第34話 王都へ

この日、タルトは久々に町人の治療を行っていた。

町が大きくなるにつれて最近は忙しく中々、前のように治療院が開けないでいた。


「お爺ちゃん、もう大丈夫ですよー。

これで普通に歩けますよ」

「聖女様、お忙しいのにありがとうございました。

これで思い残すことはありませんじゃ」

「嫌だなー、まだまだ長生きしてくださいね。

お孫さんもまだ小さいんですから」


やっとその日の行列を捌ききって、さっさとお風呂に行こうとしていた矢先に訪問者の連絡があった。


「タルトさま、りょうしゅさまがまっています」

「オスワルドさんが?

疲れてる時には会いたくない人なんだよなー…」


しぶしぶオスワルドが待っている客間に行くと、オスワルドは部屋の中を落ち着きなく歩いていた。


「どうしたんですか、オスワルドさん?

今日は久々の治療で疲れたんので明日じゃ駄目ですか?」

「お疲れのところ申し訳ありません、聖女様。

少し困ったことがありましてご相談したく参上しました。

なるべく手短にお話ししますので」

「しょうがないですね。

早速お聞きしましょう」


二人が座ったときにリーシャがお茶を持ってきた。

カルンもお菓子を持ってリーシャと一緒に現れた。


「カルンちゃん、ありがとう!

疲れた時に甘いのは嬉しいよっ!」

「ホントはリーシャと食べるのに持ってきたんだが、タルトも一緒が良いとリーシャが言い出しテナ」

「そっかー、リーシャちゃんは良い子だねー」

「えへー、タルトさまといっしょがいいですー」

「うう、可愛いっ!!

ぎゅっとしたくなっちゃう!!」


すっかり蚊帳の外となったオスワルドであった。


「すいません、聖女様。

お話しても宜しいでしょうか…?」

「あっ、ごめんなさい…。

それで何の話でしたっけ?」

「それが我が王より王都へ参じるように勅命が来たのです…」

「??

つまり王様の所に来いって事ですよね?

何が問題なんですか?」

「それが…聖女様もお連れするように書いてあるのです…」

「私が?王都に?

王様に面識はないんですが…」

「聖女様はこの国では、もはや知らない者はおりません。

王はそんな聖女様に非常に興味を持っておられます」

「えええぇー、断れないんですか?

何かそういうの苦手なんですよね」

「それが勅命ですので、従うしかありません…。

王の真意は不明ですが害するような事はないと思います。

万が一、そのような事になれば私が命がけでお守り致します」

「行かないとオスワルドさんに迷惑が掛かるならしょうがないですね…。

王都で王様に会えば良いんですね?」

「ご理解感謝致します。

すぐに出発の準備を整えますね!」

「何か楽しそうダナー、アタシも行ってイイカ?」

「王都にカルンちゃんが行ったら騒ぎにならないかな?

この町みたいに悪魔へ抵抗がある人もいるんじゃないかな」

「少人数であれば大丈夫かと思います。

聖女様の事と併せて、その方針も伝わっておりますのでこの町の状況も広まっています」

「ヨシッ、リーシャも一緒に行って美味しいものを食べに行こうゼ」

「おいしいものがいっぱいですか?

たのしみですー」

「じゃあ、他に誰を連れていくかは相談して決めますね」

「では、先に館に戻り準備を進めておきます!決まりましたらお越しください」


オスワルドは颯爽と自分の館に帰っていった。

大変だったのはこれからである。

皆を集め今日の出来事を説明した。


「勿論、ワタクシは同行致しマスワ。

何かありましたら全力でお守りシマスワネ」

「ワタシも行きたいゾ!

一人で留守番は嫌ダゾ」

「王都に行けばうまい酒があるんだろうなぁ。

よしっ、うちも行くぞ!」

「姉上が行くなら問題を起こさないよう僕も行きたいです…」

「私はどちらでも構わないから、タルト殿に一任しよう」

「うぅーん、皆で行くには多すぎですし、町の防衛に誰かは残らないと駄目だと思うんですよねー」


タルトはしばらく考え込んでから切り出した。


「…同行はノルンさん、シトリーさんにお願いします!

他のみんなごめんなさいっ!」

「私で良ければ承知した」

「当然デスワネ」

「リーシャも美味しいものを楽しみにしてたんダゾー」

「ワタシはみんな残るならどっちでもイイナー」

「おいおい、外れた理由は教えてくれるんだろうな?」

「えっっと、落ち着いてくださいねっ!

ノルンさんは天使ですので、王都の方も受け入れやすいかと。

シトリーさんは天使と悪魔が一緒にいることをアピールするには良いかなぁと思いまして…」

「それならアタシやリリスでも良いんじゃナイカ?」

「それは…一応、王様に会うので礼儀正しいお二人が良いかなぁっと…」

「「「何だとっ!!!」」」


この後、留守番組を説得するのに1時間ほど掛かった。

お土産にお菓子とお酒を買ってくることで話は纏まった。

その後、旅の身支度を整えて領主の館へ向かった。


「オスワルドさん、お待たせしました!!」


オスワルドは準備を終えているらしく立派な馬車が数台停まっていた。

合流すると立派な馬車に案内された。


「中もすごい広いんですねっ!」

「いすもふかふかしてますー」


そう、ちゃっかりリーシャを連れてきていた。


「では、聖女様。

これから王都まで1週間掛かりますのでゆっくりとお休みください」


オスワルドが一声描けると一団は出発した。

途中の村や町に立ち寄って宿を取りながら進み、6日目には王都の手前まで来ていた。

途中で魔物や盗賊の襲撃もあったが、兵士だけで対応出来、タルト達の出番はなかった。

王都に近づくに連れて街道の人通りが多くなっている。

行き交う人達を窓から眺めていたら、馬車が停止しオスワルドが現れた。


「聖女様、前方に王都が見えてきましたよ」


馬車から出てみると小高い丘になっており、王都の全体が見渡せた。

周囲を20mくらいの城壁に囲まれた城塞都市で、かなり大きい町が中に収まっている。

中央には堀に囲まれた大きなお城が見えた。


「あれが我らがバーニシア王国の都になります」

「わあぁっ、大きいんだねー!

シンデレラ城みたいなのがある、本当にお城に住んでるんだー」

「こんなおおきいたてものはじめてみました」

「チッ、タルト様の神殿も更に大きくシナクテハ…」

「いや、張り合わなくていいからねっ!?

あんな大きい城なんて移動が不便で、しょうがないからっ!」


タルトは根っからの庶民派で、今でも広い部屋は落ち着かなかったのだ。


「もう少しですから出発しましょうか。

今しばらく馬車での移動をご辛抱願います」

「いえいえ、この馬車の乗り心地はとても良いですよー。

着いたら町の中を散策してもいいですか?」

「今日は予定がありませんからご自由にどうぞ。

私は到着したことを報告して参りますので夜にホテルで集合としましょう」


こうして一行は王都の門をくぐったのである。

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