第137話 属性付与

一方、その頃のタルトは。


「何にもないなー、通路と祭壇以外は燃えててぜんぜん見えないしー」


唯一、歩ける通路と祭壇を行ったり来たりを繰り返し細部を点検する。

だが、これといった変わった点は見つからなかった。


「桜華さん、何か見つかったかなー。

ここから出れなかったらどうしよぉ…。

そう考えたらお腹すいてきたよぉー」

『心配はご飯の事ですか…』

「どうせご飯を食べないウルには分からないよー」

『全く…これが敵の罠なら襲撃があるはずですよ』

「この部屋は密室だから桜華さんの方かな?

でも、強いから大丈夫だよね」

『相手は多数かもしれませんよ。

それに…』

「どうしたの?だまっちゃって?」

『向こうの部屋に残された炎の反応が消えました…』

「えっ!?それじゃあ真っ暗で何も見えないじゃん!

どうして…?」

『私が魔力でコントロールしてますので水を掛けたくらいじゃ消えません。

おそらく敵の攻撃かと…』

「急いでここを出ないと!!

よおおぉし、全力でドアを破壊しちゃおう!!」


ステッキを扉に向け魔力を集束させる。


『待って下さい!!

そんな威力の一撃では部屋が壊れてしまいます!

ここは地下ですから生き埋めになっちゃいますよ!』

「じゃあ、どうしたら…。

そうだ!!!

私は水と火の精霊を味方に付けたんだ!」

『一体何をされるのですか?』

「良いから見てて。

まず右手に水を…そして、左手に火を同じ魔力量に調整して…」

『まさか!』

「いくよぉーーー!!

一気にぶつけ合う!!!」


ぼしゅぅ…

………

……


「馬鹿なあああぁぁーー!!

究極の消滅呪文がああぁぁぁぁー!!!」

『マンガの読みすぎです…。

良いですか、そんなんで消滅呪文が発生するなら魔法同士の衝突で頻繁に発生してますよ』

「夢がないなぁ…どうしろって言うのよ」

『では、扉に触れてください。

組成を分析し分解できるか試してみましょう』

「こう?」


扉に手でそっと触れる。


『これは…主な成分は鉄ですが魔力で結合されています。

一種の封印のようなもので術者を倒す必要があります』

「それって外にいる敵じゃないの?

桜華さんに任せるしかないけど、真っ暗じゃさすがに…」


タルトの脳内に声が響く。


(早速、俺の出番かな?)

「もしかしてサラマンダー君!?」

(ああ、そうだぜ。

桜華ってさっきの鬼だよね?

風属性だと思うけど風じゃあ明かりにはならないからね)

「壁越しに何とかなるの?」

(ちょっと力を貸すだけさー。

近い場所にいるタルトの眷属なら一時的に違う属性を付与出来るんだぜ)

「そうなの!?

どうやればいいか教えて!」

(指示をくれれば後はこっちでやるよ)

「分かったよ!

属性付与エレメントエンチャントイグニス!」


タルトを中心にオレンジ色の光が広がる。



暗闇の中で音を頼りに何とか致命傷を回避する桜華だが、それも既に限界であった。


(やべえなぁ…巫覡からの綾波でも使うか…?

でも、暗闇で外したり効かなかったら動けなくなるこっちがやべえ…。

豪語したのはいいけどどうするか…)


次の瞬間、オレンジ色の光が通り抜け部屋が一瞬だけ明るくなる。

予想外の事に影が動揺を隠せない。


「今のは一体…?

まさかとは思いますが貴女のしわざですか?」


桜華はそれどころではなかった。

胸の内に新しい何かが宿り、今までに感じたことのない魔力の流れを受け瞬時に理解した。


「聞いてるのですか!!

貴女は何をしたのです?」

「ああ?わりぃ、わりぃ。

今のは奥の部屋にいる強敵ともであり、信頼できる仲間の仕業だよ」

「ほお!奥の部屋にいるお仲間でしたか。

何かしら助けようとしたみたいですが、部屋を一瞬明るく出来ただけみたいですねぇ。

それじゃあ、現状を打開出来るとは思えませんねぇ」

「はっ!

あまりタルトを甘く見ねえことだな。

それとうちもな」


桜華は自らの本能に従い、新しく宿りし魔力を刀に流していく。

刀身は紅く染まり炎を纏っている。

その炎が部屋を照らしていく。


「いくぜ…」

「剣など通用しないと何回言ったら…」


ザシュッと鈍い音の後に影の左腕が宙を舞う。


「バッ、馬鹿なあああぁぁ!!!」


桜華の刀から生じる炎が宙を花びらのように舞っている。


「貴様…何をした!?」

「この…おそらく一時的な借り物の力だが紅桜と名付けよう。

刀身に纏った炎により炭化させ斬るという同時攻撃にはご自慢の肉体も意味ねえようだなあ」

「腕の一本でいい気になるなよ!

今までの攻撃で既に満身創痍の貴様に何が出来るというのだ!!」

「さあ、よく分からねえが…てめえには負ける気がしねえ」

「死ねえぇ!!!」


形相を変えた影が襲い掛かるが、宙に舞っている花びらのような炎に触れるとそこから一気に炎上した。


「熱い!!

小さな炎だと油断したが、これ全部が防御壁のような役割を成しているのか!」


桜華の周囲には無数の花びらが舞い近寄れる状態ではなかった。

その間、桜華は刀を鞘に納め抜刀の構えのまま集中していた。


「四の太刀改、紅桜一閃べにざくらいっせん


影は体を通り抜ける風を感じた。

全く反応が出来ない速度で何かが通り抜けていったのだ。

見えたのは花びらが風で舞い、通り道が出来たところまでであった。

次の瞬間、桜華の姿は消えていた。

それが影が最後に見た光景であった。

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