第38話 歓迎パーティー

謁見後、既に夕方になっていたが続けて立食パーティに招かれた。

パーティには貴族や各町の有力者、商人などが参加しており、大広間には人が溢れている。

広間に入る前にゼノンから注意を受けたことがあった。


「貴族や有力者の中には、聖女様の方針を良く思っていない勢力がおります。

今日は陛下の御前ですから下手なことはしないと思いますが、お気をつけください」


タルトもそれは理解できた。

元の世界でも宗教の問題は複雑で理屈では解決できないものである。

何百年も続いてるものを急に否定する者が現れれば反発は起こるものだ。

それが真実でどれだけ正しくても。

事実、進化論や地動説も最初は非難され迫害を受けたのだ。


「大丈夫ですよ!

何でも一人から始まるんです。

後は集まった人で議論してより良い方向へいければ良いんですよ」

「要らぬ心配だったようですね。

では、パーティをお楽しみ下さい」

「心配ありがとうございます。

行ってきますね!」


王が開始の合図を告げるとパーティが始まった。

人々は噂の聖女一行に群がっていた。

シトリーの周りにはには若い男性が多い。

ノルンは若い女性が多い。

噂では整った顔立ちで男装も似合いそうだと若い女性の間で囁かれてるらしい。

そして、タルトにはおじさん連中が群がっている。

何故?と心の中で自問自答しながら、愛想笑いを浮かべながら必死に応対している。

リーシャはタルトにピッタリとくっついている。

大半の人と挨拶が終わった頃、タルトの出番となった。

一応、パーティの名目は聖女の歓迎であるから主役から挨拶する事になったのだ。

壇上に上がって中央に歩いていた時に、盛大に顔面から転んだ。

緊張と慣れないハイヒールが原因だった。

この事故は公然の秘密となった。

すぐに起き上がって何事も無かったかのように中央まで歩いた。

だが、これのお陰で緊張もとけ、場も和んだ。


「えぇー、本日は私達の為にこんな素敵なパーティを開いて頂きありがとうございます!

私は聖女なんて呼ばれてますが、只の一人の少女です。

私の考えが全て正しいとは思っていませんし、人の数だけ考えがあると思います。

多種多様な考えや意見があるから、面白いし良い答えに近づけるのです。

だから、誰かが言ってるから付いていくのではなく、自分で考えて道は決めてください。

誰でも間違いはありますので、恐れず進んでください。

ですが、人の意見にも耳を傾ける事や間違えても相手を許す心を持ってください。

そして、それは人間だけでなく他の人種も同じであることに気付いてください。

争いを全て無くすのは無理かもしれませんが、今より一歩前進できると思います。

こんな小娘が生意気な事を言ってると思う人もいますが、結果を見ながらゆっくり考えてください。

私の力が及ぶ範囲だけかもしれませんが、幸せにしていきたいと思います。

そして、同じ考えの人が増え点と点が線になり素敵な未来を描きたいのです!」


タルトのスピーチの間、人々はじっと耳を傾けていた。


パチパチ…パチパチパチパチ


王の拍手が切っ掛けで一斉に拍手が起こった。


「最後にささやかな贈り物がありますので、皆さんテラスに移動してください!」


大広間に隣接しているテラスに言われるがままに人々は移動した。

外はすっかり日が暮れ夜の闇に包まれている。

王城の外にも民衆が集まっていた。

タルトがゼノンにお願いし、イベントがあるから日が暮れたら王城近くに集まるよう呼び掛けてくれたのだ。

その集まり具合を満足そうに眺め、タルトは変身して空に飛び上がった。


「みなさーんっ!

お待たせしましたーっ!!

これから私からのささやかなプレゼントをお見せしまーーす!」


タルトの合図と共にシトリーとノルンが魔法を唱えた。

シトリー燃え盛る炎の竜を。

ノルンが光り輝くペガサスを。

竜とペガサスは暗闇の中、生きてるかのように躍動し人々を驚かせた。

二人ともタルトに良いところを見せようと本気だった。

二匹の獣は空に昇りながら、最後には弾け小さな蝶となって人々のすぐ真上で消えた。


「続きましては、こちらっ!!」


ひゅーーーーーーー…どぉーん!


今度はタルトお手製の科学と魔力で出来た花火だ。

城のお堀から一気に花火が上がる。

この世界には花火など存在せず、初めて見る花火に大歓声が上がる。

普通の花火と違い、爆発したあと花びらや星形となって舞い落ちる。

それが頭上の手が届きそうな高さで消えるよう作られていた。

最後に四尺玉より遥かに大きい花火で締めとなった。


「以上で終わりとなりまーす!

お楽しみ頂けたでしょうかー??

アルマールでも時々、イベントの際に実施してますのでぜひお越しくださいっ!」


「「「「オオオオオオオオォ!!!!」」」」


民衆から大歓声が起こる。

タルトは民衆の声に答えるべく、手を振りながら広間に戻った。

広間に戻ると貴族や有力者から自分の町や村に来て欲しいとオファーが殺到した。

それをノラリクラリと躱しながら王の元へ移動した。


「これは素敵な贈り物を見せてもらいましたわ!

国民があんなに楽しそうにしていたのを見るのは、初めてかもしれぬ」

「それは良かったです。

リーシャちゃんもお眠の時間ですので、そろそろお暇しますね」

「今日は有意義な時間が過ごせましたわ。

ワシで出来ることであれば、何時でも連絡を入れてくだされ」


王へ挨拶を終えるとらタルト達はホテルへ戻ることにした。

だが、外は興奮冷めやらぬ民衆が通りを埋め尽くしていた。

王からは泊まってゆくように提案を受けたが、貧乏性のタルトは豪華な部屋は落ち着かず結局、ホテルに戻ることにした。

下からは見えないように魔法を掛け飛んで戻ることにした。

リーシャは既にタルトの腕の中で船を漕いでいる。


「やっと帰ってきたよー。

長い1日だったねー、ハイヒールって足がこんなに痛くなるなんて…」

「お疲れ様デス、タルト様。

明日は帰路につきますので今夜はゆっくりお休みクダサイ」

「それにしてもタルト殿のスピーチは立派だったぞ。

最初に転けた時はどうなることかとヒヤヒヤしたな」

「緊張したらドレスを踏んじゃって…。

もう忘れて下さいよー」

「ふふっ、努力しよう」

「その顔、忘れる気ないですねー。

誰にも言わないでくださいよ」


この後、次の日の予定を少し話し早めに休むことにした。


次の日は午前中にお土産を購入し、長い帰路へ出発したのだった。

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