第57話 作戦会議2

午後になり再び、会議室に主要メンバーが揃った。

タルトは意気揚々とした顔で椅子に座っている。


「それで聖女様、作戦は思い付きましたでしょうか?」

「はい、バッチリです!

被害を最大限に減らしても、勝利できる可能性が出てきました」

「ほう、それは興味深い。

私も長年生きているが、これほどの状況で勝利するのは聞いたことがない。

タルト殿にご教示頂きたいな」

「簡単に言いますと町の防衛で敵の主戦力を止めているうちに、別動隊で敵の大将を討ちます。

大将を失った魔物は目的を忘れ、散り散りになるでしょう」

「確かに馬鹿兄貴を倒せば、魔物達は止まるかもしてねえなあ」

「恐れながら進言しても宜しいでしょうか?」

「雪恋さん、いつでも意見を言って良いですよ。

皆で考える場なのですから」

「タルト様の案は実現するのに、大きな問題があるかと。

只でさえ少ない主戦力を分散し、残った兵力で町を防衛するなんて不可能かと…。

別動隊が相手の本陣に着く前に全滅してしまいます」


雪恋の指摘は至極、当然であった。

皆もタルトの返答に興味津々である。

それくらいは想定してるであろうから、打開策を待っているのだ。


「確かにこのままでは戦線を維持できないと思います。

策を講じるために相手を分析しましょう。

まず相手はこちらの兵力の少なさを、先日の襲撃で知っています。

だから、小細工なしで真っ向から全戦力で攻めて来るでしょう。

集めた魔物は知能も低く難しい作戦は覚えられないですしね。

次に飛行能力を持った魔物はいないことです。

ですので、この町の前に強固な防壁を5つ造ります。

この壁を絶対防衛ラインとして死守するんです」

「ナルホド、流石、タルト様デスワ。

冷静な分析でゾクゾクシマスワ!」

「あはは…シトリーさん、ありがとうございます。

ノルンさん、壁に結界の準備をお願い出来ますか?」

「それは可能だが、それほどの大規模な壁は、どうやって作るのだ?」

「それは私の魔法に任せて下さい!

あと、学校の結界もより強固にお願いします。

非戦闘員を避難させますので」

「承知した。

それにしてもタルト殿の魔法は不思議だな」

「魔法少女ですから!

奇跡を起こすものなんですよ」

「聖女様、我らはその壁を死守すれば良いんですね?」

「そうなりますね。

その為の秘策もあります、これを見てください」


タルトは机の上に少し変わった弓を置いた。


「これは…弓のようですが、初めて見る形をしていますね」


オスワルドが言うように、この世界では魔物の素材を利用した腕で引く普通の弓しか存在しない。


「これは弩弓どきゅうといいます。

これなら素人でも扱え、普通の弓より威力があります。

更に防壁上にこれを巨大化した大弩バリスタを設置します。

更に風の魔法を使える人を集めて、矢に回転を加え威力と飛距離を伸ばします。

矢を回す程度の簡単な魔法で大丈夫です。

それであれば大型の魔物でも十分、対抗出来るでしょう」


弩弓とは古代の中国やローマなどでで既に用いられた武器である。

通常の弓に比べ、飛距離、貫通力に優れており、照準も合わせやすく命中精度が高い構造となっている。

その代わり、弦は非常に重くテコの原理で引かなくてはならない。

バリスタは数十人を射抜けるほどの威力があった。


「これは素晴らしいアイデアですね!

戦闘の概念が変わるかもしれません!」

「ひとつ、約束してください。

これを人間相手の戦いで使用するのは禁止です」

「タルト様が危惧されているのは、戦がこれ以上、凄惨なものにならないように殺傷力の高いこの武器が心配なのデショウ」

「シトリーさんの言う通りです。

今回は仕方がなく使いますが、こんなものは存在しない方が良いと思うんです…」

「そのお考えは承知しました。

ですが、これで戦線を維持できそうです」

「これを使ってもそんなに長くはもたないかもしれません。

5つ壁がありますから、破られそうになったら、直ぐに後ろの壁に後退してください。

5つ目を越えられる前に、別動隊が本陣を破ります。

出来れば本番までに弩弓以外にも策を準備したいとは思うのですが」

「兵力をどう分けるんだあ?

うちは絶対に別動隊にいれろよ!

馬鹿兄貴はうちが相手をするからなあ」

「そう言うと思ってました。

別動隊は私と桜華さん、琉さん、道案内に雪恋さんで行きましょう」

「僕も最前線ですかぁ…」

「隠密スキルで誰もお前には気付かねえって!」

「だから、そんなスキルはないんですってばあ…」

「琉様、敵本陣は襲撃など想定されてないので数名の部下だけですから、ご安心下さい。

私めが皆様のご安全をお守り致します」

「そんな雪恋さんも女性ですから、僕が逆に守らないと…」

「ああ、うちはそんな事、言ってもらった事ねえぞ!」

「いえ、姉上は女性としてカウントしてないというか…」

「なんだとぉ!!」

「まあまあ、桜華さん、落ち着いて…。

それで、ノルンさん、シトリーさん、リリスちゃん、カルンちゃんは遊撃部隊として壁の外で引っ掻き回して下さい。

ティート君も獣人部隊を率いて遊撃です。

決して無理は駄目ですよ!」

「承知した」

「お任せクダサイ」

「やっとワタシの出番ダナ。

この前は不在だったから楽しみダナ」

「ダナ、アタシ達に任せときな!」

「俺が部隊を率いる…。

お任せ下さい!父にまた一歩近づけるよう努力します!」

「オスワルドさんは城壁の上で指揮をお願いします」

「はっ、力不足で申し訳ございません。

与えられた役目を全うします!」


ここで端に座っていたミミが手をあげた。

午後からの会議にはリーシャ、ミミ、リリーとジルニトラも呼ばれていた。


「タルトさま、ミミもなにかおてつだいしたいのです!」

「リーシャもがんばります!」

「三人には城壁上で情報を集めて欲しいの。

結界や壁の情報をすぐにジルさんに伝えてくれるかな?」

「はいなのです!」

「わかりました!」

「ん」

「それでジルさんには後退のタイミングを見極めて欲しいんです」

「ほっほっほっ、それは重要なお役目ですな。

こんなジジイで良いのですかな?」

「はい、年長者であるジルさんは冷静な判断が出来ると思います」

「そこまで信じていただけたら断れませんな。

出来る限り尽力しましょう」

「ありがとうございます!

壁は私とノルンさんで準備します。

あとの皆さんは弩弓の設計図を渡すので、作成と弩兵の練習を指示してください。

細かい部隊編成はオスワルドさんにお任せします!

シトリーさん達は交代で空から監視をお願いします。

まだ時間はあると思いますが、敵の情報は常に収集しておきたいです」


タルトの指示のもと、期待を胸に部屋を後にするメンバー達。

最後にタルトと桜華だけが残っていた。


「本当にこれで良かったのか?

うちのせいで犠牲者が出るのはなあ…」

「桜華さんはもう家族の一員です。

助け合うのは当然ですよ!

それに犠牲者が出さないための作戦です」

「本当にスゲエなあ。

あの状況からここまで盛り返せるんだからな。

こりゃあ、ひとつめの壁を越えられる前にうちらが馬鹿兄貴を倒すしかねえな!」

「はい、頑張りましょう!!」

「お前に出来るって言われると、本当に出来る気がするぜ。

よし、技の修練に行ってくる!」


桜華も出ていったあとタルト一人が残った。


「これで良かったのかな…。

私の立てた作戦で本当に大丈夫かな…」


自分の作戦で町全体の命が懸かってると思うと、重圧で潰れそうであった。

説明してるときも本当は足が震えて、直ぐにも逃げ出したい気持ちでいっぱいだったのだ。

今でも手が震えたままだ。

椅子の上で体育座りのような体勢で顔を埋めて、気持ちを落ち着けさせようとした。


「やっぱり一人で抱えていたか」

「思った通りデスワ」


声の方を向くと部屋を出ていったメンバーが入り口に立っていた。


「みんな…どうして…?」

「タルト殿が何か抱えてることは分かっていたぞ」

「足が震えていたしなあ。

うちが出たら皆が部屋の中の様子を伺っててな。

家族は助け合うものなんだろ」

「タルト様の不安は全員で分けあいマスワ」


リーシャがタルトの元へ走っていき、胸に飛び込んだ。


「なにかあれば、リーシャもいっしょにあやまります。

だから、げんきだしてください」

「リーシャちゃん…。

皆もありがとう!これからは一人で抱えず相談しますね!」

「このオスワルド、聖女様のお側に何時でもおりますぞ!」

「いや、それは結構です。

丁重にお断りします」

「なぜ、私だけ拒否なのですかぁーーー」

「ふふふ…あはははは」


タルトの気持ちは軽くなった。

よき仲間、家族に支えられ、その絆を感じることで。

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