第117話 戦争終結

「サンオルクさん…?」

「聖女様に名前を覚えていただき、とても光栄です。

我が父も深く反省しておりますので、もう許して頂けないでしょうか?」


現れた青年はディアラ王の子、つまり王子にあたるサンオルクであった。

タルトとは七国会議の際に一度会った事があるだけである。

想定外の展開に回答に詰まるタルト。


「お怒りはよく分かります。

これからも悲劇が起こらないように、心を鬼にして罰をあたえようとされてるのでしょう…。

そこで私から提案があるのです」

「どんな内容の提案ですか?」


サンオルクは父であるディアラ王の方へ振り返り静かに話し出した。


「父上、お願いがあるのです。

聖女様に反省とこの国の意志を示す為に引退されて王座を譲って頂けないでしょうか?」

「なっ…お前…」

「私が王になって聖女様の指針にあった国策を進めたいと思います。

父上は獣人へ強い恨みをお持ちなので割り切るのが難しいのでしょう。

ですが、個人の事情より国の未来を考える責務が王にはあるのです。

私も母を殺された事は辛いですが、この悲しみを未来の子供達に引き継ぎたくないのです…」

「…そうだな、お前の言う通りワシは許す事は出来ぬのだろう…。

お前も成長したのだな…良いだろう、お前に引き継ごうぞ」

「父上…感謝します…。

聖女様、新しい王として差別のない国を造る事をここに誓います。

これで我が国の覚悟と意思を信じて貰えるでしょうか?」


タルトは少し思案する。


「貴方は…ポーロックですね?」

「…!?

何故、それをお分かりに?

いえ、聖女様なら当然ですね」

「手紙を頂いた時点で村の事をしっていたのは王様や大臣に近い人に限られます。

その中で私と面識があって私の方針に賛成の人は他にいないかなと」

「おっしゃる通りです。

聖女様を罠にはめようと聞きましたので、急ぎ手紙でお知らせしようと思ったのです。

それと最近、協力者も出来まして。

ヘンリーというものをご存知ですか?」

「ヘンリー…?

もしかして、学校に短期留学していたミミちゃんと仲良かった人かな?」

「そうです、歳も近いのと留学から戻ってから考えが変わって良き理解者になってくれたのです」

「そうですか…留学の本当の目的が達成されて良かったです。

知識の習得もそうですが他の人種との交流でお互いに理解しあえるようにしたかったんです」

「ヘンリーは元より勤勉でしたが更に努力するようになりました。

元奴隷の獣人を領地に受け入れたりと別人のようです」

「貴方の想いは分かりました…」


タルトはゆっくりと動けない王達に近づきステッキを向ける。

やがて淡い光が放たれ、氷で貫かれた足が癒された。


「ふぅ…ディアラ王を捕縛しました。

これで戦いは終了です!」


今までの無表情からいつも通りの笑顔に戻るタルト。

静かに見守っていた両陣営から大歓声があがる。

だが、すぐに銅鑼の音が響き再び静まり返った。

見届け役のドゥムノニア王より審判が下る。


「此度の戦争はバーニシア国の勝利で終了とする。

かの国の主張が正しいものとし、後日、敗戦国への望みと賠償を取りまとめる事とする。

また、新しいディアラ王の誕生を七国に伝達し正式に認めよう。

以上である!!!」


ドゥムノニア王の本当の目的はタルトの実力を自分の目で確かめる為であった。

想像を遥かに越えた光景を目の当たりにして、今後の方針を考える。

聖女と呼ばれる少女は能力は凄まじいが、考え方は子供で敵対するより利用する方法で間違いないと内心、確信していた。


開始から一時間も掛からず終了するという前代未聞の短さで終結した。

勝者であるバーニシアでは盛大に凱旋パレードと宴が催されたが、敗者のディアラでは王の交代もあり混乱を極めた。

また、ディアラは一連の事件について非を認め、王は引退、大臣は罷免され牢獄行きなど関係者の処罰が行われた。

さらに奴隷法の完全撤廃や厳罰化など新たな法案制定を急ぐのであった。


数日が過ぎサンオルクの正式な戴冠式が行われる為、タルトも参列することになりディアラを訪れる。

来賓室に通され、まだ時間があったのでサンオルクに個別に挨拶しようと自室を訪ねてみた。

今回の件でディアラ兵はタルトの顔を知らないものはいなく、入り口の衛兵もあっさり通してくれた。


「失礼しまーす。

おお、サンオルクさん、格好良いですね!」


そこには正装に身を包んだサンオルクがいる。

横には見覚えのある人物もいた。


「これは聖女様!

わざわざお越し頂いてありがとうございます!

あの時は勢いで言ってしまいましたが、不安で一杯でございます…」

「何を言ってる、お前なら大丈夫だ!

俺もついてるし聖女様もこうやって見守ってくれてるんだ」

「あなたは…ヘンリー君!」

「学校で助けれて頂いた時は聖女様と知らず無礼な態度で失礼しました。

今はサンオルク…いや新しい陛下を支えられるよう努力しています」

「そういえば来賓室にミミちゃんも来てますよ。

会えれば喜ぶんじゃないかなー」

「ミミが!?

まあ、俺は会いたい訳じゃないですが、あいつが会いたがってるならしょうがないですね。

ちょっと挨拶に行ってきます」


嬉しそうにいそいそと出ていくヘンリー。

タルトとサンオルクはそれを温かく見守っている。


「素直じゃないなー」

「昔からあんな感じなんですよ。

学校から戻ってからミミさんに負けないよう努力してるみたいです」

「そんな簡単にミミちゃんを嫁には出せませんぞ」

「聖女様…誰の真似でしょうか?

父親みたいなセリフですね」

「ふふっ、でも、こうやって仲良くなっていって貰えると嬉しいな」


その後、他愛ない会話が続き、やがて時間となり戴冠式が始まった。

古き王から新たな王へと王冠が引き継がれ無事に終了した。

尚、タルトの席は王より上に作られており最初は凄い駄々をこねて嫌がり、みなに説得され渋々座ったのは笑い話として伝わっている。


始めてみた戴冠式に感動をしたタルトは来賓室に戻っても、ワイワイと盛り上がっていた。

そこに式を終えたサンオルクが来賓室にやって来た。


「あれ?サンオルクさんはこれからパーティで挨拶回りするので忙しいんじゃないですか?」

「そうなのでございますが、皆様にお伝えすることがありまして…。

お恥ずかしい話ですがマレーが脱獄したのです」

「マレー…?ああ、大臣だった?」

「この国の牢獄はそんな簡単に抜け出せるのデスカ?」


同行していたシトリーが疑問をぶつける。


「シトリー様の疑問は最もです。

ですが、マレーがいた牢獄は簡単に抜け出せるようなものではございません。

誰かが手引きしたものに間違いありませんのでマレーの家を調査したところ驚くべき事が判明したのです」

「ソレハ?」

「他言しないで頂きたいですが、マレーは悪魔崇拝者だったのです」

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