第100話 報告

流行り病も落ち着き、町には日常が戻ってきていた。

タルト、ノルンの他にリーシャ達も町に帰ってきたのでお互いに起こったことを共有する事にした。

久々に神殿の会議室に一同が揃っている。

まずはオスワルドが会議の議事録の写しから要点のみを読み上げる。


「ーーーー、以上が七国会議の報告になります。

各国の思惑は様々でしたが、敵意を感じるような国は少ないと思われます。

古来よりライバル関係にあるディアラからは顕著に感じられましたが」

「ちょっと行って、そんな不届きな国は滅ぼして参りマスワ」

「駄目ぇーーーー!!

何、物騒なことを言ってるの!?

会議で平和を訴えて来たのに。

今、議事録の中にあったでしょ!」

「残念デスワ…。

分かりましタワ、いつの日か平和的に占領してみせマスワ」

「本当に分かったのかなぁ…」


一抹の不安を抱えるタルトであった。

国家間で武力衝突なんて御免願いたいのだ。


「それにしても大盤振る舞いしたなあ!

あれだけの知識を提供するのに望みが奴隷の解放だけとはねぇ」

「それだけ酷い状況だったんですよ、桜華さん。

奴隷が酷い扱い受けるのが常識かもしれないですけど、私は我慢できません」

「アタシら悪魔も人間を奴隷にしていたヤツもいたナー。

そういう悪魔は大抵、残酷で人間をモノ扱いしてるらしいゼ」

「カルンちゃん、見かけたら止めてよー」

「あの時は気にもしなかったカラナ」

「鬼の町にも人間の奴隷はおります。

奴隷の主次第で扱いが決まっておりました。

それは人間も同様かもしれませんが」

「雪恋さんも見たことあるんですね。

この世界の人は奴隷制度に慣れすぎですよぉ…」

「そうは言ってもなあ、タルト。

戦で負ければ殺されても奴隷にされてもしょうがないんだぜ。

強者が全てを手にいれられるのがルールだからな」

「もう…私が戦のない世界を造ってみせますから。

桜華さんを暇にしちゃいますもん」

「戦が失くなったら暇になりそうだな。

まあ、今回の取引で他国でも戦いに参加出来るのは、うちにとってありがたいぜ」

「不肖、オスワルドが各国からの依頼を受けまして皆様に割り当てさせて頂きます」

「おお、頼むぜオスワルド。

うちにいっぱい回してくれよ。

いや…強敵がいそうなのがいいなあ」

「もう、桜華さんもちゃんと考えてくださいよ。

絶対、他の国に行ったときに問題起こさないでくださいね」


桜華はタルトの小言を軽く受け流す。


「分かってるって!

それよりもこっちの話だろ。

誰が話すんだ?」

「流行り病についてはご承知かと思いますから、もう一件について話しマスワネ。

リリスから説明スルワ」

「結局、詳しくは聞け出せなかったんだが、ヤツは自分を死の王の影と名乗ってヤガッタ。

今回の流行り病の元凶で小さな動物を媒介に広めたラシイ」

「死の王…それって一万年以上前の話だったのに。

まだ、生きてどっかにいるのかな?」

「サアナー、影ってやつが昔からいたのか最近、現れたのか不明ダカラナ。

でも、アイツ、身体は死体だって言ってタゼ」

「死を司る権能を持っているのかもしれマセンワ。

その場合、自身も未だに健在デスワネ」

「何者なんだろう…?

それで目的は分かったの?」

「ヤツの言葉を使うと世界の調和を保つ為だソウダ。

その意味は不明だけドナ」

「病気を流行らせて調和を保つ…?

何で急にそんなことを」


会議中、ずっと地図を眺めていたティアナがあることに気づく。


「タルト、ちょっといいか。

死の王と調査した遺跡は関係がある。

そこまではいいな?」

「初めて名前を聞いたのは遺跡ですからね」

「そうだ、その時の話では水の精霊ウンディーネを封印したのが死の王だ。

最近、封印を解いたら、その影が現れたのには因果関係があるとみて間違いない。

だから、遺跡近くの村から襲われたのだろう」

「病を流行らせてどうしたかったんですか?」

「封印を解いた事で都合が悪い何かを知ってしまったのかもな。

だから、病を流行らせて一帯を死滅させようとしたのではないか?」

「何か凄いこと聞きましたっけ?

大昔の事をちょっと聞いただけですよ」

「実はそこに秘められた事実に気付いてないのかもな。

分からない以上は議論してもしょうがないが、今後も次の影が現れる可能性はある」

「今回の失敗を知ったら当然デスワネ」

「うぅーん…取り敢えず警戒は続けましょう。

よし、会議はここまでにしてお昼を食べましょう!

エグバートさんの店に行ってモニカさんの様子も確認したいですし」


モニカも抗生剤のお陰ですっかり元気になっていた。

それに合わせて店の方も再開することにしたのだ。

タルト達はお店まで移動しドアを勢いよく開ける。


「こんにちはー!

モニカさん、大丈夫ですかー?」

「おい、嬢ちゃん!

これはどういうこったあ!?」


店に入るや否やエグバートから問い詰められる。

見れば店中に子供が溢れている。

モニカはちっちゃい子の面倒で忙しそうだ。

子供達は知らない場所に連れてこられ、不安そうな顔をしてる子が多い。

もうひとつ分かるのは子供達は耳と尻尾があり、獣人のハーフだということだ。


「わあ、やっと到着したんですねー!!」

「おいおい、喜んでないで説明しろよお!

急に商人風の男が現れて、嬢ちゃんの指示でここに届けるように言われたらしく置いてったんだよ」

「えっ?あっ、そうですよね。

この子達はこの店で働く事になったんです」

「働くって、何で店主の俺が知らねえんだよっ!?

それにこんなに沢山、入るほど大きい店じゃねえよ!」

「あっ、ちなみに神殿の横に住居付きの大店舗が間もなく出来上がります」

「そうか、なら安心か…って、違うわあ!!

何で店の転居まで決まってるんだよ!?

それにこの子達は一体、何なんだ?」


不安そうにやり取りを見つめる子供達。

その中で恐る恐るタルトに近寄る女の子がいた。

ノルンはその顔に見覚えがある。


「おや、君は…?

確か、ディアラの奴隷商のところにいた」

「は、はい…その、せいじょ様に病気をなおしていただいたどれいです。

あの時におれいのことばも言えなくて…」


すっかり元気になったようで尻尾の毛並みも綺麗だった。

子供達の中では年長者のようでタルトと同じくらいに見え、お姉さんといった感じだ。


「良かったー、元気になったんだね!

あれから酷いことされてない?

何か足りないものとかある?」


言葉よりも早く女の子を抱き締めるタルト。

頭を撫でたり耳を弄ったり、尻尾をもふもふする。


「きゃっ、あ、あの…せいじょ様…おれいを」

「お礼なんて元気な姿が見れただけで充分だよ。

それにもふもふして癒されたし」

「ここまではかいてきな旅でした。

すべてせいじょ様のおかげです、ありがとうございました」

「小さいのに偉いねえ。

これからは何の心配も要らないからね」

「それで…わたしたちはこのお店にはたらけばすれば良いんでしょうか?

助けていただいてこんな良いお店ではたらけるなんて。

どれいとしてがんばります!」

「えっとぉ…もう奴隷じゃないよ。

ここにはそんな制度もないし、奴隷なんて一人もいないよ」

「えっ?それじゃなぜ、ここに…?」

「そうだぜ、嬢ちゃん、説明してくれるか?」


全員の視線がタルトに集中する。


「そうですねぇー、説明してなかったですよね…。

まず、この子達はディアラで奴隷だった獣人のハーフの子供達です。

言葉では言えないくらい酷い扱いを受けいていたので、私が皆を買いました。

それで、ここに呼んだ理由は…この子達の生活を考えまして。

学校に通いながら、年齢の上の子は店の手伝いを。

中くらいの子が小さい子の面倒をみる。

そんな感じにしたく店も勝手に準備しちゃいました…。

最近、この店も入りきらないくらい混雑してるから大きい店舗にして一石二鳥なんて…てへっ」


タルトの説明に呆れるエグバート。

それから、子供達を見回す。


「はぁ…しょうがねえなあ。

そんな事情を聞いたら断れねえじゃねえか!

全く俺を過労死させる気か…」


タルトは先程の女の子の方を振り返り頭を優しく撫でる。


「勝手に決めちゃったけど良かったかな…?

本当は自由の身だから何処に行って好きなことをして良いんだよ。

でも、此処なら部屋付き食事付きで働けば給金もでるよ。

それに将来に向けて学校で色々と勉強してほしいんだ。

どうかな?」

「せいじょ様…わたしたちには帰るばしょもありません…。

こんなすてきな店をようい、いただいてことわる理由もありません」

「良かった~、大人になったら好きな職業に付けるよう頑張るんだよ!」

「はい、わたしはせいじょ様になおしてもらったように、多くの人をすくえる、いしゃになりたいです」

「おお、ちょうど新しい授業で医学も検討してたよー。

しっかりしてるし良いお医者さんになれそうだね」

「それにおとうとは弱いものを助けるえいゆうになりたいそうです。

ほらこっちに」


気まずそうに近づいてくる男の子。


「このまえは…ごめんなさい…」

「ほら、もう気にしないで。

お姉ちゃんを守ってたんだから偉かったね」

「ほんとうにせいじょさまだったんだね。

おれ、つよくなれるようがんばる!」


微笑ましい光景だった。

他の子達も警戒心が緩み笑顔が溢れている。

今日は店じまいをして子供達の歓迎会を行った。

夜にはこの店では手狭なので、新店舗が出来るまで神殿で預かる事にした。

大浴場でお風呂も一緒に入り、子供達にとって見たことも聞いたこともない事で溢れていた。


暫く経って店舗の準備が整うと子供達が移っていった。

調理場で料理を習うもの。

ホールで接客を習うもの。

合間に学校にも通い、様々な勉強をする。

こうして幸せな日常を手に入れたのであった。

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