかなりの魔力を消費されてましたからお疲れだったのデショウ。

朝食の準備もすぐにさせますのでお待ちクダサイ」


シトリーは使用人を呼びに部屋を出ていった。


「うぅーん!

みんな早起きだなー。

刀探しに私も行きたかったのにー」


起き上がり背伸びをして眠気を覚まそうとする。

その時、部屋をノックする音が聞こえた。


「聖女様、目覚められましたか?」

「オスワルドさん、おはようございます。

今、ちょうど起きたところですよー」

「部屋に入っても宜しいですか?」

「大丈夫ですよー」


扉が開きオスワルドが入ってきたがタルトの姿を見るなり時が止まったかのように硬直した。


「どうしたんですか?

急に動かなくなっちゃって」

「せ…聖女様…その…」


オスワルドの視線がある場所を向いておりタルトも追ってみる。

するとあることに気付いた。


「なっ!?」


ここでは旅館と同じように寝巻きとして浴衣が用意されていた。

寝ているときに帯が緩みさっき起き上がって背伸びした時にほどけて外れ前が全開となっている。

オスワルドの視線を辿るとほぼパンツ一枚だけの自分の姿で丸見えの胸のところでとまった。


「見ちゃダメーーーー!!」


直後、タルトの魔法に吹き飛ばされたオスワルドが廊下に転がっていった。

お風呂から戻ってきたリリスは足元に転がるオスワルドを呆れたように見下ろす。


「今度は何をやったんだ今度ハ?

ある意味、本当に頑丈な奴ダヨナ…」

「ち…違うんです…。

事故というか…」


そこでオスワルドの言葉が止まった。

リリスは足元で見上げているオスワルドからスカートの中が丸見えなのに気付く。


「ホウ…死にたいヨウダナ」

「だから、事故なんです!」


毒手を構え殺気を放つリリスに必死に逃げるオスワルド。

暫く後、朝食を囲む食卓の端っこの方にボロボロになったオスワルドの姿があった。

そこに外に出ていた桜華と雪恋が戻ってくる。


「なんだオスワルドはまた何かやらかしたのかあ?」

「もぐもぐ…えっちな人はほっといて良いんです!」

「ですから事故なんです…」


桜華が座ると同時に徳利が置かれ雪恋が酌をする。


「かぁー!

朝から歩き回った後の酒はうめえなあ!」

「それで良い刀は見つかったんですか?」

「いやあー、駄目だ。

そりゃあ、鍛冶屋も多くて腕が良い奴もいるんだが前のようにしっくりこねえ」

「姫様、あれだけの業物は見つかりませんよ…」

「だがなあ、命を預けるんだぜえ。

なまくらなんて御免だなあ。

そうだ、タルトなら魔法でちょちょいと作れねえのか?」

「うぅーん、前に試したんですが見た目はそっくりですが魂っていうんですかね。

強度や切れ味が本物に劣っちゃうんですよねー」

「そう簡単にはいかねえよなあ…」


すっと扉が開き使用人が入ってくる。

そして、古ぼけた鍵を差し出した。


「羅刹様からご伝言です。

宝物庫に眠る宝刀を使うがよい、との事です」


この言葉に桜華と雪恋が驚きの声をあげた。


「宝物庫だと!?」

「噂で聞いておりましたが入ることが許されるとは…」

「すぐに向かわれますか?」

「ああ、案内を頼む。

タルト達も行くだろ?」

「もちろんです!

みんなで行きましょう!」


使用人の案内に従い奥へと進んでいく。

暗い地下へと降りると厳重に鎖で封印された扉があった。

その錠前を使用人は鍵を取り出し重い扉を開け一行へ中へ入るよう促す。


「私はここまでです。

この先にもう一つ扉がありますのでお渡しした鍵でお開けください」

「案内ありがとな。

さあ、行こうぜ!」


桜華を先頭に先を進む。

地下のため壁は石造りであり一本道で迷いようがない。

すぐに行き止まりに着く。

そこは先程より重厚な金属の扉となっており如何にも大切な物が仕舞われている雰囲気だ。


「よし、開けてみるぜ」


受け取った鍵を差し込み廻すと中から歯車が回る音が聞こえゆっくりと扉が開いていく。

部屋は暗闇で何も見えなかったのでタルトが光の玉を出現させると見渡す事が出来た。

そこには埃を被った多種多様な武器や防具、宝が眠っていたのである。


「すげぇ…」


桜華もここに来るのは初めてでありところ狭しと並べられた武具に見とれていた。

ここには古の時代より鬼族に伝わる秘宝が眠っているのである。

どれも一目見ただけでかなりの業物であるのが分かった。


「どれもこれも売ってるものとは訳がちげえ。

ここに入った奴の話は聞いたことがねえからずっと昔に収集したもんだろう」

「そんなに凄いんですか?

見た目には分からないですねー。

それよりも埃が凄くて…えいっ!」


武具の価値が分からないタルトはあまり興味がないようで風魔法で埃を集めだした。

すると眠っていた武具や宝物が見違えるように輝きだす。


「うわああー、綺麗ですねー!

確かに街で見るのと全然違います!」

「流石は鬼族が古来から収集した宝物デスワ。

これだけでかつての勢力が伺えマスモノ」

「ワタシやシトリーは武器や防具は使ってねえケド、ここにあるのなら使ってもイイナ」


広い宝物庫の中を好きなところをウロウロと見ていると奥の中央の台座に一振りの刀が置かれているのに気付いた。


「おい、これって!?」

「ええ、間違いございません!」


その刀に気付いた桜華と雪恋の驚きは尋常ではなかった。


「二人して何に驚いてるんですか?

これを知ってるんですか?」

「あぁ…お伽噺みたいなものだがな。

その刀の紋があるが桜の花になっているだろ?」

「あっ、これですね。

これがどうかしたんですか?」

「姫様に代わり説明致します。

その昔、光と闇の勢力が今より激しく争っていた時代の事です。

一人の人間が一振りの刀を手に大勢の鬼を斬り殺したそうです。

その強者は軍を率いてこの里近くまで攻めてきましたが当時の当主によって倒されました。

その男が使っていた刀は通称、鬼斬丸と呼ばれ桜の花の紋があったと伝えられてます」

「へー、そんなに昔の刀なんですね。

桜華さんにぴったりじゃないですか」


だが、二人の顔は険しかった。


「実はこの刀は曰く付きなんだよ…。

手にしたものは廃人になっちまうらしい。

多数の鬼の怨念が取り憑いてるんじゃないかって噂だぜ。

それに刀が血に染まったさまから別名を血桜とも呼ばれる妖刀だ…」

「姫様、これはお止めください。

誰も使いこなせなかったのです。

そんな危険は冒せません!」


じっと考えていた桜華であったが両手で頬を叩き気合いをいれた。


「面白え…やってやろうじゃねえか!

強さを手に入れるのに危険は付き物だ。

それを乗り越えてこそ身に付くってもんだぜえ」


雪恋が止める間もなく刀を握り一気に引き抜く。

その刀身は薄い紅みを帯びており未だに血が付いたままのように見えた。

それも束の間、桜華は暗闇に包まれる。


「なっ!?

どこだ、ここは?」


辺りを見渡しても何も見えず目を塞がれているようである。

大声で呼んでみるが答えるものは誰もいなかった。

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