第135話 サラマンダー

隠し階段を見つけ降りていく二人。

ふと違和感を感じたタルトは疑問を口にする。


「何か段々、暖かくなってきてませんか?」

「そうだなー、少しポカポカしてきたかもな。

そういうこともあるんじゃないのか?」

「普通、地下はヒンヤリしてるものなんですよー」

「何で地下はヒンヤリするんだ?」

「えっ?いや…理由は知りませんが…でも、普通そうなんですってば」

「じゃあ、凄い深いと全部凍りつくくらい寒くなるのか?」

「いや…そんなどんどん寒くなるわけでは…」


科学が進んでない世界では星という概念もなく、地下世界は洞窟くらいであり未知な部分が多い。

勿論、教育もないので地下が一定の温度が保たれているというのも、ほとんどの人間が知らないのだ。

タルトが不思議に感じたのは階段を降りるごとに気温が上がってる気がするのだ。


「あちぃ…」


いつの間にか汗だくだくの二人。

おもむろに服を脱ぎ始める桜華。


「ちょっ、なに脱ぎだしてるんですか!?」

「いや暑いしよぉ、どうせうちらしかいねえだろ。

魔物に見られても関係ねえしなあ」

「それでもダメですってば!

今、魔法で涼しくしますから服を着てください!」


タルトは二人の周囲にある空気を冷やしていく。


「おお!涼しくて助かるわあ!」

「全く…恥じらいをもってくださいね」

「さすがに他に誰かいれば脱がねえよぉ。

でも、タルトはつるぺただから見られてもいいんじゃねえか?」

「何ですってぇ!!

大きければ良いってもんじゃないんですぅ!

小さくても需要が…おや?」


からかい逃げていく桜華を追い掛けてたタルトが階段の終わりと大きな扉を見つけた。

扉の前に立ち見上げる二人。


「でけえ扉だなあ」

「前回も同じ扉があって魔法で封印されていたんですよー」

「確かタルトが封印を解いたんだっけか?」

「えぇ…一応…」


完全に滑って恥ずかしい思いをして封印した記憶が甦る。


「じゃあ、今回もさくっと頼むぜえ!」

「本当にやるんですかぁ…?」


乗り気じゃないタルト。

魔法の封印解除を桜華に期待するのも無理な話なのでやむを得ず前に出る。

記憶に残ってる一連の流れをなぞってみる。


「えっと…まずは…開けゴマ!」


最初から顔が恥ずかしさで真っ赤になってる。

少し待った後に扉をペチペチと叩いた。

その途端、扉が光り出し少しずつ開き始める。

扉の向こうから淡い明るさと顔を襲う熱風がやってくる。


「あちっ!あちゃちゃちゃっ!!

この奥からめっちゃ熱い風がっ!

クールダゥーーーーン!!!」


魔力を強め熱風を相殺する。

ようやく暑さも落ち着き奥をゆっくりと観察出来た。

中央に祭壇のようになっており扉から真っ直ぐ通路が延びている。

そこ以外の場所が何故か下から吹き上げる業火に包まれている。


「何だか凄い場所ですね…まるで地獄みたい…」

「地獄が何だか分からねえがタルトの魔法で相殺してくれねえと近づけねえな。

シトリーみたいな熱耐性が高いと大丈夫かもしれねえが…」


恐る恐る通路を進み祭壇への階段を上っていく。

何事も起きないまま祭壇の上へと辿り着く。

そこは何もない台の上である。

突然、周囲の炎が勢いを増し、一つに集まっていく。

やがて少年のようなフォルムへと変化していく。


「こりゃ、何だあ?

今度はコイツを斬れば良いのか?」

「いや…ちょっと待ってください」


前回の事を思いだしウンディーネに話し掛けたように心の中で呼び掛ける。


(あなたは精霊ですか?)


炎の少年がピクッと反応する。


(へえ…人間が俺達、精霊に話し掛けてくるなんて。

お姉さん達は何者なの?)

(私はタルト、普通の人間だよ。

もう一人は桜華さんといって鬼族なの。

私には精霊が付いてるから話が出きるみたい)

(鬼が何だか分からないけど、確かにお姉さんから精霊の力を感じるね。

あれ…この感じは?)


タルトから青い光が飛び出し女性の形へと変化する。


(久しぶりですね。

事情は私から説明しましょう)

(ウンディーネじゃん!

懐かしいなー、元気だった?)

(精霊に元気かという質問は変ですが…まあ、元気という表現で合ってるでしょう。

今はこのタルトに封印を解いて頂いて力を貸しているのです。

私が知り得たのはーーーーー)


ウンディーネはタルトと出会ってからの顛末を簡単に説明した。

会話が聞こえない桜華は待ちぼうけをくっている。


「おい、タルト!

どうなってるか説明しろよお!」

「あっ、ごめんなさいっ!

えっと、こちらはウンディーネさんの知り合いの精霊みたいです」

「ちっ、じゃあ、うちは話が終わるまで休んでるわあ」


納刀し先程、上ってくた祭壇の階段に腰掛けた。

そんな桜華を見ながら精霊同士の会話へと注意を戻す。


(ふぅーん、世界は大変な事になってんだな。

まあ、いいぜ!

俺も力を貸すよ、タルト!

俺は火の精霊サラマンダーってんだ、宜しくな!!)

(本当!ありがとう!

とっても心強いよー!

ところでここに封印されたときの事は覚えてる?)

(かなり昔の事だからな…。

確か…黒いフードを着た変なヤツが話し掛けてきて…理由は覚えてないけど騙されてここに閉じ込められた気が…)

(名前とか覚えてるかな?)

(何だったかな…影とか言ってたかな)

(死の王の影?)

(おお、そんな感じだったな!)

(やっぱり…ウンディーネさんと同じ…)

(何者なんだ?)

(それが全然、情報がなくて…。

何故かウンディーネさんやサラマンダー君のような精霊を封印しておきたいみたいで。

世界の調和の為らしいの)

(意味が分からないな。

精霊を封印しても別に意味なんてないのに。

まあ、それはタルトに付いていけば分かるだろ!

こうやって他の封印を解いていけば何処かで出会うだろうし)

(そうだね、これから宜しくね!)

(俺も一部を預けて、ここで弱まった力を取り戻すよ)


サラマンダーの身体よりオレンジ色の光が出てきてタルトの中へ吸い込まれるように消えていく。

気付けばサラマンダー自身も炎へと戻り霧散していった。


「終わりましたよー、桜華さん」

「目的は達成できたみたいだなあ」

「はいっ!

サラマンダー君の力を借りられました」

「思ったよりあっけなかったけど帰るか」


桜華はちょっと不満そうにさっさと歩きだした。

その後ろからタルトが名残惜しそうに祭壇を眺めながら追いかけていくが、桜華が扉を越えた途端、勢いよく扉が閉まる。

二人は分厚く強固な扉で分断されてしまったのだ。

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