第37話 謁見

タルト達は貴賓室に入ると、王が立ち上がり近づいてきた。


「陛下、オスワルド只今参上致しました。

ご用命の通り聖女様をお連れしております」


オスワルドは一歩前に出て王に跪いた。


「オスワルドご苦労である。

久々に会ったが、印象がだいぶ変わったようじゃの」

「これも聖女様のご指導の賜物です。

日々、領民の為に精進しております」


アルワド王はタルトに視線を移した。

そのままタルトの前へゆっくりと歩み寄ったと思ったら、驚きの行動に出た。

なんとタルトの前で跪いたのだ。

一国の王が一人の少女の前で膝を着くなど前代未聞だ。

これには大臣もオスワルドも驚いた。


「なっ!?陛下、一体何を!」

「ちょっ、頭をあげて下さいっ!?

それとも私が土下座でもっ!?」


タルトも大慌てである。

アルワド王が落ち着きながら話し出した。


「皆さん、落ち着きなさい。

女神様の御使いである聖女様の前では人間が定めた権力など意味はないのじゃ」

「陛下…」


大臣も理解したのか王の後ろで跪く。


「改めてご挨拶致します。

ワシがここを治めておりますアルワド・バーニシアです。

本当はこちらからご挨拶に伺うべきでしたが、色々と事情がありまして申し訳ございません。

遠路はるばるお越し頂きありがとうございます」

「えっと…わ、私は聖女をしておりますタッ、タッ、タルトです。

本日は…えっと…何でしたっけ?

ああ、もうっ!皆さん、頭をあげて下さい。

私は偉くも何ともない普通の女の子ですから!」


タルトは状況が飲み込めず絶賛、テンパり中である。


「はっはっはっ!

聖女様がそう仰るなら堅苦しい挨拶はここまでにしましょう。

どうぞ皆さまお座り下さい。

ゼノンよ、お茶の指示を」


タルト達は言われるがままに着席した。

そこに素人でも高価なカップと分かるものが置かれ、お茶が注がれた。


「王様、すいません。

先に謝っておきますが、礼儀作法がよく分からなくて…」

「お気になさらずいつも通りで大丈夫です。

その為に人払い出来るこの部屋を選んだのじゃ。

流石に兵隊の前で跪くのは情勢として難しいのです」

「ありがとうございます!

これで気兼ねなく話せます」

「ところでアルワド殿。

人払いといい、ご自身で会いに来れない事とどのような事情はおありなのだ?」

「これは天使ノルン様。

直球な質問で動揺してしまいますな。

その返答の前に聖女様は人間の国についてご存知ですかな?」

「あまり知らないですね…。

アルマールから出たことも無かったですし」


王の合図と共にゼノンが一枚の地図を持ってきた。

みんなで興味津々に覗き込む。

大きな大陸が一つだけ描かれている。


「私が簡単にご説明致します。

この大陸は大きく3つに分かれます。

東側が闇の眷属が支配し、西側が光の眷属になります。

そして、北に聳える山脈は竜が守りし土地となっています」

「竜がいるんですねっ!

どっちの味方何ですか?」

「聖女様は不思議な方ですね。

誰も知らない叡知をご存知かと思いきや、子供でも知ってることをご存知ないとは…」

「これ、ゼノンよ。

聖女様にも都合があるのだろう。

余計な詮索はするでない」

「これは失礼しましたっ!

聖女様、お許しください」


ゼノンは深々と頭を下げた。


「大丈夫ですよ、気にしてないですから!

ただ事情はちょっと説明できないですが…」

「では、話を戻して質問にお答えします。

強大な力を持った竜属はどちらにも属しておらず傍観しています。

その土地は不可侵ですので助力を求めるのも出来ません」

「ちょっと見てみたかったなー」

「次に人間の国についてです。

まずアルマールを含めたバーニシアはここになります」


丁度、闇と光の境目近くをを指差した。


「この周りには同じく小さな国がいくつかあり、闇の侵攻に備え同盟を結んでおります。

ケント、ディアラ、レッジド、ゴドディン、ポーウィス、ドゥムノニア、そしてバーニシアを含め七国連合と称します。

そして、更に西には大国のウェスト・アングリア王国とフォス教の総本山である聖エルムト帝国があります」

「この立派な王都よりも大きな国があるんですねー。

ノルンさんは行ったことがあるんですか?」

「エルムトには何度かな。

その近くに天使の都もあるのだ」

「天使様は光側の要ですから、その都の正確な位置は秘匿されています」

「いつの日か行ってみたいですね!

ノルンさんの故郷に」

「そうだな、平和になったら行こう」

「最初のノルン様のご質問の回答は聖エルムト帝国が大きく関わっています」

「そういうことか…」

「ノルン様、何か気づいたんですか?」

「フォス教の教えに問題があるのだろう。

タルト殿は覚えているか?」

「確か…闇の眷属は悪で討伐対象でしたっけ?」


ノルンは無言で頷いた。


「ノルン様はお気づきみたいですね。

我がバーニシアも国教がフォス教ですので、微妙な立場にあるのです。

国家が簡単に宗旨替えを出来ませんし、陛下が別の宗教の神を崇めるのも出来ません」

「いきなり呼び出されては警戒もしてるでしょうから、誠意を示す為にも最初に跪く必要があったのじゃ。

それには人払いが必要があったわけだ。

また、自ら会いに行くのも疑われる要因となりますので」

「事情は分かりました。

でも、逆にそんな危険を犯してまで私を呼んだんですか?」

「それは一度、お会いして話をしてみたかったのですじゃ。

種族を越えた平和な町を築いている聖女様に」

「王様…。

どうして疑わないんですか?」

「我が国の犯罪発生数をご存知ですかな?

不作や魔物に畑を荒らされれば、飢えて盗賊に手を染める者も多い。

飢えは心も貧しくさせるのじゃ。

恥ずかしながら有効な手だても打てずにいた所、一筋の光が現れた。

その光は瞬く間に飢えも含めた様々な問題を解決していった。

それが聖女様じゃ。

決定打になったのはハルシュト村に多数の悪魔が襲撃した事がありましたな。

村人の証言では悪魔の少女が身を呈して人々を守って貰ったとの事です。

そして、その少女の名前はカルンというそうです」


この時、タルトはカルンを失いそうになった時の事を鮮明に思い出した。


「しかも、その少女は戦いで命を落としたのに、聖女様の御業により蘇生したと聞いております。

今まで悪で殺すしかないと思っていた悪魔でさえ、人を守るように改心させたり神業を成した事実だけで信じるに十分ですじゃ」

「ワタクシ達はタルト様の夢を叶える為なら命を賭して戦うだけデスワ」

「シトリーさん…。

でも、命は大切に危ないときはすぐに逃げてくださいね」

「全く甘い方デスワネ」


シトリーは嬉しそうな表情をしていた。

アルワドはそのやりとりを満足そうに眺めていたが、真面目な顔に戻り口を開いた。


「聖女様にひとつお聞きしても宜しいですかな?」

「あっ、はい、何でしょうか?」

「聖女様の夢は大変困難な道かと思います。

フォス教を始め様々な勢力に邪魔されますが、何故実現させようと決めたのですかな?」

「うぅーん…大した理由じゃないんですが戦いは嫌いですし、皆が仲良く出来たらいいなあって。

そして、何よりもリーシャちゃんが笑って暮らせる場所が作りたかったんです!」

「きゃっ、くるしいです…」


タルトは横に座っていたリーシャを思い切り抱き締めた。

リーシャも突然の事でビックリしてたが、嫌なそぶりも見せず嬉しそうな顔をしている。


「はっはっはっ!!!

一人の少女の為とはビックリしましたぞ」

「タルト殿らしい理由だな」

「その子の目を見れば聖女様の事が良く分かりますな。

純粋な目をしております。

獣人とのハーフというだけで迫害していた我らは恥ずかしい限りです…」

「なんで、みんなでリーシャをみてるんですか?ちょっとはずかしいです…」

「それはリーシャちゃんが可愛いからだよ!」


タルトは優しくリーシャの頭を撫でた。


「直ぐにでも聖女様の眷属にして頂きたいところですが、先程の事情により難しいのですじゃ。

ですので、協力関係という事にさせてください。

出来る限りの援助はしますので」

「それだけで十分ですよ!

少しずつでも理解してくれる人が増えて嬉しいです!」

「これからも良き関係を続けていきましょう。

ぜひ新しい知恵も与えて下さると助かりますじゃ。

最近もサスペンションなるものを馬車に付けたら快適になりましたわ!

歳ですから腰が痛かったのですが、移動が楽になって感謝しております」

「馬車の揺れって辛いですよねー。

私もどうにかしたくて、あれを作ったんですよー」


馬車用のサスペンションであるバネを作成し、売り出したところ瞬く間に広まったのであった。


その後も和やかな雰囲気で王との会話は続いた。

リーシャはお菓子を食べた後、話が難しいのかタルトに寄りかかりお昼寝をしている。


「ところで聖女様は生まれつきの属性を御持ちではないと聞きましたが、本当ですかな?」

「えぇっと、そうみたいです。

何故かは分からないんですが…」


さすがに、異世界から来ました。とは言えなかった。


「古い文献に精霊の住み処の記載があるのが、発見されたのです。

詳細な場所は調査中ですが、もし精霊を見つける事が出来れば力をお貸し頂けるかもしれません」

「そしたら皆ももっと強くなれるのですか?」

「タルト殿、それは難しいだろう。

我らは既に他の精霊に属している。

天使は光の精霊にな」

「ワタクシら悪魔は闇の精霊デスワ」

「ですが、聖女様は何にも属しておりませんから、もしかしたら可能ではと考えているのですじゃ」

「そしたらもっと皆を助けられるかもしれないんですね。

もし場所が分かったら教えてください!」

「勿論ですじゃ。

直ぐにでもお知らせしましょう」


こうして無事に王との謁見を終えたのであった。

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