第105話 恋路
森の民訪問の当日、オスワルドは自身で馬車を御しながらタルトを迎えに行く。
後ろにはタルト用の中が快適に改装された馬車が付いてきている。
神殿前では荷物の運び出しを終えて、既に待っているようである。
「聖女様、お待たせしました。
荷物を載せ次第、出発しましょう」
同行メンバはティート、ミミが立っていた。
他のメンバは依頼任務中や業務が忙しくて都合が合わなかったのと、危険も少ないと予想されたので少人数編成としたのだ。
リーシャとリリーも学校での用事があった為、留守番である。
タルトの姿が見えないと思ったら、誰かを抱えて空から降りてくるところであった。
「有り難うございました、タルト様。
あっ、おはようございます、オスワルド様」
「これはっ!?
アリス嬢、どうしてここに?」
実はモニカと王都観光中にアリスの館を訪問しお誘いしていたのだ。
アリスの両親も聖女からのお願いという事で快諾してくれた。
ゆっくりとした旅になると思い、二人の時間を作ってあげたかったのだ。
上手く誤魔化して説明するタルト。
「そうですか、危険は少ないとはいえ私や聖女様から離れないようにお願いします」
「ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いします」
「アリスさん、旅を楽しみましょうね!」
「はい、お誘い有り難うございます。
旅などしたことないので楽しみです!」
タルトとアリスは少し距離が近くなっていた。
歳が近いこともあり、気が合うのだろう。
まだ、アリスは相手が聖女ということもあり気を使っていることが多いが。
「それでは、出発します。
皆様、お乗りください!」
タルト、ミミ、アリスはタルト用の馬車で寛いでいた。
ティートは馭者の隣に乗り警戒をしている。
妹のミミと旅が久々であり、意気揚々としているのだ。
森の民が住む深い森はアルマールを出発し西に2、3日進んだところにある。
初日は順調に進み、夜営予定地の湖のほとりに夕方には到着した。
タルト達は気を使い、オスワルドとアリスを二人きりにさせ、夕食の準備中に取り掛かっている。
渦中の二人は日が沈み行く湖のほとりをゆっくりと歩いていた。
「アリス嬢、不便はないですか?」
「はい、快適に過ごさせて頂いてます。
オスワルド様は旅慣れてますね」
「ははは、これも聖女様のお陰です。
お供するのに各地を巡る間にすっかり慣れてしまったようです」
「そう…ですか。
オスワルド様にとって聖女様の影響は大きいのですね…」
「今の私があるのは聖女様のお導きです。
感謝してもしきれないくらいです。
聖女様の剣や盾としてお守りするのが使命ですから」
「もし…私の事も同じように守って…。
いえ、何でもございません」
「すいません、最初の方が声が小さくて聞き取れませんでした。
何をお話に…アリス嬢、私の後ろに」
オスワルドは湖に面している木々からただならぬ殺気を感じた為、アリス嬢を自分の後ろに下がらせた。
木々の中からゴブリン達が現れる。
(ゴブリンか…勝てるがアリス嬢を守りながらでは戦いづらいか。
背後が湖なのも地の利が悪い…。
少し歩きすぎて聖女様からも離れすぎている。
私一人で何とかするしかないか…)
「アリス嬢、ここから決して動かないように。
私がお守りしますので」
「オスワルド様もお気を付けて…」
オスワルドは剣を抜き放ち、構えをとる。
決して攻めずに襲い掛かる敵をカウンターで迎え撃つつもりだ。
攻めに行くとどうしてもアリスから離れてしまい、守ることが出来ないと思われたのだった。
ゴブリンは複数でボロボロの武器をもって襲い掛かるが、オスワルドは難なく迎撃した。
次から次へと飛び掛かるゴブリン。
オスワルドは冷静に状況を確認しながら、対応していたが少しずつ前に出てしまっていたのに気付かなかった。
目の端で木々に隠れて弓を構えるゴブリンを捉えた。
狙いはオスワルドではなくアリスである。
(しまった、いつの間にか離れすぎている!
間に合うか!?)
急ぎ後退しアリスの前に飛び出した。
放たれた弓矢がオスワルドの左肩を貫く。
「オスワルド様!!」
オスワルドは痛みをこらえ、腰の短剣を抜いて弓を持ったゴブリンに投げつける。
「大丈夫だ!
アリスの事は死んでも守る!」
「今、アリスと…」
アリスを危険に晒してしまった自分に怒りを覚え、鬼気迫る気迫を纏うオスワルド。
それを感じとりゴブリン達は動きが止まる。
この機を逃すオスワルドではない。
剣に魔力を流す。
「疾風剣!」
剣を薙ぎ払うと共に風が鋭い刃となってゴブリンを切り裂く。
魔法が苦手なオスワルドがタルトに教わって編み出した技である。
遠距離の相手を倒すことが出来るが距離が遠くなると威力は弱まる。
今回はゴブリン相手なので充分な威力を発揮していた。
仲間が次々と殺され蜘蛛の子を散らすようにゴブリン達は逃げていった。
オスワルドは緊張が解け、ガックリと力が抜け膝をつく。
矢が刺さった左肩から激しく出血しており、顔面が蒼白になっていった。
「オスワルド様、しっかりして下さい!!
今、タルト様を呼んで来ます!」
アリスは必死で走り出す。
だが、先程の疾風剣の魔力の波動を感じたタルトが探しに来る方が早かった。
「タルト様っ!
どうかオスワルド様をお助け下さい!
私を庇って重症を…」
「アリスさん、落ち着いてください。
これくらいなら直ぐに治せますから」
涙目で懇願するアリスを落ち着かせて、治癒魔法を掛け始める。
傷は一瞬で塞がり、不足した血液も生産を促し補う。
オスワルドの顔色はみるみる良くなっていき、アリスも落ち着きを取り戻した。
「聖女様、お恥ずかしいところをお見せしました…」
「何を言ってるんですか!
アリスさんを命懸けで守るなんて格好良いですよー」
「はい、とても素敵でした…」
アリスの顔は朱色に染まっている。
一人で起き上がれるようになり、やっと馬車まで戻ってくることが出来た。
ティートが警戒をしていたが、無事が確認でき、遅い夕食を食べて早めに休むことにした。
タルト達の馬車では女子会が盛り上がっていた。
「アリスさん、今日のオスワルドさんは格好良かったですね!」
「はい…お恥ずかしいですが、名前だけで呼んでくれたんです…。
それだけで胸が一杯なんです」
「わあ、凄い幸せそうですー。
うぅ、私にも幸せをー、あぁ…ミミちゃんの尻尾はモフモフして幸せぇ」
「ふわわわわあぁっ、どうしてミミのしっぽなのですかぁ!」
「ほらぁ、アリスさんも一緒に」
「ほんとです、ふわふわしてます!」
「あ、アリスさんまでぇー、ええぇーい、はんげきなのです!」
ぽふっとタルトの顔に枕が当たる。
「やったなぁー、このぉー」
ぽふっと枕が飛び交う。
「ほら、アリスさんも一緒に」
「えっえっ!」
貴族として育てられたアリスとしては、はしたなく思ったが気付いたら枕を投げ合っていた。
今まで感じたことのない気持ちが溢れてくる。
同年代の友達と礼儀も作法も忘れて遊ぶ楽しみに。
「はあ、はあ、タルト様…お願いがあるのですが…」
「はあ、どうしたんですか?
はあ、はあ…そんなにあらたまって…」
「私…学校に行きたいです…医術を習ってオスワルド様が怪我をされた時に治療が出来るように…」
「アリスさん…勿論喜んでお迎えします!」
「おふたりともミミのしっぽをはなしてださぁいよぉ…」
場所は移りアルマール。
留守番をしているリーシャとリリーがベッドの上で悩んでいる。
「リーシャのしっぽはミミちゃんのようにおおきくないしモフモフしてないです…」
「リーシャ…ぎゅっとして寝る…?」
「それだとリリーちゃんが…」
ドアが開きモニカが入ってくる。
「二人ともタルトちゃんとミミちゃんが居なくて寂しくしてるかな?
お姉さんが一緒に寝てあげるね」
布団に潜り込み二人に間に入る。
「うわぁ…モニカさん、おかあさんみたい…」
「リーシャちゃん、そこはお姉さんね…。
リリーちゃんもどう?
ミミちゃんみたいなモフモフな尻尾はないけど」
「大丈夫…ここに…おっきいのが…」
「こらぁ…胸は駄目ぇ…」
こうしてアルマールでも平穏な夜が訪れたのであった。
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