第39話 モンスターハンター1

一方、タルト達が出発した後のアルマール…


居残り組の桜華、リリス、カルンの三人はエグバートの店に集まっていた。


「暇ダナー、リーシャも連れていかれたシナー…」

「うちら上手いこと騙されたんじゃないか?

お土産を買ってきて貰うのは良いんだが…何か失った気がするんだよなー」

「ワタシもそう思うンダ。

行った方が良かった気がスルンダヨ」


……


三人は無言で考え込んでいる。

そこで横から口を挟む者がいた。


「王都まで行ってれば、いっぱい食べて飲んでからお土産を買うことも出来ましたよね。

姉上達が言いたかったのは、そういうことですよね?」


……


「「「それだ・ダ!!!」」」


空気が読めない琉である。

というか存在を忘れられた空気のような琉であった。


「そんな事に何故、気付かなかったンダ?」

「味見してから好きなものを買ってくる事も出来たノニ…」

「おい、琉っ!

何であの時言わなかったんだっ!

お前分かってて黙ってたのか?」

「お待ちください、姉上っ!

あれですっ、えぇっと、その…。

寛大な姉上ですから、快くお譲りしたのかと!」

「むっ…、まあうちは心が広いからな。

そんな小さいことには拘らない…のか?」


小さい頃からで姉の扱いは慣れていた。


「カルン、コイツちょろいゾ…」

「なんか別にどうでもよくなってキタナ…」


三人に重い空気が流れた。


「ところで琉は何で此処にいるんだ?」

「僕は駄目なんですかっ?

一応、弟なんですが…。

まあ、いいですけど…。

今日、来たのはお願いがあるからなんです」

「お願い?

何でお前のお願いをうちらが聞かないといけないんだ?」

「いやっ、私ではなく民からの依頼です。

タルト様から自警団や兵だけで対応できない場合は対応をお願いされてるんですよ」

「タルトからの依頼じゃ断れないな!」

「即決ですか、僕の場合は聞いても貰えなかったのに…」

「男のクセに細かいことを気にするな!

で、どんな依頼だ?」


納得出来ない琉であったが、しぶしぶ依頼内容を説明することにした。


「目安箱に来ていたのは畑を荒らす魔物の討伐依頼です」

「イイネェ、丁度アタシ達も暇してタンダ」

「何を倒せばいいんだ?」

「どうもロックスコーピオンが群れで現れたみたいですね」


ロックスコーピオン。

岩石のような固い皮膚を持ち、群れで行動する魔物だ。

尻尾や鋏に猛毒を持つ厄介な相手である。

一匹だけなら十人のハンターで倒せるが群れで現れると手に負えない。

だが、人の生活圏に滅多に現れる事もなかった。

基本的にテリトリーから移動することがないからだった。


「相手にとって不足はねえな!

よしっ、すぐに出発だ!」

「馬車を外に待たせております。

準備が出来ましたらいきましょう」

「非常食でお菓子を持ってイクカ」

「ソウダナ、モニカに弁当を頼むカ」

「酒は必須だな。

モニカ、とっくりを何本か頼む!」

「飲食から離れてくださいっ!

遊びに行くんじゃないんですよ!」


琉の愚痴も無視してしっかり準備をして、馬車に乗り込んだ。


「タルト様、僕ではこの人たちの面倒をみる自信がありません…」


琉の独り言は吹き抜ける風に消えていった。


途中の村で一泊して、馬車は目的地にたどり着いた。

すぐに村長が出てきて応対をしてくれた。


「お待ちしておりました。

皆さんのお力で村をお救いください!」

「ロックスコーピオンくらい朝飯前だぜ!

うちらに任せときなっ!」

「あちらに自警団がおりますので、まずは話をお聞きください」


村長に案内され自警団の詰め所に行くことにした。

そこには傷付いたり、毒に冒された自警団がいた。


「これはヒドイナ…。

リリス、治せるカ?」

「ソウダナ…、毒は中和出来るがタルトみたいに傷は治せネエナ」


リリスは一人一人に触れて毒を中和していった。

そして、傷薬を精製して傷口に塗り包帯を巻いた。


「ワタシに出来るのはこんなモンダ。

後はタルトが帰ってきたらお願いスルカ」

「リリス様、これだけでも十分に楽になりました。

自警団の代表としてお礼申し上げます」


自警団のリーダーは深々とお辞儀した。

治療したとはいえ、他の者より傷は深いように見える。

リーダーとして最後まで応戦した証拠だろう。


「それでヤツラはどこにいるんだ?」


珍しく桜華はイライラしていた。

弱肉強食という魔物のルールは理解しているが、身内を傷つけられて自分では気付かない内に怒っていたのだ。


「ロックスコーピオンは朝になると、畑を荒らしにやって来ます。

今日はお泊まりになって、明日の朝にご案内します」


村にある唯一の宿に泊まることにした。

夜は村人達が歓迎会を開いてくれた。


「明日はうちらが一匹残らず退治してやるからな!」


既に桜華はほろ酔いになっている。


「皆様のお噂は聞いております。

一騎当千のお力をお持ちとか」

「うちにとっては昔は戦いと酒が全てだったんだ。

今はこうして仲間と飲むのも同じくらい好きになったがな。

それにしても、うちらの事が怖くないのかい?」

「この村には初めてきたから、鬼や悪魔を見るのが初めての者もいるんじゃナイカ?」

「ご心配はいりません。

恐怖心が全くなかったと言えば嘘になります。

ですが、先ほど一生懸命に怪我人の治療をして貰ったり、私達の為に怒りを感じて頂いたのを見たらすっかり消えてしまいました」

「そうか…気に入ったぜっ!

今日はとことん飲んで腹を割って話そう!

うちらは種族なんて関係ない仲間なんだからな」


桜華も人間の町に住み始めた頃は、怯えられたり罵声を浴びせる者もいるだろうと思っていた。

それが何日たってもそんな人間はおらず普通に接して来ることに拍子抜けした。

あらだけ殺し合いをしたはずなのにだ。

実際に桜華自身も人間を斬ったことは沢山ある。

無差別な殺人ではなく勿論、戦の中で戦士と呼べる相手だけだが。

そんな自分を簡単に受け入れてくれたのが、嬉しく家族の一員になったように感じた。

それがタルトが目指してるものだと思い、自分自身でもそれを目指したいと思えるようになった。

今日のように村人が傷つけられるのは、それを壊されるようで怒りを感じたのだった。


「リリス様の治療で痛みが失くなりました。

これなら私も明日は参加したいです」

「オイオイ、完治はしてないんだから大人しくシテロ。

タルトならあっという間に治せるんダガナー」

「いえいえ下手したら死んでいた者や腕か足を切らなきゃいけない者もいたはずです。

素晴らしい力をお持ちですよ」

「リリスも薬の精製が出来るようになって良かったナ」


カルンもリリスが誉められて嬉しそうだ。


「それにしてもリリス様もカルン様も私より年上とは…。

こんなに幼く見えるのに」

「悪魔は長命ダカラナ。

カルンは心が成長してないんダヨナー」

「ナンダト!

リリスも似たようなもんダロ!」

「ワタシは既に大人ダカラナ」

「何を胸が全くないクセニ」

「まあまあ、お二人ともお美しいですから落ち着いてください」


宴会は盛り上がり夜遅くまで続いた。

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