第10話 初陣 1

「何が起きてるんだろう?

急いで戻ってみよう!」


タルトは竜車に命じると大急ぎで来た道を戻っていった。

村に近づくと教会前の広場で村の若者やハンターらしき者と大きな狼のような魔物が戦っていた。

魔物がいる世界では襲撃を受けた際のマニュアルが整備されており女性や子供、老人などの非戦闘員は教会へ避難し、若者やハンター稼業の者が周囲を守るような陣形を取っていた。

教会といっても魔物が侵入できない特別な力があるわけでもなく、村の中心にあり一番強固な作りとなっているだけである。

但し、この世界には魔法や魔物が存在するため、とても安全な建物とは言えないが1ヶ所に集中していた方が守りやすいのであった。

村人側の方が少数のため劣勢になっていた。

基本的に村の若者は戦いの素人であり、ハンターも畑を荒らす害獣や時々、はぐれた弱い魔物を討伐するぐらいであった。

タルトはエグバートが教会前で武器を構えているのを見て急いで駆け寄った。


「エグバートさん、大丈夫ですか?

これは何が起きたんですか?」

「バカ野郎!?何で戻ってきた?

悪魔が魔物を連れて攻めてきやがった。

とにかく嬢ちゃんたちは教会に避難してろ!」


タルトが振り返ると狼の後ろに人影が3人立っているのが見えた。

真ん中には20歳くらい、長いストレートな黒髪で仕草に気品が感じられる女性である。

左にはタルトと同年代くらい、ツインテールが特徴でとても楽しそうに戦いを眺めている少女である。

右にはタルトより年下と思われる肩くらいのウェーブがかった髪をして、どこかわんぱくそうな女の子である。

3人に共通するのが背中に小さい黒い羽とお尻にザ・悪魔っぽい尻尾が生えていた。


(あれが悪魔か、見た目は可愛い女の子なのに人が襲われてるのに楽しそうに眺めてる。

早く助けないと狼だけで全滅しちゃいそう)


「エグバートさん、この子をお願いします!

敵は私が撃退します!」

「なっ!?何言ってやがる。

少し魔法が使えるくらいじゃ、すぐに殺されるぞ!」

「大丈夫です!

こう見えて結構、強いんですよ♪」

「バカ野郎!どこに行く!?」

エグバートの制止を振り切り、タルトは変身して空に飛び上がった。


「ウル、弾道制御をお願い!

少し強めにいくよ」

『了解です、マスター!』


タルトはステッキを構えて狼の位置を全て確認した。


「行くよー、マジック…‥マシンガン!!」


ドドドドドドドド……


ステッキの先から魔力弾が高速で連射された。

人間相手ではないことから殺傷力がある威力であるが、応戦している村人には被害が出ないように調整をしている。

発射された魔力弾は綺麗な放物線を描き狼に向かって飛び、ウルの完璧な誘導によって獲物を捉えた。


「「「ギャウッ」」」

「「「「「キャインッ」」」」」


魔力弾が次々に狼へヒットして粉微塵に爆殺していった。


一瞬のことで何が起こったのか分からずポカンとする村人と悪魔たち。

その間にゆっくりと広場中央に降りてくるタルト。

そのまま教会の方へ振り返り…


「村の方たちは教会前まで後退し守備を固めてください!

動ける方は怪我人を手伝ってあげてください」


村人達は我に返りすぐさま指示にしたがった。

それを確認しタルトはそのまま正面を向き悪魔と対峙する。


「どうしてこんな事をするのですか?

狼の魔物は全て倒しました、大人しく引いてくれませんでしょうか?

引かないなら私がお相手致します!」


じっとタルトを見ながら静かにしていた悪魔3人娘だったが、今のを聞いて笑いだした。

真ん中にいた年長と思われる悪魔が一歩前に出て話し始めた。


「なかなか笑わしてくれマスワ。

たかが人間一人で悪魔3体を相手にするなんて。

その勇気を評して自己紹介させて頂きマスワ。

貴方も誰に殺されるか知りたいでしょう?」


右のワンパク少女が手を挙げて…


「ハイ、ハイ!アタシが一番ダ!

名前はカルン、位は第二階級ダ」


次に名乗ったのは左のツインテール少女だった。


「次はワタシダネ。

私はリリス、同じく第二階級ダネ」

「最後はワタクシデスワネ。

私はシトリー、第二階級デスワ。

この階級の頂点に立つワタクシ達を相手にして勝つ気なんて笑ってしまいマスワ」


タルトは戦闘態勢のまま自己紹介を聞いていた。


「どうやら戦う以外の選択肢はなさそうですね。

戦う前に村を襲った理由を教えて貰えますか?」


少し考えてシトリーが答え始めた。


「理由は簡単デスワ、上からの命令なの」

「そうでなくても人間がいれば襲いたい衝動が抑えられないケドネ」


横やりを入れるツインテール少女。

到底受け入れられる理由ではなかったが、これ以上問答しても結果は変わらないと思ったタルトであった。


「分かりました、私が勝ったら私の命令に従って貰いますからね」

「フフフッ、良いでしょう。

ワタクシ達が負けたらあなたの命令に従いマスワ。

まあ、あなたには死以外の選択肢はありませんケド」


ワンパク少女が手を挙げてアピールを始めた。


「ネエ、シトリー。

見てるのも飽きたからアタシがヤリタイ!」

「良いでしょう。

カルン、少し魔法が使えるくらいでいい気になっている人間に悪魔の恐ろしさを教えてあげナサイ」


そうしてタルトと カルンの一騎討ちが始まった。

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