第19話 拡張計画2

タルトは日々の日課となった村人の治療を行っていた。


「終わったー。

最近、受診する人が増えたよねー」

『マスター、お疲れ様です。

すっかり有名になりましたからね』

「でも帰るときに笑顔でお礼を言われると頑張っちゃうよね!

お腹も減ったしエグバートさんの店に行こうか」


シトリー達を誘ってご飯を食べに行くことにした。

しかし、リーシャとカルンが見当たらなかった。


「あの二人は遊びに出掛けてマスワ」

「カルンちゃんが一緒なら大丈夫かな。

最近、仲良いよねー」

「よく一緒にいることを見掛けマスワネ。

年齢(精神)も近いから気が合うのデショウ。

お腹が減れば帰ってキマスワ」

「そうだね、先に行ってようか。

子供は一杯遊んだ方が良いよね」


すっかり自分が子供であることを忘れているタルトであった。

シトリーとリリスの三人で食事していると村長が飛び込んできた。


「ここにいらっしゃいましたか聖女様。

少しご相談したことがありまして探しました」

「もぐもぐ……どうしたんです、村長さん。

何か事件ですか?」

「事件ではないのですが…。

最近、村の人口が飛躍的に増えています」

「やっぱりそうなんだ。

道行く人が本当、多くなったよねー」


ここに来るまでの事を思い出してみたが、最初来たときは人がまばらな寒村であった。

今は道は人が行き交い賑わっている。

しかも、人間だけでなく獣人やそのハーフも見るようになっていた。


「特に観光と湯治に来てここを気に入り移住する者が多いそうです。

また、聖女様の方針であるどの種族でも受け入れると公示してますので、住むところを追われた者が保護を申し出ています。

こちらはご指示通り住む場所と食べ物を提供しています」

「移住者への対応ありがとうございます。

最初は慣れない事もあって揉め事になるでしょうから、何かあればすぐに呼んでくださいね」

「お心遣い感謝します。

今のところ落ち着いております」

「それは良かったー。

ところで湯治は銭湯を造ったので分かるんですが、観光する場所なんてありましたっけ?」


タルトは人々が他の種族を受け入れてくれて、ほっとひと安心であった。


「確かに銭湯はとても人気があり、少しの入湯料を貰って村の財源も潤っております。

観光は聖タルト神殿が大人気でございます。

空にも届かんとする高さもそうですが、内装では美しい彫刻や絵画、ステンドグラスも評判が良いですね。

でも一番は後光に照らされた聖女様の像でございます。

人々は戦の女神や癒しの女神と崇めております」

「そう……ですか…。

そんなにあの像は人気があるんですね……。

ところで美の女神なんて噂は…?」

「はて…?その様な噂はとんと聞きませぬな」

「ですよね…私なんかがおこがましいですよね…」


女神様って皆、美しいイメージじゃんっ!。と心の中で叫んでいた。

だが、すぐに現実はそう甘くないなぁと思い直した。


「いえいえ、そんなっ!

聖女様は可愛らしいと評判です。

特に戦うときの格好は男性に大人気でございます!」

「どうせ子供です……。

それにあの露出の多い格好はあまり広まって欲しくないです……」


村長も懸命にフォローしたつもりであったが、逆効果であった。

すっかり拗ねてしまったタルトであった。


「それで…相談事とは…?」

「それは急に人口が増えて建物は急ピッチで造ってますが、上手く畑の拡張や量産に成功せずこのままでは食料が枯渇してしまいます……」

「足りないなら人口を間引けばいいんじゃナイカ?」

「さらっと怖いこと言わないでリリスちゃんっ!?」

「下賤なモノには相応のモノを食べさせれば良いのデスワ」

「パンの代わりにお菓子みたいなことを言ったら、何処かの王妃みたいに首をはねられちゃうよっ!?」


やっぱり悪魔なのかな…と、心の中で思うタルトであった。


「村長さん、それは困りましたね…。

もっと将来を見据えて計画を立てて区画整理から始めますか…。

この辺の地図とかあります?」

「申し訳ございません…地図は王都にあるだけでございます」


この世界で地図は珍しい。

すごく簡易なものは普及しているが、詳細なものは測量も大変だし軍事情報になるため王都で厳重に保管されている。

悩んでいたその時、エグバートの店に立派な髭の老人と孫のような幼い赤毛の女の子が入ってきた。


「店主よ、いつものを頼む」

「おう、ジル爺さんか。

ちょっと待っててくれ!」


タルトは如何にも賢者ですみたいな見た目に、その老人が気になってしょうがなかった。


「ねえ村長さん、あのお爺さんは?」

「あの方はジルニトラと申しまして村から少し離れた所で孫娘と二人暮らしをしています。

時々、村に来ては必要なものを買っていくんですよ。

でも昔から年を取っている気がしますな」

「昔からこの辺に住んでるんですね。

……地形についても色々と知ってるかも知れないですね」


タルトはこの人物の事が気になり話し掛けて見ることにした。


「すいません、少しお話ししても良いですか?」

「…どちら様ですかな?

ん…この気配は…まさか…」

「私はタルトです。

一応ここで聖女をしています…。

何か気になることでもありました?」

「いや、気のせいです…。

貴方が噂の聖女様でしたか。

ここに来たらあちこちでお噂をお聞きしました」

「あはは…お恥ずかしいです。

ただ、皆を守っただけなんですが…」

『マスター、お気を付けを!

この老人と幼女からとてつもない力を感じます!』

(そうなの?でも人も良さそうだし大丈夫じゃない?

村の皆も顔馴染みみたいだし)

「それでお話とは?」


タルトは食料事情の事を説明し、この辺の地形について詳しいか尋ねてみた。


「成る程、事情は理解しました。

儂でお役に立てるならご協力しましょう」

「ありがとうございます!

ええぇっと…ジルニトラさん」

「ジルとお呼びください。

この娘はリリーですじゃ」

「宜しくね、リリーちゃん!」


コクンッ


リリーは頭を下げて挨拶した。

タルトは白紙を広げて、皆の意見を聞きながら地図に纏めた。

それからいつも通りウルに最適な町作りの設計案作成をぶん投げた。


「ジルさん、お陰で助かりました!」

「いえいえこれくらい何時でもお声がけください。

では、そろそろ失礼させて頂きます」


ジルとリリーはエグバートから食料を買い込み店を去っていった。


「では、次に畑の現状を見に行きましょう!」

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