第118話 悪魔崇拝者

驚く一同に対して一人だけ理解が足りてないタルト。


「悪魔崇拝者って何ですか?」


恥ずかしそうな顔のタルトにノルンが説明を始める。


「古来より人間は短命で魔力や力が弱いことから、天使や悪魔を崇拝するものがいるのだ。

時に過激な事件を起こす集団もいるようだ」

「そんな人が大臣だったなんて…」

「元々そうだったのか、後からそうなったかは分からないがな。

だが、年老いてから長命に憧れる者も多いそうだぞ」

「本当にお恥ずかしい限りです…。

更に調査中ですが母上の死にも関係がありそうなのです」

「そういうことデスノ。

王女を獣人に殺させることで王を誘導したのデスワネ」

「そんな事して何の意味が…?」

「それは人間の国に憎しみを蔓延させ混沌を起こす為デスワ。

必ず裏には崇拝対象の悪魔がいて色々と指示を出してイマス。

そうやって悪逆無道を行うことで堕ちた人間が悪魔となるのデス」

「そんな…人間が悪魔になるなんて…。

シトリーさん達はどうやって悪魔に?」

「ワタクシ達は純粋な生まれながらの悪魔デスワ。

第二階級は純粋な悪魔で誇り高く能力も高いノデス。

人間が堕ちてなったものは第三階級で雑魚に過ぎマセンワ」

「前にカルンちゃんが闘っていた悪魔達みたいな?」


思い返してみると町のチンピラみたいな悪魔だった記憶がある。

要は庶民と貴族のような違いなのだろうと思った。


「我ら天使も同じだぞ。

生まれながらの純粋な天使と善行を行う事で後天的に天使になる者がいる。

勿論、私は前者だぞ。

悪魔崇拝者は国の要職に入り込んで様々な事件を起こすのが多いようだな」

「マレーの脱獄も崇拝者の一味だと思われます。

徹底的に国の主要な部署で紛れ込んでいないか精査を行っております。

そして、聖女様に深い恨みを抱いているはずですのでお気をつけください。

捜索はしておりますが依然として行方が分からなくて…」

「大丈夫ですよ、サンオルクさん!

返り討ちにしてみせますよ!」

「エエ、タルト様を害そうだなんて輩は生まれてきたことを後悔させてやりマスワ」

「シトリーさん、そこまでは…」

「それともうひとつ。

聖女様、こちらをお納めください」


サンオルクは袋から宝石などで装飾された剣を取り出す。


「これは?」

「これは我が国に伝わる国宝です。

刀身は神の金属オリハルコンで出来ているそうです」

「へえー、そんな凄いもの貰えませんよー。

それに剣なんて使えないですし」

「どれ…」


ノルンが剣を抜き刀身を確認する。


「ふむ…これは間違いなく神の金属オリハルコンだな。

人間には無害だが天使や悪魔に致命的なダメージを与えるという。

かなり希少なもので見るのは数百年ぶりだ」

「貰っておきマショウ、タルト様。

大天使が襲撃した場合にも有効な対抗手段になりマスワ」

「この国に置いてあっても飾られているだけです。

それなら聖女様のお役にたてて頂きたいのです」

「うぅーん…一応、預かっておきますね。

もし、世の中が平和になったらお返しします」

「それで問題ありません。

おっと、そろそろ戻らなくては。

では、聖女様、これにて失礼いたします」


慌ただしく部屋を出ていったサンオルク。

注意を受けたが人間の集団ごときに怯えるタルト達ではなかった。

その後のパーティにも出席し、翌日に帰路に着いたのである。



場所は不明だが古風で立派な城の中にマレーはいた。


「申し訳ございません、我が君。

聖女と名乗る小娘にことごとく邪魔をされて…」


地面に擦りつけるように土下座をするマレーの前方には一人の悪魔が玉座に座っている。

その顔つきは無慈悲で残虐な性格を強調して作成した彫像のようである。

更にその紅い目で見つめられると、心臓が凍りつくようだった。


「マレーよ。

お前には期待しておったのだがナ」

「もう一度!

もう一度、チャンスを頂けないでしょうか?」

「ふむ…その聖女とやらが面白そうダナ。

その小娘が人々の新しい希望なのダナ?」

「はっ、間違いございません…」

「では、ここにつれて参レ」

「は?聖女をでございますか?」

「そうだ、二度言わせるでナイ。

出来るナ?」

「申し訳ございません!

しかし、聖女は人智を越えた魔法を操るもの。

私の手に負えるか…」

「ほう、役に立たないモノはゴミに過ぎぬ。

お前はゴミであるカ?」

「いえっ!

…承知しました…何としても連れて参ります…」

「期待しているぞ、マレーヨ」


マレーは部屋を出ると生きた心地がしない。

少し前まで一国の大臣として崇拝する悪魔の良き僕として輝いていた日々を思い出す。

それを全て無にしたタルトに強い憎悪が体を焼き付くしそうである。

その衝動に駈られ城を後にし森へと消えていった。

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