第20話 拡張計画3

タルトは畑へ向かう途中にウルに気になっていた事を尋ねた。


(そういえば最近、夢で見た景色をその後見るような気がするんだよね、デジャビュみたいな感じかなー)

『……マスターの固有魔法に関連するかもしれません。

予知夢のような』

(予知出来るの!?

エピタフ?もしかしてそのうち時を止めたり飛ばしたりっ!)

『落ち着いてください!

まだ憶測の域を出ておりません。

ゆっくりと見極めていきましょう』

(確か……息をするのと同じように出来て当たり前と思うことが大切と何処かの老婆が…)


ウルはタルトの中二病に慣れてきて放置を習得していた。


そんな事を考えているうちに畑に着いた。

パッと見た目にも農工技術が発達していないのが分かる状態であった。

耕されてはいるが土は固く、作物も栄養が足りていないように見えた。


「ナンカ植物が干からびる寸前ダナー」

「リリスちゃんもそう思う?

他の畑もこんな状態なんですか?」

「恥ずかしながら、同じようなものです…。

人手も知識もなく何とか耕して井戸から水を運ぶのが精一杯でして…」

「…問題が大体分かりました。

土壌の改善に耕し直しと肥料を追加します。

また、拡張に必要な水の確保ですね」

「恐れながら聖女様。

この近くには水源がありません…。

遠くから運ぶのには限界があるかと…」


村長の心配はもっともであった。

遠くの川や湖から用水路を整備するなんて国家事業並みの大工事だ。

だから現在も村の井戸から手で運んでいる。

畑の大きさはそのせいで拡張出来ずにいるのだ。


「水の事は任せて下さい!

村長さんは移住者にも手伝って貰い、耕すのと肥料作りをお願いします。

詳細はこれから説明しますね」


まず地図に畑とする範囲を書き記した。

その区画を2m位まで掘り起こし、大きい石などは取り除くように指示した。

また、肥料の材料となるものを集めるよう指示した。

それは石鹸や料理油を作った際の植物の油かす、木や落ち葉の灰、動物や魚の骨粉、鳥糞などである。

森に肥料を作るエリアを決め腐葉土と材料を混ぜさせた。


「最初に皆さんのやる気を出させる為にもどうなるかお見せしましょう!」


タルトは集まった人の前で畑に手をつけ槌の分解をイメージした。

そのエリアだけある程度の深さまでフカフカの土壌になった。

次に雲を集めて水を確保し、森から植物の栄養源を抽出し水に混ぜた。


「これを…リフレッシュミスト!」


畑全体に栄養を含んだ水が浸透した。

そしてタルトが植物に触れ成長を促すとみるみる沢山の実を付けた。


「「「「「おおぉーーーーっ!?」」」」」


その光景を見た村人から歓声が上がった。


「良いですかー!

これは魔法で直ぐに結果を出しましたが、これからの作業をちゃんとやれば時間は掛かりますが皆さんでも出来ることなんです!

ですから、力を合わせて頑張りましょう!!」

「「「「「おおおおおおぉーーー!!」」」」」


さっきよりも大きな歓声が上がった。


「タルトは変な宗教の教祖になれそうダナー」

「人聞きの悪いこと言わないで、リリスちゃんっ!?」


作業の指導はリリスに任せ、村の一角にある陶器の工房をシトリーと訪れた。


「すいませーん、お願いがあるんですけどー!」

「はい、どちら様でしょう?

……これは聖女様!?どのようなご用で?」

「こういう物をいっぱい作って欲しいんです」


タルトは陶器で出来た細長い筒状の物を描いた図を見せた。


「成形して頂ければ焼きはこちらでやりますので」

「それはもう聖女様のお願いですから最優先で対応させて頂きます!」

「じゃあシトリーさん、成形したものの焼きをお願い出来るかな?」

「お任せクダサイ、タルト様。

すぐにお作りしお持ちシマスワ」

「良かったー、では宜しくお願いしますね!」

「そこのアナタ、タルト様がお待ちナノデス。

速やかに成形を始めナサイ!

遅れは許しませんワヨ」

「ひぃっ、りょ、了解しましたっ!

死ぬ気で取り組まさせて頂きます!!」


ちょっと大丈夫だったかな?と心配したタルトであったが、一応任せて次の場所に移動した。


空を飛んで地図と見比べながら水の経路を考えた。

その途中、森で遊んでたカルンとリーシャを見つけたので声を掛けた。


「カルンちゃんにお願いがあるんだけどいいかな?」

「リーシャと森を探検していただけだからイイゼ!」

「この湖からこの畑のエリアまで真っ直ぐにこのくらいの深さで溝を作ってほしいの」


地図を見せながら畑から標高が少しの高くなっている湖からの経路を示した。

距離は10km以上はあるかと思われた。


「フゥーン、溝を作れば良いんダナ?

よしリーシャ行くゾ!」

「うん、カルンちゃん」


リーシャを抱えて湖の方へ飛んでいった。

呼び方がちゃん付けに変わっていたのに、つい嬉しくなったタルトであった。


「これで準備万端!

後は皆の頑張り次第かな」


タルトは各々の進捗を見に行くことにした。

今回は出来るだけ村人に作業をさせたかった。

今後の保守を自分達で行え、他の地域にもこの技術が伝わるようにするために。

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