第18話 拡張計画1

「この町には銭湯が必要ですっ!!!」


タルトは朝食後、皆を集めて突然言い出した。


「そうダナ、たまには戦わないとカラダも鈍るシナ―」

「リリスちゃん、戦闘じゃない! せ・ん・と・う!

お風呂のことだよ」

「あの聖女様…お風呂ならありますが、おきに召しませんでしたでしょうか…?」


村長が恐る恐る尋ねた。


「やはりタルト様が使用するには優雅さが足りないと思ってマシタワ。

すぐに立派な風呂をお造りシマスワ」

「いやっ…あのっ…優雅さとか要らないから…。

私が欲しいのは蒸し風呂じゃなくてお湯に浸かりたいのっ!!」

「お湯ですか…。

皆が浸かれる湯量の水を確保するには難しいかと……」


この世界の風呂といえば蒸し風呂である。

しかも、それでさえ高級であり普通の住民は濡れた布で体を拭くのが一般的だ。

村長が驚くのも無理はない。


「水の事は任せて!

私が魔法で出すから。

リーシャちゃんもお風呂好きだよねー!」

「あっ、はい。きもちよかったです…」


リーシャの頬は少し赤くなっていた。


「いいですかっ!お風呂は心の洗濯とも言うのよ!

もうリーシャちゃん成分が足りなくて……足りなくて……」


周りの皆が呆れた顔でタルトを見ていた。


「とっ…とにかく、村の皆の為にも大きなお風呂を作りますっ!」

「タルト様がお望みならご指示に従いマスワ」

「面白そうダシ、アタシは手伝うゼ!」

「村の為であればお断り出来ませんね。

タルト様のやりたいようにおやりください」

「では、村長さんの許可も出ましたので心の癒しを目指して頑張りましょう!」


タルト達は広場に移動した。


「この聖タルト神殿の横は如何でしょうか?」

「何、その名前っ!?

いつの間に名前が付いたの!」


村長の提案より名前が気になってしまった。


「それはもう聖女様の奉った神殿ですから当然かと」

「そう…ですか…」


タルトの聖女伝説は始まったばかりだった。


相談した結果、石造りにする事にした。

最初は木材で暖かみをだそうとしたが、メンテナンスを考えると石材を使った方が良かったからだ。

この世界の文明レベルで石造りの建物を作るとしたら何年も掛かるであろう。

だが、悪魔の手に掛かれば楽々に運搬や加工が出来、数時間で形が出来てきた。

浴槽やシャワーなどはタルト(ウル)の指示に従って、細かいところを仕上げていった。

湯沸かしやお湯の循環はタルトの魔力で行うこととした。

それを聞いたウルは『そんな魔力の無駄遣いをした魔法少女は今までいません…』と呆れていた。

内装はギリシャのテルマエをイメージした。

浴場は男女一つずつだが大人数入れる大きさにした。

お風呂上がりに冷たいミルクが飲めるように魔力で冷蔵庫を作ったときはウルは無言になっていた。


「では、お湯を入れまーす!」


井戸から水を浮かして運んできた。

魔力で沸騰と洗浄を行い循環させる事で、魔力が切れない限り半永久的に同じ水でお風呂が入れる状態になった。

浴槽にお湯が張られ湯気がたっている。


「皆さん、お疲れさまでーす!

早速、疲れた体をお湯で癒しましょう!!」


脱衣場で服を脱ぎ、浴場へ移動した。

まずはシャワーと植物油とハーブから作った石鹸を使って体や髪を洗った。


「このセッケンていうのは泡が出て面白いナ!」

「良い香りもして肌に良さそうデスワネ」

「タルト姉、後で風呂で泳ごうゼ」

「カルンちゃん、お風呂で泳ぐのは駄目だよ。

さあ、リーシャちゃん、髪を洗うから目を瞑ってね」

「はい、タルトさま!」


シャワーや石鹸はシトリー達にも好評である。

動物の脂肪で作ったものがあるらしいが、泡立ちも悪く臭いも良くないらしい。


「じゃあリーシャちゃん、体を洗うからじっとしててね」

「あの…からだはじぶんで…あらえます…」

「遠慮しなくて良いからね。

この為にお風呂を作ったといっても過言ではないんだからっ!!

まずは腕からねー、相変わらずスベスベ、フニフニだねー。

次は足をあげてー、はい背中を洗ってお腹に行きまーす」

「タルトさま~くすぐったいです……」

「おや……リーシャちゃん…やっぱり年齢の割には大きい……。

こうやって触ってみると…」


ふにふにふにふにふにふに


「タルトさま……だめ…です…」


そこで改めて周りを見渡してみた。

シトリーは年齢も上であるし見た目通り、中々の大きさである。

次にリリスであるがまな板といっても良いくらいであった。

最後にカルンは見た目の幼さに反して、タルトより大きいように見えた。


「リリスちゃんだけが味方だよ……」

「ナンダ、タルト姉は胸の大きさを気にしているノカ?

大きくても戦闘では邪魔なダケダゾ?」


カルンは胸を張って強調しながら言った。


「それは勝者の視点だよ…もう魔法少女は成長しないからこのままか……」

「ヨク分からないがワタシは味方ダカラナ!」

「ありがとう…リリスちゃん。

とりあえずお湯に浸かろうか……」


とぼとぼと浴槽に向かった。


「はあぁぁ~生き返るぅ~」


タルトはお湯に浸かり心の痛手を癒した。


「確かにお湯に浸かるのも良いものデスワネ」

「スゲェ、チカラを抜くと浮いて気持ちイイナー」

「ヨシ、リーシャ泳ごうゼ!

「カルンさま、まってくださいー」

「全く二人とも泳いじゃ駄目って言ったのにー」

「良いではないですか、タルト様。

今はワレワレだけの貸しきりでありますから」

「まあ、そうなんだけどねー。

楽しんでるみたいだし良いかな!」

「でも、一般に解放なさるならタルト様専用のお風呂を作りマショウ。

一緒に入られたら騒ぎが大きくなりマスワ」

「やっぱり駄目かなー?」

「仮にも聖女様ですし有名でございマスカラ。

それにタルト様の美しい裸体を下賤なモノには見せられマセンワ」

「いや…そんなに大したものでは……。

それに下賤て……。

まあ、皆にはゆっくりお湯に入ってほしいからもう少し小さいのを新しく作ろうか」

「それが宜しいカト。

直ぐに神殿の上部に作成シマスワ」

「でもシトリーさん達は一緒だよ!」

「それは勿論でございマス」

「おぉーい、タルト姉も泳ごうゼ!」

「タルトさまーたのしいですよー」

「うん、今いくっ!」


タルトは殺し合いの死闘をしたカルンがリーシャと仲良さそうに遊んでるのを見て、幸せな気持ちになった。

様々な種族が手と手を取り合い、平等で平和な町作りの第一歩の気がしたのだ。


この後、村人にも解放し銭湯は大盛況であった。

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