第56話 作戦会議1
翌朝、タルトが目を覚ますと腕の中にリーシャが寝ている。
昔の経験から一人で寝るのを怖がったので、腕枕で寝るのが習慣となったのだ。
ミミが来てからはタルトの腕枕は交代制となっている。
最初は恥ずかしがったミミだが、そのうち甘えるようになったのだ。
恥ずかしさと甘えたい気持ちが葛藤する微妙なお年頃なのだろう。
呼吸をすると息が当たるのか耳がピクピク動いている。
後ろにはミミがピッタリくっついており、寝息と温もりを感じた。
ミミの尻尾を抱き枕にリリーが寝ている。
いつも四人で同じベッドに寝ている。
人数が増えるごとに拡張され、現在はキングベッドサイズだ。
子供四人なので広々使えている。
リーシャの頭を撫でると尻尾がユラユラと動く。
(うっ、か、可愛い…。
息を吸うとリーシャちゃんの香りがぁ…)
『マスターは拍車をかけて、変態になっていきますね…』
(う、うるさい!
昨日はハートブレイクしていたから、癒しが必要なの!)
『全く…』
(あぁ…なんて、可愛い寝顔…。
ミミちゃんやリリーちゃんも可愛いけど、リーシャちゃんが一番かなー。
うぅーん、小さな唇が目の前に…ここは、優しく目覚めのキスを…)
タルトが息を荒げたので、リーシャの耳に直撃し、くすぐったそうにもぞもぞ動いている。
「…ぅ…ぅん…タルト…さま?」
「わわわ、り、リーシャちゃん、おはよう!
け、決してやましい気持ちがあったんじゃなく、寝顔を見てただけだからっ!」
「…??。
よくわからないですが、だいじょうぶですか?」
昨日から心配してくれているのだ。
リーシャ達は自分達で出来ることを頑張っているのだ。
そんな気持ちが嬉しくてぎゅっと抱き締めた。
「もう…大丈夫だよ。
心配掛けてごめんね…」
「むふぅ…げんきになってよかったです…」
「うぅん…タルトさま、おきたのですか?」
「ミミちゃんもおはよう。
ずっと側で暖めてくれてたんだね」
「タルト、おはよぅ…」
「リリーちゃんもありがとうね、
皆のお陰で元気いっぱいになったよ!
今日も1日頑張るぞい!!」
タルト達は顔を洗ってから、朝食を食べた。
その時にすでに会議が始まっていることを聞いた。
シトリー達がタルトに負担をかけまいと、気を使って声を掛けなかったのだ。
だが、すっかり元気を取り戻したタルトは急いで会議室に向かい、勢いよくドアを開けた。
「なっ、タルト様!
まだ、お休みクダサイ」
「そうです、聖女様。
ここはこのオスワルドにお任せ頂き、養生しててください!」
「そうだな、昨日の今日だ。
タルト殿はもう数日、休んでていいのだぞ」
シトリー達は心配そうな面持ちで見つめている。
「タルト、もういいのかあ?」
桜華だけは期待の目で見つめている。
「はい!!
すっごく心配かけましたが、もう大丈夫です!
残り少ない時間で出来る限り頑張りましょう」
「そうか、いつもの目をしてやがる!
うちのせいで面倒かけるが、宜しく頼まあ!」
「あの二人、何かあったのカシラ?」
シトリーは二人のやりとりに何か違和感を感じていた。
桜華が町を出たことは秘密としていたのだ。
「確かに大丈夫そうダナー。
タルト姉がスゲエ落ち込んでるって、聞いたから見たかったんダガナー」
「カルンちゃん、少しは心配してよっ!
もう…取り敢えず、分かってる情報を教えてもらえますか?
ちょっと整理してみましょう」
「それでは、私めが改めて説明させて頂きます。
大将の藜様の目的は姫様の奪還です。
勿論、素直に聞くわけもありませんから拠点としているこの町を滅ぼそうとしています。
数名の部下を連れていますが、本隊は下位の鬼の種族を集めて、総数は二万に上ると思われます」
「今朝、ワタクシ達が空から確認しましたが、現時点でも一万は越えていそうな魔物の群れを発見シマシタワ」
「魔物の種類としてはゴブリン、牛鬼、サイクロプス、ギガンテスが確認されました」
「ゴブリンは見たことあるんですけど、サイクロプスとギガンテス、牛鬼って、どんな魔物なんですか?」
「格下順に言いますと牛鬼は大きさはゴブリンキングほどですが、大きな角を二本持っており突進の威力は驚異ですね。
サイクロプスは大きな目が一つあるのが、特徴で5メートルくらいあります。
大きさの割には俊敏ですのでご注意ください。
最後にギガンテスですが、名の通り10メートルくらいの大きさです。
動きは遅いですが、一撃の威力は計り知れません。
どれもゴブリンと同様に知能は高くありませんが、正攻法で正面から攻めるだけで十分な戦力でしょう。
普通の人間では、どれも太刀打ち出来る相手ではないのです」
「確かに強そうですね。
こちらの戦力はどうなってます?」
「それは私から説明しましょう」
オスワルドが立ち上がり、テーブルに広げた地図を指差しながら説明を始めた。
「これは我が領地の全体図になります。
敵はこの町から離れたこの辺に集結しております。
領土内より兵士、自警団を集めてますが千人に満たなさそうです。
しかも、先程説明した通り戦力になるかどうか…。
一部は獣人もおりますので、こちらは戦力になるかと。
主戦力はここにおられるノルン様、シトリー様、リリス様、カルン様、桜華様、琉様、雪恋様、ティート殿になります。
王都に援軍を依頼しましたが、二週間では間に合わないでしょう」
「確かに厳しい状況ですね…」
「この戦力差で更に厳しくしているのが、勝利条件だな。
主に2つで桜華殿の奪還阻止、町の防衛だな。
総員で当たっても、5分と持たず突破されるだろう」
「ノルンさん、死者を出さないのも大事だよ!」
「そうはいうが、タルト殿。
これだけの戦力差で町を防衛しながらだぞ。
戦で死者が出るのはやむを得ないこともあるのだ」
「ノルンさんの言いたいことは、今回で痛いほど痛感しました…。
戦いって命懸けですもんね…。
でも、なるべく死者を出さないような作戦を取りたいと思います」
「何か良い案でもあるのか?
先の陽動を受けたときに思ったが、個々の能力は高いが、軍として動いたり作戦を立てたりする人材が不足しているな」
「いわゆる軍師ですね。
直ぐに見つけるのは難しいですので、今回は私が立案します。
少しだけ時間を下さい、午後までに今の情報から考えますので」
「聖女様の仰せのままに。
それまでに装備の準備など出来ることを進めておきます」
朝の会議はお開きになり、午前中は各々が思い付く範囲で出来ることを進めた。
装備の準備、偵察、兵の鍛練など様々だ。
タルトは自室に一人でいた。
(どう思う、ウル?)
『はっきり言えば詰んでますね。
戦力差がありすぎます』
(そうだよねー…。
武器が剣とか弓だし、魔法も多少使える程度だし。
マンガや小説に出てくる異世界人って、何なのっ!
皆、実は超人なのっ!
あんなの普通の人間が勝てるわけないじゃん!
化け物の一撃を剣や盾で受け止めるって、どんな筋力してるのよ!
キン肉バスターとか出来ちゃうんじゃないの!)
『久々に荒れてますねー。
見事な連続ツッコミですよ』
(そんな誉め言葉要らないからっ!)
『さて、どうするんですか?
あれだけ豪語したんですから。
ミサイルでも作りますか?』
(そういうのは禁止ーー。
今回は良くても将来、人間同士の戦争で使われたら被害が凄いことになっちゃうよ…。
だから、火薬は開発禁止ーー)
『それは間違いないでしょうね。
科学の発展は滅亡に向かう可能性を秘めていますからね。
いずれ核兵器も作られるでしょう』
(そんな世界やだよ…。
教える知識は制限しないとね)
『では、どうするのですか?』
(うぅ~ん…昔の人って、どうやって戦してたの?
長生きしてるなら色々知ってるでしょ)
『そうですね…確かに、戦力差を覆して勝利した記録は沢山あります。
相手は同じ人間ですけどね。
私は何でもじゃなくて、知ってることだけですよ』
(どっかの委員長みたいな言い方だね!
それは良いとして、過去の記録にヒントはありそうだよね)
『時間稼ぎくらいであれば、何とかなりそうですが…』
(この前の襲撃の時、ゴブリン達は命令に従ってたんだよね?)
『知能は低いようですから、陽動なんて作戦は立てられないでしょうね』
(でも、ずっと命令に従う事出来るのかな?)
『どういう意味ですか?』
(本能に従うなら、命令してもすぐに忘れちゃいそうだよね。
桜華さんを殺しちゃう可能性もあるし)
『確かにそうですね…。
藜という者が何かしらの縛りを常に掛けてるのかもしれません。
それであればチャンスがありそうです!』
タルトとウルは時間ギリギリまで脳内で話し合った。
僅かだが光明が見えてきたのであった。
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