第14話 事後処理

「…あの子は一体?」

「天使様ではないみたい…」

「…古の女神様では…?」

「女神様の御使いの聖女様では…?」


周りではタルトの事を見ながら村人達が目撃した光景が理解を越えており、困惑していた。


『マスター、戦いは終了しております。

まずはこの場を静めましょう』


タルトはまだ納得していないようであったが、自分の頭が悪かったのだと割りきって考えを切り替えた。


『では、皆さん。

怪我がひどい方から順にここに並んでください。

順番に治療をしていきます、元気な方はサポートをお願いします!』


最初はその言葉に戸惑っていたが、自分達を救ってくれた少女を信じその指示通り動き始めた。

まず最初に運ばれた青年は狼の魔物に左足と肩の辺りをズタズタに引き裂かれていた。

このまま長く持たないのは素人が見ても明らかであった。

タルトは始めて見る、その酷い傷に気が遠くなるのを我慢して治療を始めた。

タルトが傷口に手をかざすと淡い光が発生し、みるみる傷が塞がり始めた。


「…これは…奇跡だ…」

「やっぱり聖女様だわ!」

「おぉ、ありがたいことだ…」


周囲ではその光景を見て驚きの声をあげていた。

この世界には治癒魔法は存在したが小さな傷の治療や体力を回復させるくらいしか出来なかったのだ。

それなのに目の前の少女は重症で手のつけようがない青年を治療して見せたのだから、奇跡と思っても仕方のないことだった。

しかもタルトの魔法少女時の格好は白が基調となっており背中には小さい翼もついており、神々しくみえても不思議ではないのだ。


「終わりました、次の方をお願いします!」


タルトはどんどん運ばれてくる村人を一心に治療していった。

ようやく最後の治療を終わらせ、一息つくことが出来た。

それもつかの間、タルトは悪魔達の方へ歩き始め目の前で立ち止まった。


「…‥殺すノカ?」


気絶したままのリリスを抱えたシトリーが真っ直ぐとタルトを見つめて質問した。

タルトは無言のまま更に近づき、手を翳した。

この世界の敗者は生殺与奪の権利を勝者に委ねられるのだ。

相手が魔物でも悪魔でも人間同士であっても捕虜にされるか交渉などの材料にされる場合以外、殺されることが多い。

生かしておいた場合、禍根を残しいつの日か武器を持って復讐され立場が逆転することもあるのだから。

悪魔達は抵抗する力も残されておらず、運命を受け入れていた。

しかし、彼女等にも予想外の展開となった。

翳された手から治癒魔法が発せられ、彼女等の傷を癒し始めた。

これには当の本人達や村人達も驚いた。


「アナタ、何のつもりなのカシラ!?

ワタクシ達はアナタを殺そうとしていたノヨ!」

「そうだ、悪魔や魔物に何人もの村人が殺された、そんな奴等は皆殺しにするべきだ!」

「聖女様っ、あいつらに天の裁きを」


積年の恨みを晴らすべく村人からは怒号が飛び交った。

そのとき、シトリーは何かを決心したような顔付きをして膝まずいた。


「勝者であるアナタにお願いがアリマス。

このままではこの場は収まらないだろうから、ワタクシの命を捧げるのでこの二人は見逃してもらえないダロウカ?」

「ナニを言ってる、シトリー!?」

「二人はワタクシの指示で動いていただけデスワ。

年長者であるワタクシが責任を取りマス」


タルトは治癒魔法が終了し、ふぅっ!と軽いため息を付いてから話し始めた。


「確か私が勝ったら何でもお願いを聞いてくれるんでしたよね?」

「…?

確かに約束しまシタワ?」


その答えを聞いてしばらく考え込んだあと、満面の笑みを浮かべた。


「では、私の夢を叶えるお手伝いをしてください!」

「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」


これには全員が驚いた。


「こいつらは悪魔です、すぐに元のように人を襲い始めます!」

「そうだ、悪魔や獣人などの闇の眷属は信じられません!」


すぐに村人から不満が挙がった。

この世界の人々は闇の眷属は悪いものであると信じていた。

人々が信仰している宗教でも悪者と説かれ、小さいときから教えられてきた。


「皆さん、落ち着いてください!

少しお話ししたいことがあります。

と、その前にリーシャちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」


リーシャは言われるがままにタルトの方へ近づき、その手を握りしめた。

タルトはリーシャのフードを外し、ピョコンと猫のような耳が飛び出した。


「…あの子は獣人とのハーフだったのか…」

「何故、聖女様と一緒に…?」


「皆さんはこの小さな女の子を見てどのように思いますでしょうか?

この子は望んでハーフに生まれた訳でもないのに、そのせいで忌み嫌われ居場所がなく奴隷として売られそうになっていました。

数日、一緒に過ごしましたがとても真っ直ぐで正直で私たちと何も変わりません。

ただ、耳と尻尾があること以外は人間の女の子と同じです。

この悪魔達も自尊心があり、仲間の為なら自分の命を差し出す自己犠牲の精神を持ち合わせています。

この中の何人がその立場で同じことが出きるでしょうか?

ある種族の一部だけをみて決めつけるのはおかしいです。

同じ人間同士でも人殺しをする方がいますが、だからといって人間全部が悪い訳でもありません。

それに人を殺すには理由があり反省していたらやり直す機会を与える事も必要かもしれません。

私は種族がどうとか、誰かにどう教えられたとしても自分で見たものを信じます。

あなた方はどう感じたでしょうか?

少なくとも彼女達3人については、私が責任をもって面倒をみます。

初めて会った小娘の言うことで難しいとは思いますが、私の事を信じて貰えないでしょうか?」


村人達はタルトの真剣な訴えに耳を傾けていた。

確かに目の前に広がる光景は今まで信じてきたものを否定するようなものであった。

その中でタルト達と面識がある酒場の主人エグバートが口を開いた。


「俺は嬢ちゃんを信じるぜっ!

実際、助けてくれてなければ、この村は間違いなく全滅していただろうしな。

この恩を仇で返すような事は出来ねぇわ」

「おじさん…‥」

「だっかっら、おじさんじゃなくエグバートと呼べと言っただろ!

それに俺はそんなに信心深くないから、目で見た方を信じるぜ!」


「…エグバートの言う通りかも知れないな…」

「聖女様は私達を救って下さったのですから…」


エグバートの一言がきっかけとなり、雰囲気が一変した。

そのやり取りを見ていたシトリーがタルトに疑問をぶつけた。


「それでアナタの夢とは何デスノ?

ワタクシ達はナニを手伝えば宜しいのカシラ?」

「私は種族関係なく争いのない町を作ろうと思います!

誰もが笑顔で暮らせる平和な町にしたいですね」

「…フフ、フフフッ、フハハハ!

本当に変わってますノネ、アナタハ。

普通なら夢物語に思いますが、アナタだと現実味があるように聞こえマス。

とても面白い、喜んで協力させて頂きマスワ!」

「先は長いことも夢物語みたいだと思われてもしょうがないと思います。

でも、共感する人が増えれば実現出来ると思うのです」

「では、誓いの証拠にアナタの眷属になりマスワ」

「眷属?」

「我ら闇の眷属は生まれながらに邪神様を主として忠誠を誓ってイマスノ。

それを新しく血の契約をもってアナタを新しい主として忠誠を誓いマスワ」

「分かりました、早速契約を進めましょう」


シトリー達はタルトの前に膝まずき、声を揃え誓いの言葉を唱え始めた。


「血の契約の証として主となる者の血をお与えくだサイ」

「血?…私の?…どうやって?」

「このナイフをお使いクダサイ」

「…‥…‥」

「どうされマシタ?一滴ずつで構いませんワ」


ナイフを受け取ったタルトは指に刃をあて固まっていた。


(アニメとかでよく見るけど実際にやるとなると怖くないっ!

よく考えてみて、薄皮だけでなく血が出るくらい深く刺すんだよっ!?)

『マスター、諦めてください。

あれだけ良い演説をしたのですからイメージを崩さないようお願いします』

(無理無理無理無理っ!

怖いものは怖いって~)


ガシッ、プスッ


「痛いっ!」


痺れを切らしたリリスがタルトの腕を抑えてナイフを少し指に刺した。


「焦れったいナー、早く済ませようゼ」

「全くリリスは忍耐が足りないんダカラ」

「うぅ…、痛いですがどうぞ…‥」


タルトの指から一滴ずつ彼女達の口に垂らして飲み込んだ。

一瞬、三人は淡い光に包まれて元に戻った。

これで血の契約は完了し正式にタルトの眷属となった。

その様子を見ていたリーシャは意を決して声を発した。


「…タルトさま…リーシャもけんぞくになりたいです…」

「リーシャちゃんも?

私で良ければウェルカムだよっ!」

「ワタクシがお手伝いシマスワ」


シトリーにサポートして貰いながらリーシャも血の契約を交わした。


「…あの…私達も聖女様の眷属にして頂けますでしょうか…?」

「ぜひ、我らにもご加護を!」


気付けば村人達に囲まれていた。


「えぇーー、この人数ですか!?

うぅ、貧血になっちゃいそう…‥」

『マスター、失われた血液はすぐに治癒で再生しますので安心してください』

「喜んで良いのか分からないよ…。

えぇーーい、分かりました!

希望される方は一列に並んでください。

そして、私の考えに賛同頂けるなら、この<タルト>の名において皆さんをお守りします!」

『すっかり女神らしくなりましたね、マスター』

(茶化さないでっ!こうなったらやけくそよ。

リーシャちゃんが自由に笑って暮らせる世界を作っちゃうんだから!)


こうしてある意味、タルトにとってデスマーチが始まった。

村人全員が終わったころには日がくれ始めていた。

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