第40話 モンスターハンター2

翌朝、朝食を食べて戦の準備を整えた。


「じゃあ、行ってくるぜ!」

「怪我人は大人しくシテロヨ」

「後は僕達にお任せください」

「おっ、琉もいたのか?」

「昨日、一緒に町を出発しましたよねっ!

僕が馬車を御してましたし、宴会にもいたんですけどっ!」

「すまん、気付かなかった…」

「隠密スキルか?」

「何もしてないんですけど…」


ちょっと心配な一行であったが、村長の案内で畑に向かった。

そろそろ畑に着くだろう少し前に村長を村に戻した。


「おお、わんさかいるなあ。

これは斬りがいがあるってもんだぜぇ!」

「こんなにいると気持ち悪いナー」

「さっさと殺っちマオウゼ!」


畑に着くとそこには人の背丈の2倍はあると思われるサソリのような魔物が見渡す限り作物を荒らしている。

その皮膚は黒光りし堅そうな印象である。

挟みは人間を簡単に切り殺せるくらい、大きくて鋭利だ。

また、その尻尾の先には大きくて鋭い針があり、猛毒を持っている。

そんなロックスコーピオンは見えるだけでも100匹以上はいるようだった。

4人は別方向に走り出した。


「一番は頂きだぜぇっ!!」


桜華は力任せに刀を振り下ろし、ズバッとロックスコーピオンを一刀両断に切り裂く。


「ヒュー、やるネエ。

アタシも負けてられネエナー」


カルンは両手に見えない刃を持ち、群れの中に突っ込んだ。

手当たり次第に足や尻尾、鋏を切り落とし次々と行動不能にしていく。


リリスはそんなカルンを遠くから温かい目で見守っていた。

一度、カルンを失ってから気に掛けていたのだった。

そんなリリスに対してロックスコーピオンの尻尾が死角から襲いかかる。

だふぁ、自分と同じくらいの大きさである尻尾を片手で軽く受け止めた。

リリスは受け止めた尻尾の先から毒が垂れているのを指に付けて舐めた。


「こんな毒でワタシを殺そうなんてお笑いダゼ。

本物の毒ってモノを喰らいナ!」


リリスの爪がロックスコーピオンの尻尾に突き刺さる。

その数秒後に暴れだして絶命するまで周りのロックスコーピオンに襲い掛かった。


「やれやれ皆さんにお任せして逃げる獲物の止めを刺しますか」


琉は小太刀を構え、流れるように逃げようとしたロックスコーピオンの外殻の隙間から急所を突いて、一撃必殺で仕留めていく。


「おい、琉っ!

相変わらず女々しい戦い方してんなあ」


桜華はそんな琉にヤジを飛ばす。


「姉上と同じにしないでくださいよっ!

戦うのはあまり好きじゃないんですから」


琉は受け答えしながらも魔物を仕留めていく。

そう忘れがちだが、琉も鬼なのだ。

決して弱いわけではない。

ただ、目立たないだけなのだ。

その存在感の無さを活かし、隠密活動は得意だった。


4人は一気にロックスコーピオンの群れを片付けていった。


「こいつで最後だっ!!

ふうっ、久々に良い運動したなぁ」

「結局、コイツ等はどこから来たンダ?」

「カルンさんの言う通り、テリトリーから移動しない魔物なんですよね」

「そのテリトリーが何者かによって襲われたトカカ?」

「そうですね、もっと強い魔物が近くにいるのかもしれません…」

「それは楽しめそうだなあ!

よし、探してみるか?」

「まだ暴れたりネエシナー」

「ワタシも付き合うゼ」

「少しは警戒感も持ってくださいね…。

手に負えないようならすぐに逃げますよ」

「ああっ!

うちらが負けると思ってるのか!?」

「いや万が一ですよ!

誰かが傷つくのはタルト様が心配されますので…」

「カルンも無理すんじゃネエゾ。

あんなことは二度とゴメンダ…」

「分かったよ!

取り敢えずどんなヤツか見てみようぜ」


一行はロックスコーピオンの足跡を辿り、森の中をどんどん進んだ。

しばらく進むと開けた岩地に出た。


「この辺はロックスコーピオンの生息地っぽいですね」


琉が辺りを見ながら考えを述べた。

ロックスコーピオンは名前の通り岩地が好きなのだ。


「何もイネエゾー。

どっかに行った後カ?」


4人は辺りを探してみたが、魔物一匹見当たらない。

カルンは死角になりそうな岩影や隙間に真空波を撃ちまくった。


ズズ…


「ナンダ、コイツ?」


カルンが最後に撃った大きな岩の隙間から、泥のような物体が現れた。

動きが鈍いかと思っていたが、急にカルンを包むように触手のような泥を素早く拡げて襲ってきた。


「直ぐに逃げてくださいっ!

溶かされて消化されます!」

「チッ!」


カルンはギリギリで触手を躱したが、服の一部が触れてしまった。

服は触れた部分が腐るようにボロボロになった。


「あれはマドゴーレムだと思われます!

獲物を泥で動けなくして、ゆっくり溶かしながら消化するそうです。

ロックスコーピオンはおそらく、これから逃げたんですね」

「少しは早く動けるようだが、捕まんなきゃいいんだろう?

その前に真っ二つにしてやるぜぇ!」

「同感ダナ、この服気に入ってタノニ!」

「カルンは危なっかしくて見てられネエナ。

一気に仕掛けて瞬殺スルゼ」


三人が同時に仕掛けた。

複数の触手が襲ってくるが、躱しながら切り裂いていく。

あっという間に泥の塊がバラバラとなった。


「なんだぁ?

ずいぶんとあっけねえなあ」

「確かに一人でも十分な相手ダッタナ」

「ロックスコーピオンが逃げるほどの相手ナノカ?」


マドゴーレムの残骸を見ながら三人は余りの手応えの無さに疑問を感じていた。


「コイツは関係無かっ…ナッ!?」


リリスが言い終わる前にそれは起こった。

バラバラだった泥が急速に結合を始めたのだ。

しかも、斬りすぎたせいで周囲は泥で囲まれており逃げ場がない。

三人が話し合うために向かい合う、その一瞬の隙に全方位から襲われ、三人は泥に飲まれた。


「姉上っーーーーーーー!!」


遠くで様子を伺っていた琉は無事であった。

だが、一瞬のことで助けに行けなかった。


「紫電っ!!」


内側から強引に桜華の奥義で切り裂き、脱出した。

だが、服は既に全身ボロボロで肌が露だった。


「姉上、無事でしたかっ!

って、その格好は!ぐはぁっ…!」


琉は桜華の無事を確認しに近寄ったが、裸体に近い三人を見て鳩尾を綺麗に打ち抜かれブッ飛ばされた。


「見るんじゃねえっ!

全くどうすればいいんだ?」


既に紫電で切り裂いた跡も消えている。


「切っても意味ないようダナ。

退却しながら良い案を考えヨウゼ」


三人は畑の方に走り出した。

マドゴーレムも後を追い掛けてくる。

琉は完全に忘れられてる、いつものように。

付かず離れずの速度で移動する。


「アイツ、泥だから水に浸ければ霧散するんじゃナイカ?」

「「それだ・ダ!」」


桜華は一人離脱し、残り二人をマドゴーレムが追い掛ける。

カルンとリリスは溜め池の前で止まり、ギリギリまで引き付ける。

目の前まで引き付けたときに上空に飛んで逃げた。

マドゴーレムは池の手前で停止したが、いつの間にか後ろに回った桜華が思い切り刀を振り抜き、風圧でマドゴーレムを溜め池に落とした。


「「ヤッタゼ!!」」

「ふう、中々手強かったな」


溜め池の前で三人は勝利の余韻に浸っている。


ぷかぁ


溜め池から泡が浮いてきたと思ったら、ざばあっとマドゴーレムが現れた。

溜め池の泥も吸収し更に巨大化して…


「だから、うちはやめようぜっていったんだよっ!」

「あの時は満場一致だったダロ!」

「クソッ!これでも喰らいナッ!」


リリスが全力で毒を放つ。

マドゴーレムに直撃し、苦しむように悶えたかと思ったら急に動かなくなった。


「ハア、ハア…ヤッタカ?」

「うちは嫌な予感がするんだが…」

「タルトがそれをフラグと言って不吉だと言ってタゾ…」


停止したマドゴーレムが動き出した。

今度は毒属性も持った状態で…


「おいっ、悪化してるじゃねえかっ!」

「何が効くか分からねえから、試すしかナイダロッ!」

「リリスに毒は効かないかも知れないが、アタシ達は喰らうじゃネエカッ!」


もうグダグダだった。

そこに救世主が現れた。


「はあ、はあ、やっと追い付いた…。

死んだ祖母にあった気がしましたよ…」

「おい、琉っ!

目を瞑って戦え!

見たら殺すぞ!」

「相変わらず無茶を言います…。

目を瞑っても避けれず死ぬじゃないですか…。

ええい、ヤツの弱点は火です!

それか、どこかにある核となってる石を破壊してくださいっ!」


弱点は火と言われて三人は思う。

誰も使えないと…。

火を扱えるのはタルトかシトリーだけであった。

マドゴーレムは水分を蒸発させられると動けなくなるのだ。

この三人には相性が悪かった。


「二人にお願いがある…。

うちが核石を探すまで時間を稼いでくれねえか?」

「…出来るノカ?

マア、他に手はないし任せるゼ!」

「あれだけ巨大だとそんなに持たないかもナ。

早めに頼むゼ!」


二人は触手に捕まらないように素早く動き撹乱する。

桜華は刀を鞘に納め、目を閉じて集中する。

泥に隠された核石の魔力を感知しようとしているのだ。


「オイッ、マダカ!

そろそろ限界ダゾッ!」

「チッ、触手が増えてヤガル!」


いつの間にか背後にも触手が現れ、死角から襲い掛かる。


「見えたっ!

四の太刀 影桜一閃カゲザクライッセン!」


桜華が刀を抜いたと思われた瞬間、マドゴーレムをすり抜け、刀が鞘に既に収まっていた。

極限まで集中力を高め、神速の抜刀術で敵を一刀両断する奥義だ。


チンッ

バシャッ


「また、つまらぬものを切った。だったか…」


最後の部分を鞘に納めた瞬間、マドゴーレムが只の泥に変わり崩れ落ちた。


「ナンダ、今の決め台詞ハ?」

「何だかタルトから次に技を決めたときに使うように言われたんだ。

誰かの冥福を祈るらしいぜ!」


そこに琉が目を閉じたままフラフラと近づいてきた。


「マドゴーレムの気配が消えたから、無事に討伐出来たんですね。

流石、姉上達ですっ!」

「そんなことはどうでも良いから服を脱げっ!

裸同然の格好なんだよ!」

「ちょ、ちょっとお待ちください!

僕は薄着ですから三人分はないですって!

すぐに取りに行きますので少しお待ちください!」


琉は振り返って全力で走っていった。

村に置いてきた予備の服を持って急いで戻るために。

その夜も村人から感謝の宴会を開いてもらい、翌日に帰路についた。


アルマールに戻って数日違いでタルト一行も戻ってきた。


「皆、ただいまー!

お土産いっぱい買ってきたよー」

「おうっ、待ってたぜ!

上等なものを買ってきたんだろうな?」

「色々ありますよー。

って、何これ…魔物の討伐報告?」


タルトに琉からこの前の報告書を渡した。


「何々、畑を荒らすロックスコーピオンと原因となったマドゴーレムの討伐…。

って、なんじゃこりゃああああああああっ!」


報告書には被害状況と討伐の詳細が記載されていた。

そこには、ロックスコーピオンよりも三人がマドゴーレムと戦った被害の方が大きいことが書かれていたのだ。

しかも毒属性の泥が一面に拡がり、溜め池も使えなくなって復旧も苦労してるらしい。

タルトからは怒りがユラユラと立ち上がってる。


「タルト様、落ち着いてくださいっ!

姉上達も必死に戦ったんです、ねえ、そうですよね、って、誰もいないっ!?」


その場から三人とお土産が綺麗に消えていた。


「琉さんがいながらどうしてこんなことに…」

「タルト様、目が座ってて怖いです…。

そのステッキを振りかぶるのはやめてくださいっ!

だから、僕にはあの三人を御するのは無理なんですってーーーーーーーっ!!」


琉の悲しい悲鳴だけが響き渡った。


勿論、当事者の三人も拿捕され、村で畑の復興を手伝うことになった。

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