第11話 初陣 2

カルンは腰に差していた小振りな剣を抜いた。

刀身は三日月のように曲がり黒光りしていた。

二人はお互いの出方を探る為、痺れを切らしたカルンがタルトに向かって飛び出した。


「キャハハッ!すぐに死ぬんじゃないぜ」


ガキイィィーーン

キンッ

ガッ


一瞬のうちに剣とステッキの応酬が発生したが、すぐにケルンは距離を取った。

一般人にはとても剣閃を追うことが出来ない速度であったため、タルトを魔法使いタイプと思い接近戦に弱いとケルンは考えていた。

だが、数合、剣を交えただけで考えを改めることにした。

手を抜いた訳でもないのに、簡単に捌かれてしまったのだ。


「チッ!いかないカ」


平然を装っているタルトであったが内心はとても焦っていた。


(なになに、今の!?

すごい早いし、確実に殺しにきてたよねっ!)


驚くのも無理はない。

数日前まで世界でも有数の安全地帯である日本に暮らしていた普通の女子中学生だったのだから。

生まれてこの方、喧嘩ひとつしたこともない女の子が急に戦場に放り込まれ殺しあいをしているのだ。

膨大な魔力による身体強化によりパワーとスピードが上回っていることで足りない技能や経験をカバーしていた。


(明らかに動きは素人なのに人間とは思えないパワーとスピードをしてやがるナ)


ケルンは力押しは諦め、戦法を変えることにした。


「ダークインパクトッ!」


手のひらから黒い球体を出しタルトに向けて放った。


『強力な魔力反応です、迎撃してください!』

「マジックバレットッ!」


タルトが放った魔力弾と黒い球体がぶつかり大きな衝撃が発生した。

爆発を隠れ蓑にしてケルンは一気に距離を詰め、死角から攻撃を仕掛けた。


(殺っタッ!)


キイィーーン


「馬鹿ナッ!?」


死角からの攻撃に関わらずタルトは来るのを知っていたかのように弾いた。

戦いが始まった時から魔力関知も全開にして見えない攻撃も察知していたのだ。

弾かれた事に驚いた一瞬の隙をタルトは逃さなかった。


「マジックショット!」


ステッキの先から無数の魔力弾が散弾銃のように発射された。

至近距離で広範囲に発生した無数の魔力弾を避けれずケルンに直撃した。


ドゴオォーーーン


「カハッ」


派手に吹っ飛びケルンは地面に叩きつけられた。


「…‥…何であれが分かったんダ…‥」


ヨロヨロと起き上がりながら悪態をつくケルン。

タルトも相手が生きていたことにほっとした。


(手加減はしたけど思い切り地面に衝突したから焦ったけど、生きててよかった…。

悪魔だから人間より頑丈なのかな)


ケルンは生まれて初めて人間に競り負けてイライラが溜まっていた。

悪魔より脆弱で魔力も弱く下等生物と侮っていた人間に負けている自分も許せなかった。


「アタシは第二階級の悪魔ダ!

脆弱な人間なんかに負けるわけがナイッ!!」


ケルンは剣に魔力を集中し始めた。


「覚悟はイイカ?

この奥の手で確実に仕留めてヤル。

インビジブルエッジッ!!」


ケルンの刃は自分の目の前にある空を切った。


「なっ、何?」


タルトは臨戦態勢のまま待っていたが何も起こらなかった。


「これでお前はもう終わりダ♪

命乞いをするなら奴隷にしてやっても良いゼ!」


ケルンの余裕な態度に不気味さを感じたタルトは一歩後ろに下がった。


「痛っ!」


タルトの腕に小さな切り傷が出来、真っ赤な血が垂れてきた。


「アハハ!ようやく気付いたみたいダナ。

お前は見えない無数の刃に囲まれていて、少し動いただけで血だらけダ!」


「少し質問をして良いかな?」


タルトは構えを解いて話し始めた。


「あなたの位は第二階級と言っていたけど、もっと強い悪魔もいるの?」

「アァッ!死が近づいて頭がおかしくなったノカ?

まあ、サービスで教えてやるゼ。

上には第一階級の四大悪魔がいるナ。

第二階級のヤツラには負ける気がしないゼ!」

「そんなに凄い悪魔に負けるなら私も人間では上位の方なのかな」

「アタシにこの技を使わせた人間は今までいねぇゼ。

殺すのが勿体ないくらいダ」

「それは凄い名誉を頂きました。

このまま見逃してくれると嬉しいのですが」

「こんな危険な力を持った人間を見逃すはずないダロ!

そろそろ会話も飽きてきたし殺すーー」


そう言って一歩踏み出そうとしたケルンだったが…‥


「イテッ!?」


ケルンの腕にタルトと同じように小さな切り傷が出来た。


「私が何も策もなく長話をしていたとでも?

あなたの回りに見えない真空の刃を無数に配置したの。

名付けて…‥インビジブルエアエッジ!」

「人の技名をパクるんじゃネエ!

これじゃお互いに動けなくなったじゃネェカ!!」

「あっ!そうそう、言い忘れてた」


バキッ

バキバキッ

バキッ


「あっもう一本!」


バキッ


タルトは見えないはずの刃を正確にステッキで破壊していった。


「これで形勢逆転だね♪」

「何故、見えない刃の位置が分かるンダ…‥?」


タルトは会話中に真空の刃を設置してる間に腕を切られた刃のパターンを解析し、魔力関知で位置を探っていた。

まあ、タルトが凄いのではなくウルに仕事をぶん投げたのだが…‥

さも仕事をしましたと言わんばかりにドヤ顔をしながら宣言した。


「これであなたの負けです。

ちょっと強めのーマジック…バレットッ!!」


ドカアァーーン


タルトから放たれた魔力弾は動けないケルンにクリティカルヒットした。


「…‥クソッ…もう動けネェ…‥アタシの負けダ…」


ケルンは仰向けに倒れたまま負けを宣言した。

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