第103話 民主制

王都に着くと城へと急ぎ、衛兵に案内されて会議室に通された。

座って待っているとゼノンがいくつかの書類を片手に入ってくる。


「お早いお戻りでしたな、聖女様。

皆さんお揃いですかな?」

「ゼノンさん、お待たせしました。

急だったのにすいません」

「はっはっはっ、聖女様のお願いじゃ断れませんな」


和やかな雰囲気だが、一人だけ状況についてこれてない者がいた。

モニカである。


「タルトちゃん、ちょっと待って。

状況を整理して教えてくれるかしら?

私は店の手伝いをしていたら急に連れて来られたんだよね?」

「そうですよー。

エグバートさんに断られちゃったんで、モニカさんに声を掛けたんですよ」

「それでここは何処なの?

一体、何が始まるのか分からないけど場違いじゃない?」

「これは…聖女様、もしかして説明せず連れて来られたのですかな?

初めまして可愛いお嬢さん、私はバーニシアで大臣をしているゼノンです」

「大臣…大臣って国で偉い人ですよね…?

わっわっ、えっと…モニカです。

その…アルマールで食堂をしています」


地面に着きそうなくらいお辞儀するモニカ。


「モニカさんにはアルマールに初めて来たときからお世話になってるんです。

お姉さんというか…お母さん?」

「そうでしたか!

聖女様の母君であればモニカ様とお呼びしなければなりませんな」

「やめてください!?

タルトちゃんも変なこと言わないでよっ!」

「えぇー、でも家族だと思ってるんですよねー。

やっぱりお姉さんで」

「では、モニカさんとお呼びしますね。

私のことも気軽にゼノンとお呼びください」

「はぁ、ゼノンさん…とお呼びしますね。

礼儀作法も分かりませんのでお許しください」

「気にしておりませんのでいつも通り振る舞ってください。

聖女様も堅苦しいのは苦手のようですので」

「じゃあ、挨拶も終わったみたいなので早速、会議を始めましょう!

最初は発案者の私が説明しますね」


タルトはどこから出したのか、だて眼鏡を掛けている。


「今日、集まってもらったのはアルマールに議会を作りたいと思います!」

「タルト様、議会とは何なのでございマスカ?」

「シトリーさん、良い質問ですねー。

簡単にいうと各村から代表者を出して貰って、話し合って問題を解決していくんです。

代表者といっても村の長や有力者じゃないですよ。

誰でも立候補できて選挙で決めるんです」

「センキョとは?

大臣の私でも聞いたことがありませんな」

「選挙っていうのは住民が投票して代表を定期的に決めるんです。

それこそ、モニカさんが議員になれるかもですよー」

「私はやらないわよ!

店だって忙しいんだし」

「聖女様、ひとつ聞いても宜しいかな?」

「ジルさん、何でも聞いてください。

意見もあればいくらでもどうぞ」

「では、失礼して。

どの国でも王政で成り立っており、政は特権階級である貴族がおこっております。

それを市民主導に切り替えるということでしょう。

前代未聞の改革かと思われますが、その目的を教えて頂けますかな?」

「それはワタシも聞きたかった事だ。

エルフの里も含めて世襲制で王や長が権力者でいるのが普通だ。

長いこと旅をしたが、見たことないぞ」

「ティアナさんの言う通り、偉い人が全部決めちゃうのも良いこともあると思うんです。

でも、自分達に生活は自分達で決めていく方が良いと思うんですよ。

人種も増えれば考え方も多様になります。

お互いに想いをぶつけ合って、より良い街にしていって欲しいんです」


タルトはどや顔で解説をする。

だが、本当の狙いは事務仕事を議会に任せて自由になりたいのだ。

これに気づいたのは先に説明を受けたゼノンと、今日の言動から察したシトリーだけであった。


「でも、タルトちゃん。

普通の人に難しい政治のことなんて出来るのかしら?」

「最初は難しいかもしれないんですが、学校でも経営について教えてます。

必要があれば誰にでも特別セミナーを開いたり、最初のうちは色々フォローしますよ」

「あのー、私の領主としての立場はどうなるのでしょうか…?」


オスワルドはやや気まずそうに聞いてくる。


「その事もあるので王様やゼノンさんに相談したんです。

子爵領はそのままありますし、税もオスワルドさんに入ります。

特別自治区として一部の権限を議会に移すんです。

主には生活に関わることですかねー」

「私からも補足しましょう。

先程、聖女様からお聞きし概要だけは練っております。

まず大きな指針を聖女様、私、オスワルド殿で策定します。

その指針に外れない範囲で生活に関する決定権を議会に与えます。

勿論、予算は年に一回、予算案を議会で作成しオスワルド殿、聖女様と交渉になります。

尚、オスワルド殿は議会の一員とし発言権もあります。

詳細については追って決めていきましょう」

「新しい試みなので色んな意見が聞きたかったんです。

ノルンさんはどう思いました?」

「非常に良い考えだと思うぞ。

生まれや育ちに関係なく平等に権利がある。

それに自主的に考えさせることは不満も減るだろう」

「シトリーさんはどうです?」

「タルト様の御心のままに」

「うぅーん、モニカさんはどうです?

普通の市民としてどう感じました?」

「そうねぇ、難しい事は分からないけど面白そうね。

自分達で町を造っていくのはやりがいがある気がするわね」


この後もいくつか意見や質問が出たが、残りは詳細を詰めてからとなった。


「それでは、詳細は私とオスワルド殿、専門家も入れて詰めさせて頂きます。

聖女様も宜しいですかな?」

「問題ありません!

お二人ともお願いしますねー」

「そういえばですが、思い出した事があるのですが…」

「どうしたんですか、オスワルドさん?」

「子爵になって新しい領地が増えたのですが、その中に既に特殊な自治区があるんです。

何でもそこには森の民と呼ばれる民族がいるらしく」

「森の民?」

「ええ、独自の思想と生活習慣をしているそうです。

今回の件は普通の村は問題ないと思うのですが、ここの住民に理解して貰えれば良いのですが…」


こうして会議は思わぬ方向に向かっていった。

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