第223話 奥の手

皆がタルトの返事をじっと待つなかステッキを持ち上げ羅刹へと向ける。


「答えはノーに決まってるじゃないですか!

あなたが目指すものは私とは異なります」

「では、ぬしは何を目指す?」

「強くなくても自由に笑って暮らせる世界です」

「弱きモノが強きモノに全てを奪われても仕方なかろう。

所詮、この世は弱肉強食よ。

それこそがもっとも単純な摂理だ。

事実、人間同士でも争い奪い合ってるではないか」

「あなたが言うことも間違ってない部分もあると思います…。

でも、そんな人ばっかりじゃないんです!

種族だって関係なく仲良くしていけるんです。

私がそんな世界にしてみせます!」

「それはぬしを中心に出来る世界であろう?

しかも、強大な力をもって従わせてるのではないか?

ぬしという歯車がいなくなればすぐに元通りになるわ」


現状としてはタルトを中心にアルマールという街が存在できており、他国の協力を得られている。

羅刹の言う通り要のタルトがいなくなればバーニシア一国だけでは不十分なのだ。


「確かにそうかもしれないけど…」


この世界に来てからの事を思い返す。

繰り返し続く戦いの日々であったが沢山の人々の笑顔の記憶が次々と涌き出てきた。


「それでも人々の考えが少しずつ変わってきてるんです。

もし力で従わせてるだけでは心からの笑顔にはなりません!

まだ時間が掛かるかもしれないけど絶対にもっともっと広げて、この世界から争いをなくしてみせます!」

「笑止!

我輩の考えも変えられるとでも?

やれるものならやってみるがいい!」

「ええ、その為にも争いなしで見守ってて欲しいです。

これからあなたに絶対に勝ってみせますから約束をしてくれますか?」

「ふはははははは!!

ぬしが勝つだと?

我輩にか?

良かろう、もし勝つことが出来れば邪魔をせずにいてやるぞ」

「言いましたね!

約束ですよ!」

「くどい!

我輩に二言はない。

だが、ぬしが負ければ我が軍門に降るがいい」


タルトは少し考える素振りを見せたがすぐに真っ直ぐな眼差しを羅刹に向ける。


「分かりました。

その条件でいきましょう。

お互いに負けたときのペナルティがあって公平ですからね」

「よく言った。

さあ、どう我輩を倒すのか見せるがいい!」


再び戦闘体勢に入る二人。

そんな様子を不安げにみつめている仲間達。


「あんな約束しちまってるが大丈夫ナノカ?

桜華はこの勝負どうみてるンダ?」

「はっきり言えばタルトが勝つイメージが出来ねえ…。

結局、攻撃が当てられねえんじゃ勝ちがねえぜ」

「ですが、聖女様の攻撃が当たれば機会があるのではないですか?」

「オスワルドの言う通りうちらの攻撃とは違いアイツの一撃なら可能性はあるんだが如何せん素人だからなあ」


ただ一人、シトリーだけはタルトの勝ちを信じて表情を崩さない。


「そんな事はタルト様も百も承知デスワ。

その上で勝てると言ってるのですからそれを信じるだけデスノ」


その言葉に桜華が笑い出す。


「あっはっはっ!

確かにそうだな!

うちらの想像をいつも超えてくしなあ」

「そうですね!

我らは聖女様を信じましょう!」


先程までの不穏な雰囲気は消えタルトへの期待に満ちてきた。

その空気を壊すように羅刹が煽ってくる。


「我輩をどう倒すのか見せてみろ!

どんな技でも正面から破ってやるわ!」

「では、全力でいきますよ。

これであなたに勝ってみせる!」


タルトはステッキを高く掲げる。

その先には光輝く剣が現れたかと思いきや雷鳴が轟き雷が直撃した。

短剣のような長さだった光の剣は雷を取り込みみるみる巨大化していく。


「ぬう!

面白い、面白いぞ!

まだそんな奥の手が残っていたか」

「まだまだ大きくなりますから回避不能ですよ。

覚悟してくださいね!」


それは巨大化しているだけでなく電圧をどんどんあげていく。

並みの人間なら一瞬で炭になるであろう威力まで高め、大きさも数十メートルはあると思われた。


「それだけの大きさ…二度は撃てまい。

この一撃を耐えきれれば我輩の勝ちだ。

さあ、放つが良い!!」


闘気を練り上げ鎧のように体に纏っていく。

防御に特化した形状で魔法はもとより物理攻撃への対応も兼ねた最高の鎧なのである。


「絶対あなたに届かせてみせます!

いきますよー、エクス…。

カリバアアアアアアアアーーーー!!」


その巨大さは既に剣というよりビルを彷彿とさせる大きさまでになっていた。

それを掛け声と共に羅刹目掛け振り下ろす。

最強の盾と矛の戦いの火蓋が切って落とされたのである。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


なんと巨大な雷の大剣を両手で受け止める羅刹。

纏っている鎧により本来掴めるはずもない雷をまるで実体化されたように触れることが出来るのだ。

そして

僅かずつだが押し返しているようにも見える。


「おりゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


タルトも負けじと両手に力を込めた。

一進一退の押し合いによる激しい力の衝突は周囲に衝撃波として伝わる。


「何て衝撃波だ!

この距離でさえ立ってるのがやっとなのに聖女様はご無事でしょうか?」

「その前にワタシが飛ばされチマウ!!

シトリー、手を離さないでクレヨ!」


身体の小さなリリスは今にも吹き飛ばされそうになっており必死にシトリーにしがみついている。


「しっかりナサイ、リリス!

タルト様がもうすぐ勝利されますから頑張りナサイ!!」

「どっちが勝つでしょうか、姫様?

この一撃は決定打になりえるのでしょうか?」

「さあなあ…。

ただ、あの親父でも無事ではすまねえだろうなあ。

もし、耐えきって反撃に出られたらどう転ぶか…」


その会話中も激しい衝突は続いていた。


「ぐぬぬぬぬぬ…絶対に押し負けませんから!」

「ふはははははは!

その細腕でやりおる!!

ますますその才能が惜しいぞ!」

「この力はみんなの笑顔のために使うって決めてるんです!

絶っっっっっ対に負けませんから!!」


タルトはその一撃に全ての想いを込める。

その想いは力になり羅刹を追い詰めていった。

だが、ぶつかり合う大きな力が既に臨界を超えて爆発寸前になっている。


「おりゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


それでも一歩も譲らない両者。

次の瞬間、全てが光に包まれ世界が真っ白になった。

直後、爆音と共に強烈な衝撃波に襲われる。

全員が自分の身を守るのに必死で爆心地にいる二人がどうなったかを知る術はなかった。

辺り一面には巻き上げられた砂ぼこりで視界がきかない。


「ぬううんっ!!」


怒号と共に砂ぼこりを吹き飛ばした羅刹が現れた。


「マジカ…あの攻撃を受けて耐えきったノカ!?」


だが、そんな羅刹もあちこち傷ついており満身創痍とまでではないが何とか耐えきったという印象であった。


「良い一撃だったぞ、タルトよ!

残念だったが倒すまでは至らなかったようだな!

今度はこちらの番だ、一瞬であの世に送ってやろう!」


羅刹はまだ砂ぼこりが収まらないタルトがいた場所へと向かって突進していく。


「いくらタルトでも動けねえかもしれねえ!

ちっ、ここからじゃ間に合わねえ!」


桜華がタルトの救援に向かおうとするがとても間に合う距離ではない。

今だ姿が見えず無事かどうか不明のタルトに羅刹の必殺の一撃が迫っていた。

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