第136話 影、再び

分断された二人は周囲の警戒をしつつお互いの状況を確認する。


「タルト、聞こえるかあ?

これは罠かもしれねえ、気を付けろ!」

「聞こえてます、桜華さん!

こちらは今のところ問題ないです。

そちらに明かりがあると思いますが、ちゃんと見えてますか?」


遺跡に入ってから常にいくつかの火球を浮かべて周囲を照らしていたタルト。

桜華の近くにも出していた為、分断されても明るさが保たれていた。


「ああ、大丈夫そうだ。

タルトに頼るつもりで最近、道具は持ち歩いてねえからな。

そのまま維持を頼むぜ」

「そのつもりです。

ところで、この扉ですけどびくともしないですね」

「ああ、こっちもだ。

最初から二重で仕掛けられてたのかもな。

ただ、最初と感じる魔力が違えから別のヤツが掛けた封印だな」

「何かないか周囲を探してみますねー」


桜華も周囲を見渡す。

だが、これといったモノは見当たらない。

降りてきた階段と封印されていた扉以外には壁に刻まれたレリーフくらいだが、遺跡中にあったものと同じで特に関係なさそうだ。

一応、見落としがないように近づいて見ようとした時、遠くから足音が聴こえる。

階段を降りてくる足音は少しずつ近づいて来ており、桜華は刀に手をかける。


「ほっほっほっ、罠に掛かったようですねぇ」


黒いフードを被った人物が現れた。

シトリー達に聞いていた格好と今の台詞から敵と判断する桜華。


「てめえ…何者だあ?」

「名なんてありませんよ。

私は影の一人に過ぎません」

「ほう…やっぱりか、噂に聞いた死の王の影って奴だろ?」

「へぇ、ご存知でしたか。

影の一人が行方不明だったのですが、何かご存知ですかねぇ?」

「ああ、うちは直接知らねえが仲間がお世話したらしいぜえ。

今頃、あの世で忙しくしてるんじゃねえか」

「そうでしたか…。

ほっほっほっ!前回の封印を解いたのは貴女達のようですねぇ。

今回も含めて危険分子で間違いなさそうです」

「そりゃあ、おめえらにとっては危険分子で間違いねえな。

で、どうするんだい?」

「もちろん、消えて頂きますよ」

「分かりやすくて良いねえ!

強えって聞いてるんだ、楽しませてくれるんだろうなあ?」

「えぇ、勿論ですよ。

貴女にとって最後の闘いを舞ってください」


フードを被っており表情も目線も武器も確認できない。

構えをとらず棒立ち状態なのが、かえって不気味である。


(前回は毒を操ったらしいからな。

今、喰らったらうち一人では解毒不可だから敗けか…。

出す前に斬れば良いだけだなあ!)


相手の能力も不明ではあるが、初撃で仕留めようと出しみ惜しみせず必殺技を繰り出す。


「弐の太刀、紫電しでん!!」


棒立ち状態の影を目にも止まらぬ速度で三連撃を叩き込む。

だが、確かな手応えはあるが経験のない感触だった。


「何だあ…?

斬った手応えじゃねえなぁ…」


斬った場所のフードの下に不気味な肌が露になっている。

どす黒く鈍い光沢のあるような気味悪い色をしており、斬ったはずの傷口は見当たらない。


「その気持ち悪い肌は何なんだあ?

間違いなく斬撃は入ったはずなんだが」

「ほっほっほっ、確かに直撃しましたよ。

ですが、この強靭で弾力のある肌と筋肉にはあらゆる物理攻撃は通用しませんねぇ」

「何だとお!」

「つまり剣しか使えない貴女には永久に勝ち目はありませんねぇ」

「へぇ…そりゃあ、試してみねえと分からねえだろ!!」


再び間合いを詰め一頃に飛び込んでいく。

一撃、二撃、三撃と休む間もなく攻撃を繰り出す。

影は避ける気もなく喰らい続けており、確かに手応えはあるのだがダメージがあるように見えない。


「こちらからも行きますよ」


影の拳には金属が嵌め込まれ、攻撃と防御を兼ねた武器になっている。

防御する必要のない肉体を持ち、それを最大限に活かして防御を無視した高速の攻撃を仕掛けてくる。

速度では桜華が勝っているが、防御しながらでは二人の攻防が均衡していた。


(ちっ、一見は均衡してるようだが相手はダメージがねえ…。

さっきから斬撃が当たってるはずなんだがなぁ…。

それに比べてうちは一撃でも喰らったら圧倒的に不利だろ)


激しい刀と拳の撃ち合いが続いているが、じり貧になると感じた桜華が距離をとる為、影の腹部へ強烈な蹴りを放ち吹き飛ばす。


「ほっほっほっ。

なかなかの蹴りをお持ちで。

では、これで如何ですかな?」


吹き飛ばされたまま空中で体勢を直し、壁を利用し反動をつけて桜華へと向かってくる。

その速度が予想していたより遥かに速く反応が遅れてしまった。


(やべぇ…ぎりぎり躱せるか!?)


上体を反らし影の拳を躱そうとしたが、目の錯覚か腕がそこから伸びたように見え顔面を直撃する。


「ぐっ…」


考えるより先に本能で後方へ跳んだ事によりダメージを抑え、体勢を立て直す。


「今の速度は何だあ?

それに腕が伸びたように見えたぜえ」

「ほっほっほっ。

この肉体をバネのように利用し推進力を出すのですよ。

伸びたのは関節を外しただけですねぇ」

「そんなにベラベラしゃべっちゃって良いのか?」

「死にゆく者に教えても何も問題ありませんよ」

「けっ、言ってろ。

最後に勝つのはうちだからな」

「では、連続で行きますよ」


狭い空間の壁や天井を最大限に利用し、肉体をバネのように使い高速移動を繰り返す。

下以外の全方向から襲い掛かる影に対し、防戦一方になる桜華。


「これを避け続けるとはやりますねぇ。

でも、これでどうですかな?」


さっきまでと違い分かりやすい方向から突っ込んできたので、余裕をもって避ける。


「へっ、もうお疲れかぁ?

ん…まさか!?」


気付いた時には遅かった。

影の狙いは桜華ではなくタルトが出した炎球だった。

丁度、二つの火球が真っ直ぐに並ぶ角度からの攻撃で正確に狙い打つ。

影の拳打により火球が破壊され辺りが暗闇に包まれる。


「何も見えねえっ!」

「どうですかな?

真の暗闇は?」

「ちっ、てめえも見えねえだろ?」

「本当にそう思いますか?」


暗闇で何かが動き腹部に強烈な痛みが広がる。


「ぐはっ!?」


桜華はたまらずた片膝をついてしまう。


「私には貴女がはっきり見えていますよ。

さあ、これで終わりのようですねぇ」

「ちっ、勝った気でいやがる…。

すぐに勝機を見いだしてやるからな!」


強がってはみたものの何も思い付かない。

相手が見えず攻撃は避けれない。

こちらの攻撃は全く通じない。

今までの人生で最も絶望的な状況にあるのを理解している。

どれだけ脳内でシミュレーションしても勝ち筋のヒントも見えてこなかった。

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