第35話 バーニシア王都

男爵という地位のお陰か城門はすんなり通過出来た。

一般人は長い列をなして検問を越えなければならなかったのだ。

一度、ホテルでチェックインを行い、オスワルドと別れた。

まだ、昼になったばかりで夜まではかなりの時間があった。


「では、早速王都の中を見て回りましょう!

何か見たいものはありますか?」

「私は特にないのでタルト殿にお任せする」

「ワタクシはどこでも付いて行きマスワ」

「タルトさま、ひとがおおくてすこしこわいです…」

「取り敢えず何処かでお昼でも食べましょうか。

リーシャちゃんは手を繋いでいこうね。

はぐれないように離しちゃ駄目だからねー」


ホテルを出て通りを歩いてみたが、町並みを見ているだけで飽きなかった。

アルマールではせいぜい二階建てしかないが、王都では石造りで三階建ての建物が多い。

窓には綺麗なガラスも使用されており、文化レベルの違いを感じた。


「色んなお店がありますねー。

どこにするか悩んじゃいますよ」

「ここは王国内から様々な食材が集まると聞いた事がある。

これだけ競いあってるならどこでも期待は出来るだろう」

「そうですね、誰かにお勧めでも聞いてみましょうか」


町並みやお店ばかりに気をとられていたが、ふと周りを見ると沢山の視線を感じた。

田舎っぽさでも出ていたかと思いながら、近くで立ち話をしていた若い女性二人組に声を掛けた。


「すいませーん、ちょっとお話を聞いても良いですか?」

「ひゃいっ!?

わ、私たちですか??」

「わわっ、すいません、驚かしちゃいましたか?」


二人組は声を掛けた瞬間、ドッキリにでもあったかのように驚いていた。


「あっ、いえ、すいません。

何でもないんですっ!

ど、どのようなご用でしょうか?」


あからさまにひきつった笑顔であった。

年下の少女に対する態度ではない。

流石のタルトでも不審に感じた。


「ちょっとお薦めのレストランを聞こうかと思ったんですが…。

私、どこか変ですか?

今日、王都に着いたばかりで分からないことばかりですので…」


二人組はひそひそと小声で話し合った後、話づらそうにと説明を始めた。


「…えぇっと、ここでは別の種族の方を見かける事がありませんので。

悪魔もいらっしゃるので噂の聖女様じゃないかと話し合ってたんです…」


確かに町を出てから他種族を見かけていない。

最近、それが普通の光景だったため何とも思わなかったが、天使と悪魔と獣人のハーフの組み合わせなんて奇妙であろう。

それを人間の少女が従えてるなんて常識では考えられない。


「あはは…一応、今住んでる町ではそう呼ばれていますね…」

「やっぱりっ!!

私達、いつも色々な噂を聞いてまして聖女様に憧れてたんです!」


話を聞いていた野次馬達も聖女と分かると一気に集まってきた。


「噂の聖女様がいるらしいぞっ!」

「お付きも美女ぞろいらしい」

「おお、お美しい、ありがたや…」


どんどん人々が集まり逆にタルト達がビックリした。


「タルト殿、これは何の騒ぎだ?」

「全く鬱陶しいデスワネ。

焼き払いマスカ?」

「それは駄目ーーーっ!!

でも、こんな騒ぎになるほど有名なの?」

「タルトさまー、こわいです…」

「これは戦略的撤退だね。

危機管理フォー…じゃなくてシャドウミストッ!」


タルト達の周囲は厚い霧が立ち込め、すぐ目の前も見えない状態だ。

その隙に上空に飛んでホテルまで退避した。


「まだ全然何も食べてないよー、お腹空いた…」

「何か分からないが、少し恐怖を感じたぞ…」

「これでは外を歩けマセンワ」

「少し変装でもしようか?

二人は羽を隠す事は出来ないの?」

「それは無理だな…これだけ大きいとフードでも隠せまい」

「ですよねー。

リーシャちゃんはフードで大丈夫なんだけどなー」

「タルト様の美しい金色の髪も目立つかもしれマセンワネ」


この世界には純粋な金髪は珍しいのである。

どこかくすんでるような金色は少しいるようであるが。

その為、タルトの髪も結構人目を惹くのであった。


「うぅーん…。

見た目を誤魔化せれば良いだけなんだけどなー」

(ウル、良い案はない?)

『そうですね、光の反射と屈折を利用すれば可能と思われます』

(全部、任せるよー、どうすればいいの?)

『久々に丸投げですね、それでは…』


ウルに言われた通り、服装を少し変えることにした。

リーシャはフード姿。

ノルンとシトリーはオシャレな帽子。

タルトは髪型だけ変更した。


(これ本当に大丈夫っ??

髪型だけってすぐにばれちゃうじゃんっ!)

『大丈夫ですから外に出てみてください』


不安な気持ちいっぱいの一行は恐る恐る外に出てみた。

すると先程の視線が嘘のように消えていた。

あえていうとノルンとシトリーが若い男性の視線を集めているくらいだ。


「何をしたのだ?

この帽子には魔法でも掛かっているのか?」

「流石デスワ、タルト様!」


(ウル、どうなってるの??)

『まずマスターは髪の光の反射率を変えてます。

黒は光を吸収しますので、現在黒色にみせてます。

ノルン様とシトリー様は反射と屈折を変えて翼を消してます。

カメレオンと似てますね。

注意事項としては、マスターから離れてはいけません。

有効範囲が狭いですので』


「えぇっとですね…。

その光の具合をこう…ぐわあっと…えいっと…変えてます。

私から離れると効果ないので気を付けてくださいね」

「よく分からないが離れなければ良いんだな?」

「勿論、お側を離れマセンワ!」

「リーシャもいっしょー」

「では、改めてランチを食べに出発です!」


今度は誰にも邪魔されずに散策が出来た。

ランチはパスタのような麺料理を食べた。

香辛料もふんだんに使われ、前菜からデザートまでのコースとなっており大満足であった。

余った時間はお土産のお菓子とお酒を選ぶため、色々と店を見て回った。

この世界のお菓子は焼き菓子が多く、ケーキや饅頭のようなものはなかった。

お酒もビールのようなものや濁り酒のようなものが多かった。

皆へのお土産の当たりを付けて最終日に買うこととした。


「ついつい試食でいっぱい食べちゃったー」

「もうおなかいっぱいです」

「全くタルト殿は、その小さな体のどこに入るのか不思議なくらい食べるのだな」

「なんか魔法を使うとお腹空くんですよねー」


他愛もない会話をしつつ、一行はホテルに戻ってきた。

ホテルに入るとロビーでオスワルドが待っていた。


「お待たせしました、オスワルドさん」

「これは聖女…様?

これは一体…あの美しい金色の髪は?

あっ、いやっ、黒い髪も美しいのですが…」

「あっ、ごめんなさいっ!

解除するの忘れてましたっ!」


ここで偽装の魔法を解除した。


「一体どうされたんですか?」

「それが王都でも有名になったみたいで…」


先程の騒動をオスワルドに説明した。


「確かに町中で騒動があった話し始め聞きましたが、聖女様の事だったとは…」

「変装してからは問題なかったですよ。

それで王様に会えました?」

「はい、明日に謁見することになりました。

聖女様たちはこれから寸法を測らせて頂きますね」

「気持ち悪いのでお断りします」

「違いますっ!!

明日の謁見用の正装の用意をする為です!

決してやましい気持ちではありません!

確かに喉から手が出るほど知りたいですが…」

「ヨシッ、殺シマショウ」

「ちょっと待ってっ!

服の採寸ならしょうがないですから。

でも、オスワルドさんには教えませんけど!」

「うぅ…承知しました。

聖女様の魅力を引き出すため、戦闘時の服装を模した露出多めでご用意したかったのですが…」

「やっぱり殺しておきますか?」


タルトは無表情でステッキを構えた。


「タルト殿も落ち着けっ!

オスワルド殿はいつもこんな感じだ」

「ノルン様、ありがとうございます。

今、命の危機を感じました…。

では、あちらに専門の者が待っておりますので、私はここでじっとしております」


タルト達は早速、採寸をお願いした。

専門の業者はてきぱきと採寸を行い、服の好みもヒアリングしていった。

明日の朝に何着か候補を持ってくると伝えて帰っていった。


「今日は何か疲れましたし、もう部屋で休みましょうか」

「こちらが聖女様の部屋の鍵となります。部屋は最高のものをご用意してまして、お二人ずつで二部屋となってます」

「オスワルドさん、ありがとうございます。

リーシャちゃんは私と一緒だね。

もうひとつはシトリーさんとノルンさんですね」

「「なっ!?」」

「ワタクシがこの天使と?」「私がこの悪魔と?」

「もうお二人とも仲良くしてくださいよー。

ねえー、リーシャちゃん?」

「はい、みんななかよしがいいです!」

「「うっ…」」

「し、仕方がないな…」

「では、ノルン、行きますワヨ!」


二人の笑顔はひきつったまま、隣の部屋へ消えてった。


「この部屋割りで大丈夫だったかな…?」


少し不安に思うタルトであった。

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