第104話 家族
「森の民というくらいですから、エルフだったりします?」
タルトはティアナの方を向いて質問する。
「いや、バーニシアにエルフが集団で住んでいると聞いたことはない」
「それは私が説明しましょう。
大臣という職務上、色々と話は聞いております。
まず、住民はエルフではなく人間だと聞いております。
ただ古の時代から、かの森に住んでおり一部で不思議な力を宿す者もいるから、過去に何らかの血が混じっているのかもしれませんな。
それから、重要な事は信仰の対象がかつての女神であり、他の民族とはほとんど交易がありません」
そこでオスワルドが女神という単語に反応する。
「ゼノン殿、それでは女神の御使いである聖女様であれば、説得が容易いのではないですか?」
「それは難しいかもしれません…。
聖女様の卓越した能力はありますが、女神の御使いである証明は出来ないと思われます」
「そうかもしれないですねー。
私自身もこのペンダント以外で関連ありそうなものが思い付かないですし」
「まあ元々、独自の自治区を築いており今回の改革にも参加しないと思われますが。
それが昔からの取り決めであり、干渉をお互いに嫌っていたのです。
深い森のなかで森の恵みを得て生活している事から、いつしか森の民と呼ばれるようになったそうです」
タルトは残念そうに溜め息をつく。
「はぁ…無理強いは出来ないですし、森のなかで幸せに暮らしてるならそっとしておいた方が良いんですかねー」
「聖女様、私が新たな領主となりましたので挨拶に行くという口実で同行されませんか?
実際に生活をご覧になりご判断されては如何でしょうか?」
「おお、それ良いですね!
何か援助が必要なものがあれば、支援して友好な関係を築きたいですよー」
意見が概ね纏まったのでゼノンが会議を終わらせる。
「では、草案を纏めましたら出発という流れでお願いします。
聖女様、モニカさんはそれまで王都でおくつろぎください。
尚、訪問する際は警戒されないように少人数でお願いします。
今回は危険も少ないでしょう」
タルトとモニカを除くメンバーは、残って議会の草案作りをしている。
待っている間に初王都のモニカと一緒に観光をすることにした。
会議室を出て廊下を歩いていると、ある人物に出くわした。
「聖女様、会議は終わられたのですかな?」
「あ、はい!
他のみんなは草案を作ってくれるみたいなので、それまで観光でもしてようかと」
「ねえ、タルトちゃん。
お知り合いなの?」
「モニカさん、こちらはここの王様です」
「王…様…?
って、えええええええええええぇーー!
すいません、すいません、こんな汚い格好でぇーー」
モニカは深々とお辞儀する。
「これこれ気にすることはない。
聖女様、こちらの女性は?」
「私の家族のモニカさんです。
お姉さん的存在ですね」
「おお、それは失礼した。
聖女様の姉君とは」
「いやっ、そのっ、本当の姉妹では…。
私なんてただの庶民でして…」
「えぇ…私はモニカさんの事、お姉さんだと思ってますよぉ。
ぎゅっとされると落ち着くんですー」
タルトはモニカの腕のなかに飛び込む。
「こら、タルトちゃん、王様が見てるってっ!
すいません、王様!」
「素敵な姉妹愛ですじゃ。
それに聖女様に注意できるとは姉という存在であるのでしょう。
聖女様から見れば王も庶民も同じですから気になされるでない」
「はぁ…、何かここに来てからビックリする事ばっかり…」
「さあ、モニカさん、観光に行きましょう!」
こうして二人はゆっくりと町中を巡った。
飲食店をやってることもあり、名物はしっかりとおさえてある。
食べ歩きも終わりお土産を買った後、城に戻る前にある屋敷に立ち寄った。
そうして日も暮れる頃、戻ると草案は出来上がったようだった。
「では、この案を清書して後日、オスワルド殿にお届けしますので今日はここまでにしましょう。
今日は泊まられていかれますかな?」
「いやー、今日は帰らないといけないんです。
モニカさんも店がありますし」
「えっ、いや、そんな理由ですいません…」
「モニカさん、そんなに卑下されないでくだされ。
皆が一所懸命働かれてるから、この国は成り立っているのです。
どの職も大切ですから自信をお持ちくだされ」
「ゼノンさん…、ぜひアルマールにお越しの際はお立ち寄りください。
ご馳走させて頂きます!」
こうして一行は急ぎアルマールへの帰路につく。
町についた時は既に夜になっていた。
「では聖女様、森の民への訪問は明後日の朝としましょう。
朝にお迎えにあがります」
「分かりましたー。
誰をつれていくか決めておきますね」
一礼してオスワルドは自身の館に戻っていく。
エグバートの店にはいると時間帯的に混雑しており、ミミがてんてこ舞いになっていた。
こちらに気付くと涙目で近づいてくる。
「タルトさまぁー、モニカさぁーん。
おきゃくさんいっぱいで…いそがしくて…こころぼそかったのですぅ」
「遅くなってごめんね。
さあ、ミミちゃんが頑張ってくれた分、私も頑張らなくちゃ!
ほら、タルトちゃんも手伝って!」
モニカが戻ることで店のなかが更に活況となる。
お客も待ってたかのように次々と酒のお代わりを注文する。
今日はタルトもフロアを手伝うということで、噂を呼び客入りが増えていった。
やっと最後の客が帰った頃には真夜中である。
子供達は途中で就寝しており、タルトやシトリー、ノルン、ティアナが最後まで手伝い、閉店となったのでお風呂に入りに行った。
残されたエグバートとモニカの二人で最後の片付けをしていた。
「どうだった、王都は?」
「凄い大きかったよ。
料理も美味しいものがいっぱいあったし、この店でも出したいかな。
お父さんも来れば良かったのに」
「おいおい、誰が料理を作るってんだぁ?
まだ子供達に任せるには早えぜ」
「じゃあ、今度、お店が休みの時にタルトちゃんに連れてって貰おうか!
飛んでいくとあっという間だよ」
「はあ!?飛ぶだあ?
安全なんだろうなあ?」
「なあに、怖いのお?
あっ、それに王都で大臣と王様と話しちゃった」
「おい、王様って一番、偉いんだろお?
粗相してねえだろうな?」
「さあ…どうだったんだろ?
でも、タルトちゃんとのやり取り見てると不思議な感じだったなあ。
知ってる?王様よりタルトちゃんは偉いんだよ?」
「そう言われてもなあ…ピンとこねえな。
嬢ちゃんは嬢ちゃんだしなあ」
「ふふっ、王様にもしあったらタルトちゃんのお父さんとして紹介されるかもね。
私はお姉さんだって」
「勘弁してくれよ…いや、待てよ…。
もしかしたらモニカの嫁ぎ先も良い相手が見つかるかもな…。
貴族なら将来安泰だぜ」
「やめてよ、お父さん!
結婚相手は自分で選ぶし、私がいなくなったらお父さん一人じゃ心配よ!」
「冗談だってっ!
でもなあ、嬢ちゃんが俺らを家族か…。
聖女様って担ぎ上げられても、今日だって嫌な顔せず店の手伝いしてくれて…本当に良い子なんだよ。
どれだけ偉くなっても、俺達だけは等身大の嬢ちゃんとして接して支えてやろうぜ。
あの子はまだ普通の子供の面も持ってるんだからなあ」
「そうよね…私達がもっとしてあげられる事があればいいんだけど。
でも、タルトちゃんもリーシャちゃんもミミちゃんもリリーちゃんも皆、可愛い妹みたいなんだよね。
この店の子達も良い子ばかりで。
タルトちゃんが来てから一気に騒がしくなったよね」
「ああ、そうだな。
俺に出来ることは旨い飯を作るぐらいしかねえな」
「そうね、私も託された子供達を育てることが助けになるなら頑張らないと!」
ドアの開いた音が響き風呂上がりのタルトが入ってくる。
「どうしたの、タルトちゃん?
もう帰って寝たのかと思ったよ」
「モニカさん、今日は一緒に寝て良いですか?
勿論、リーシャちゃんたちも一緒ですけど」
「ええっ!?
そんなにベッドに入れるかしら?」
「大丈夫ですよ、私の部屋の大きいので!
ほら行きましょう!」
タルトに手を引かれてくモニカ。
その顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「しょうがない、甘えん坊ね。
ふふっ、今日はぎゅっとして離さないからね」
バタバタと出ていく二人。
一人残されたエグバートは酒をグラスに注ぐ。
「今日は旨い酒が飲めそうだぜぇ」
夜は更に更けていく。
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