第12話 初陣3

「オイッ!大丈夫カ、ケルン!」


ツインテール少女のリリスがケルンに近より声を掛けた。

ケルンは負けたにも関わらず気持ちの良い顔をしていた。


「…アイツは手加減しながら戦ってやがっタ…こっちは殺す気でいたのに。

…完全にアタシの負けダ…あんなに強い人間もいるんダナ…」


二人のやり取りを見ながらタルトは思った。

負けた仲間を心配する気持ちがあるなら家族や仲間に対する愛情が悪魔にもあるんではないかと。

一般的なイメージではもっと残忍で狡猾であったが、この世界の悪魔は愛情や気高さを持ってるような気がした。


「まだ、続けますか?

引いて頂けるなら追撃をする気はありません」


タルトは残り二人の悪魔を見据えながら宣言した。


「そんな訳ないネ!負けっぱなしで帰れないネ」

「二人で同時で来ますか?

私はそれでも構いません!」


タルトは今までの会話からプライドの高さを感じていたため、悪魔の自尊心を刺激し1体1の形式に持ち込もうとした。


「フフフッ、脆弱な人間ごときに二人がかりで戦うなんてありえまセンワ。

そんな勝ち方は美しくないデスワ。

それなら負けて死んだ方がましデスワネ」

「ケルンの敵はこのリリス様がとってやるネ」


リリスはケルンから離れて構えを取った。

武器は何も持っていなく徒手空拳でのスタイルのようだ。

長い爪が不気味にどす黒く光っているようだった。


『マスター、両手に魔力が集中しています。

素手ですがご注意ください!』

(ありがとう、ウル。

側でサポートしてくれて心強いよ!)


「イクネ、オオオォーー!」

「ハアアァァーー!」


タルトとリリスは高速で手刀とステッキの応酬を繰り返した。


キンッ

カッ


タルトは相手の手刀に最大限の注意を払いある程度の距離を保とうとした。

手刀とステッキではリーチの差があるのだ。


ガッ

カッ

キンッキンッ


身体強化を最大限発揮することがなかった為、極度に強化されたパワーとスピードによって振り回されていたタルトであった。

ケルンの時よりかは慣れてきているが、その半分の性能も活かせていなかった。

リリスは他の二人と違い魔力よりもそのスピードと技を活かしたスタイルであった為、少しずつリリスが押し始めた。


チッ


リリスの手刀がタルトの頬を掠めた。


ガクッ


「!?」


その瞬間、タルトは全身の力が抜け地面に両膝をついた。

腕や足が痺れ力が全然入らなかった。


「アハッ、効いてきたようだネ!

このポイゾナスクローを喰らって良い気分ダロ?」


リリスは勝ち誇ったようにタルトの顔を覗き込んで声を掛けた。


「この毒を受けたらもって精々、5分といったところダネ!

その間に君が守ろうとした人間達に死んでもらうことにするヨ、その死に様を見て絶望の中で死ぬ君を見ることに決めタネ♪」


そう言うとリリスは胸の前で両手を構えて魔力を集中し始めた。

掌の間に深い翠色の球体が生成されピンポン玉くらいからバスケットボールくらいまでみるみる大きくなっていった。


「…させない…‥マジックバレットッ!」

「!?」


いつの間にか起き上がったタルトはリリスに向けて魔力弾を放った。

不意を突かれたリリスだったが上半身を反らし紙一重でそれを躱した。


「キサマ、何故動けるンダ!?

確実にワタシの毒に侵されていたはずダロ!」

「敵に教えることは何もないかな。

あなたの技も教えてくれるなら考えても良いけど?」


リリスは忌々しそうにタルトを睨んでいたが、表情が急に怪しい笑みに変わった。

タルトはその急な変化に嫌な予感がした。


「まあ、よく考えれば順番が変わっただけなんダヨネ♪

村の連中を殺してからお前をゆっくり殺せば良いんだヨ」


リリスは掌の翠色の球体を空に向けて思い切り投げた。


「皆、逃げて!

何か嫌な感じがするっ!!」


だが村人達は何が起こってるか分かっておらず動くことが出来なかった。

そもそも、魔物との戦いで怪我人も多く直ぐに移動できる状態ではなかった。


「もう遅ネ♪

弾けロッ、ポイズンレイン!」


空に飛んでいった球体が勢いよく弾けて翠色の雲が上空に広がりポツポツと雨が降り始めた。

雨に当たった村人達が次々と苦しみ始めました。

教会の中にも雨は浸入しどこにも逃げる場所はなかった。


「うわぁっ!全身が痛い!」

「肌が焼けるみたいだ!」

「助けて…お母さん!」


翠の雨は無情にも止むことなく降り続けた。


(これはまずい!急いで助けないと…)

『広範囲の解毒魔法はありません!』

(でも、どうにかしないと!

…‥…‥…‥毒に対する抗体は直ぐに精製できるの?)

『精製は可能ですが全員に飲ませる時間はないと思われます!』

(それは任せて、抗体の精製を大量にお願い!)


タルトは近くの井戸にステッキを向けて叫んだ。


「水よ、立ち上がれ!!」


すると井戸から勢いよく水柱が上がった。


(ウル、抗体を水に急いで混ぜて!)

『理解しました、マスター!』

「水よ、弾けろ!リフレッシュミストッ!!」


水柱が爆発し辺りは濃い霧に一瞬で包まれた。

毒に苦しんでいた村人達は霧を一息吸う毎に痛みや痺れが取れてくるのを感じた。


「…痛みが…消えて…」

「…これは奇跡か…」


次々と村人達は起き上がり喜びあっていた。


「ソンナ…馬鹿ナ…」


自分の攻撃を完全に無効化され、リリスは呆然と眺めていた。


「あなたは私を怒らせました。

強めのお仕置きをさせて頂きます!

ゼロ距離マジックバレットッ!」

「ナッ!?」


その隙をタルトは逃さず霧に隠れて近づきリリスのお腹に魔力弾を叩き込んだ。

完全に油断をしていたリリスは勢いよく吹き飛び壁に激突した。


「リリスッ!」

「安心してください。

彼女は生きています」

「キサマ、ワタクシ達を相手に手加減してイマスノ?」

「私はこれ以上、誰も死んでほしくありません。

あなた達なら話せば分かってくれると思います」

「ナニを世迷い事ヲッ!」


こうしてタルトは第二戦も無事に勝つことが出来た。

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