第13話 初陣4

タルトは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


(さっきは本当に危なかった…‥。

ウルが解毒してくれなかったら、あのまま死んでたかも…)

『ご安心ください。

魔法少女は昔から毒の攻撃を受けることが多いので解毒は得意です』

(得意なのは良いけど、あまり受けたくはないかな…。

そういえばうでの傷も消えてるけど治療魔法も使えるの?)

『万能な治癒魔法ではありませんのでご注意ください。

あくまでも細胞の再生を促しているに過ぎません。

細胞分裂には限界があり、赤子なら治療が容易でも年寄りでは再生に限界があります。

尚、魔法少女は不老ですので再生に限界がありません』

(じゃあ、私は無敵じゃない!)

『いえ、不老でも不死ではありませんので治癒不可なほどのダメージや即死は助かりません』

(あっ、やっぱり気を付けます…‥)


シトリーはタルトを見つめながら考えていた。

第二階級である悪魔が二人もたった一人の人間に敗北したのだ。

油断をしていたわけでもなく、卑怯な手を使わず正々堂々と全力で戦ったのに。

しかも、殺さないように手加減までされていたのだ。

このまま、真正面から向かっても二人と同様に勝てないであろうと思っていた。

少なくても近接戦闘においてはリリスの方が得意だったため、同等の力を持ったタルトには自分が及ばないことを理解していた。

今までの戦いを冷静になって思いだし勝つ手段を見出だそうとしていた。

ふと、あることを思い付いた。


「アナタはてとてもお強いノネ。

殺すには勿体ないから取引をシナイ?」

「取引?

どのような取引ですか?」

「先程の戦いではインビジブルエッジに囲まれた時や毒で動けなくなった時に、あの二人が油断せず直ぐに止めをさしていれば結果は変わっていましタワ。

もしワタクシに降ればアナタの命は助けマス。

その代わりにここの住人は皆殺しシマス。

どうデス?自分の命が惜しいデショウ?」


確かにあの場面で時間稼ぎ出来ていなかったらタルトは死んでいたかもしれないと理解していた。

タルトは教会の方を振り返った。

そこには心配そうにタルトを見つめるリーシャの姿があった。

タルトはにっこりと笑いリーシャを安心させ、シトリーの方へ視線を戻した。


「せっかくの取引ですが、お断りします。

私には絶対に守ると約束した大切な友達がいますので。

それに、私は…‥…‥魔法少女ですから!」


タルトが思う魔法少女像はどんなに傷ついても諦めずに立ち上がって人々のために戦うものであった。

だが、その答えを聞いたシトリーは笑みを浮かべていた。


「フフ、フフフッ。

アナタならそう答えると思っていまシタワ!

その心の弱さが敗因デスワネ」


シトリーは空中にフワッと浮き上がり、ある程度上昇したところで止まった。

そして、両手を挙げ集中し始めた。

両手の先に黒い炎が出現し渦を巻いたかと思うと球体に変化した。


「ワタクシは二人より圧倒的な魔力を持ってイマスノ。

アナタに勝つには全魔力を込めてぶつけるのが最善だと思いまシタノ。

避けても構いませんがこの辺一体は焦土と化しマスワ。

アナタの大切な人間達と一緒にネ。」


タルトはステッキを真っ直ぐ上に構えた。


「アナタなら絶対に逃げないと思いマシタワ!

自分より他人を優先する性格デスモノネ」

「オイッ、シトリー!

アタシ達まで巻き込まれるじゃナイカッ!」

「アラ、安心してカルン。

爆発前に二人とも拾ってあげマスワ!」


その間にも黒い火球は更に巨大化していた。

それにあわせてタルトもステッキに魔力を集中させていた。


「もう遅いデスワヨ、今さら魔力を貯めてもワタクシの方が圧倒的に早いデスワ。

それに先程の連戦でアナタの魔力はかなり消耗しているのではナクテ?」

「まだまだこれからです!

勝負はやってみるまで分からないものですよ?」

「負け惜しみを。

消えなサイ!…ダークインフェルノッ!!」


巨大な火球が黒いの炎を渦巻きながら落下し始めた。

シトリーはカルンとリリスを拾い上げようと移動をしながらタルトを横目で見ていた。


「終わった…」

「…これでは全員助からない…‥」


あまりにも巨大で圧倒的な火力の前に村人達は絶望の表情を浮かべていた。


(ここで失敗したら皆死んじゃう。

ウル、全力で行くよ!)

『サポートします、マスター。

あなたならきっと出来ます!』


タルトが持つステッキが輝いていた。

集約された膨大な魔力が目に見えるくらい圧縮され光を放っていたのだ。

みんなの希望の光かのように。


「マジッッック…‥…‥バスタアァーーー!!!」


ステッキから放たれた魔力は巨大な光の玉となって火球に向かっていき勢いよく衝突した。

その衝撃波が周囲に拡がり家々を破壊した。

一瞬、均衡したかに見えたが、火球は光の玉に飲み込まれ消えた。

そのまま空の彼方に光の玉は消えていった。


「ナッ…!」

「ふうぅっ、やり過ぎちゃったかな…?」

「キサマッ、何者ダッ!?

人間がワレワレを越えた魔力を有するはずがナイッ!」


次の瞬間、タルトはシトリーとの間合いを一瞬で詰めた。

魔力をほとんど使い果たしたシトリーはその動きに全く反応が出来なかった。


「魔法少女ー、パーンチッ!」


タルトの正拳突きがシトリーを打ち抜いた。


「カハッ…‥」


防御も出来ずにまともにみぞおちに強烈な一撃を受けたシトリーはその場に倒れてた。

タルトの完全勝利の瞬間であった。


『マスター、最後の技名はセンスが無さすぎです…‥』

(しょうがないじゃんっ!

私の語彙力じゃもう限界だったんだもんっ!

その前に頭に浮かんだのは岩山両斬波だったんだよっ!

どこの暗殺拳よ。

そんなの魔法少女が使うわけないじゃないっ!

一子相伝の技が使える訳ないじゃんっ!

せめて有情拳だよねっ。

痛みを与えずに天国を感じさせられるんだよっ!)

『マスター、落ち着いてください…‥。

後半混乱して何を言っているか分かりません…‥。

一所懸命頑張ったのは伝わりましたから…‥』


タルトが脳内討論している間に、勝負が決したと分かり教会から村人達が恐る恐る出てきていた。

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