第224話 死闘の末
羅刹は心踊っていた。
ここまでダメージを負ったのも久方ぶりであり、相手が人間では初めてである。
しかも、これほど全力を尽くしてもまだ倒せてないどころか勝敗の行方も不明な瞬間もあったほどだ。
だが、今の激突で相手も相応のダメージを受けており、あれだけの魔力を消費したばかりの好機を逃すことは出来ない。
そう考えるよりも先に相手へ止めを刺すべく身体が動き出していた。
(心地よい痛みというべきか。
これ程までに全力で闘うことになるとは感謝せねばな)
攻撃に移る一瞬の間にそんなことを考えていたが直後の出来事に衝撃を受けた。
突風が起こりタルト周辺の砂ぼこりが消えると次の一撃の準備が整ったタルトの姿があった。
服は汚れてるものの傷はすっかり治癒しており、手には先程と同規模の巨大な光輝く柱のような剣を構えている。
「馬鹿なっ!?
あれだけの魔力を消費してすぐに次が準備できてるだと!!」
「隙のない二段構えなのです。
これで本当に終わりにしますよー!
エクス…カリバアアアアアアアア!!」
再び光の閃光が羅刹を襲う。
瞬時に防御体勢に移行し受け止めたのは流石であるが今度は支えきらずに直撃を受けてしまった。
激しい轟音が起こり地面が揺らいだ。
「はぁ…はぁ…もぅ限界だよぉ…。
お願ぃ…これで倒れて…」
連続での大規模な魔力消費によりタルトもかなり消耗していた。
砂ぼこりが消えかかると共に巨大な影が見えてくる。
「うそっ!?
これでも倒れてないの!?」
全身傷だらけで出血し満身創痍ではあったが羅刹は立っているのだ。
「やるな…満足のいく闘いであった…」
それだけ言い残すとそのまま後ろに倒れていった。
「勝った…のかな?」
そう思った途端、力が抜けて膝から崩れ落ち変身が解けた。
「聖女様!」
「タルト!!」
「タルト様!」
すぐに仲間達が駆け寄る。
タルトは大の字で寝転んだまま空を眺めていた。
「えへへー、私は大丈夫ですよー。
みんな大丈夫ですか?」
「倒れてるお前が心配してんじゃねえよ!
まったくおめえは本当にすげえなあ。
こんな小さい身体で倒しちまうんだから」
桜華はタルトを抱き締めた。
「うぐぎぐぐぐぅ…ぐるじぃです…桜華ざん…」
「おっ、わりぃわりぃ!
心配したんだぜい、最初の一撃目の時はぐったりしてもう駄目かと思ったぞ」
「あはは…私も死んだかと思いましたよ。
でも、リーシャちゃんに助けられました!」
そう言って手首のリボンをみんなにみせる。
「タルトは通常運転ダナー」
「ええ、聖女様らしいです。
力の源が分かった気がします」
タルトがゆっくり起き上がり羅刹の方に歩いていった。
倒れてこそいるが意識はありタルトと同じように空を見上げている。
「何をしに来た?
敗者を笑いにきたのか?」
無言でステッキを手に持ち羅刹に向ける。
「止めを刺しにきたか…。
勝者の特権だ、好きにするが良い」
動けないに羅刹に向け淡い光が降り注ぐ。
「これは!?」
なんと傷がどんどん癒えていったのだ。
「じっとしててくださいね。
もうすぐ終わりますから」
「何故、我輩を助ける?
回復すれば己が殺されるのかもしれぬのだぞ?」
「あなたはそんなことをする人じゃありません。
それに勝者の言うことはちゃんと聞かないと駄目ですよー」
「気に入った!
その心意気はどこまでも真っ直ぐで清々しいやつよ」
「それにほんというと引き分けだと思ってます。
最初で私がダウンした時に追撃を受けていたら終わってましたからね」
更に予想外の回答に羅刹は心の底から愉快になった。
「ふはははははははははは!!
面白い奴だ!
勝負は結果が全てよ。
あの時に追撃しなかった我輩の弱さよ。
だが、いつの日か再戦し真の勝者を決めようぞ」
「えぇー…それはお断りしたいですー」
こうして羅刹との死闘は終了したのである。
屋敷に戻ると使用人達は皆、驚いていた。
それも当然の事で羅刹と闘って生きても戻ったものなどいないのである。
それが一人も欠けることなく五体満足で戻ってきたのだから大騒ぎであった。
部屋も片付けられており大忙しで準備を行っている。
「会う人、会う人、全員が幽霊見たみたいに驚かれますね…」
「しょいがねえよ、強さはよく分かっただろ?」
「まぁ…確かに…。
私も死にかけましたしね…。
あれ?
でも、布団があっちに二つだけのこってる!」
部屋の端のほうにポツンと積んであった。
「ああ…あれはうちと雪恋のだな。
さすがに実の娘は殺さないだろうと思ってたんじゃねえか」
「それもそうですね。
でも、殺しそうな威力で攻撃されてませんでした…?」
「ああ、そうだぜ。
真剣勝負だからな。
親子とか関係ねえよ」
「バイオレンスな家庭ですね…」
「それよりも風呂でも入りに行こうぜ。
治癒はしてもらったが疲れちまったよ」
肉体的にも精神的にも疲れはてていた一行は文句を言うものは勿論いなくぞろぞろと風呂場へ移動した。
簡単に身体を洗いすぐに湯船へ直行する。
「ふー、生き返るぜえ!!」
「ほんとですね!
広くって最高ですよー」
「ところでタルト様、明日には出発されマスカ?
もうここには用はありまセンワ」
シトリーの言う通り羅刹の要望通り闘ったのだ。
もう、タルト達を止めるものは誰もいない。
「確かにそうですねー。
早くリーシャちゃんにも会いたいしそうしましょうか」
「なあ、タルト。
帰るのは明後日でも良いか?」
「良いですけどー。
桜華さん、他に用事でもあるんですか?
まあ地元ですから行きたいところもありますか」
「まあ、なんだ。
さっきの闘いで刀が折れちまってな。
ここでしか買えねえからちょっとみていきてえんだ」
桜華が愛用しているのは日本刀そっくりであり鬼族以外に使用してるのを見たことがなかった。
服といい日本と何か関係があるんじゃないかとタルトは不思議に思っていることの一つである。
「他では見たことないですもんね。
もちろん大丈夫ですよー」
「すまねえな。
あれだけの名刀が見つかるか分からねえんだけどな」
桜華が使用していたのはこの国に伝わっていた国宝であった。
確かに武器屋や鍛冶屋で同等のものを見つけるのは難しいだろう。
「わあ!
ご馳走がいっぱいです!」
部屋に戻るとところせましとご馳走が並んでいた。
鬼にとって強者は憧れと尊敬の対象でありタルトへの精一杯のもてなしである。
この日は食べ終わると直ぐに就寝した。
それだけ全員疲れが限界まで来てたのである。
こうして過去一番の死闘だった長い一日が終わっていった。
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