2人でスクエアやってみた
瀬岩ノワラ
2人でスクエア
スクエアとは、雪山で遭難した4人の学生たちの身に起きたとされる都市伝説である。
捨てられた山小屋で、吹雪を過ごさなければならなかった4人が、寒さで眠らないために部屋の四隅に一人ずつ立ち、壁伝いに一人ずつ移動して仲間の肩を叩きあって、吹雪を乗り越えて全員救助されたという話だが、実際にこの方法は4人では無理で、5人目がいなければできなかったという内容である。
「ねえ、これやってみたい」
「二人しかいないのに、どうするんだよ……楓」
オカルト系のサイトを見た2つ下の妹の馬鹿な発言に、颯太は呆れた顔をした。
「いや、できるって? 1人が壁の隅からスタートして、もう1人の背中を叩くまで隅から隅を回り続ければ」
「2人交代で部屋をぐるぐる回るだけの地味な作業をしろと……」
都市伝説を信じるかはともかく、わざわざやってみたいとは思えなかった。
「降霊術かもだって。意外と面白いかもしれないよ?」
「その好奇心、なんとかならない?」
「――やろう!」
ほぼ押し切られる形で、二人だけでスクエアをすることになった。
颯太は自分の部屋の窓とカーテンを閉め切る。時刻は夜。両親は帰りが遅いので、お馬鹿な遊びを始める兄妹を止める人はいなかった。
散らかったものを片付けて、四隅のうちの二箇所に兄妹は立った。勉強机の近くの隅に楓が、部屋の戸の近くの隅に颯太が陣取る。他の二隅には、タンスと本棚がある。これらを反時計回りで移動していく。
「じゃ、さっさと終わらせんぞ」
「えー」
乗り気でない兄へ不満げな声を上げる妹を無視して、颯太はドア近くの電源を切って消灯した。
どんな部屋でも光が一切なければ、何も見通せない暗闇となる。現に、颯太の視界は真っ暗だった。目が慣れてくる兆しもない。
「お兄ちゃん。それじゃ移動するよ」
「ほい」
声に返事すると、すぐさま足音が静寂の中を響いた。そう思いきや、ガタンと何かにぶつかる音。
「これ、椅子? なんでこんなとこにあるの?」
「俺の机がそこにあるんだよ……」
その後、何度もぶつけたような衝突音が響く。大丈夫かと流石に心配した矢先に、背中を叩かれたので颯太も移動する。
「じゃ、俺も行くぞ」
暗闇といえども、ここは自分の部屋。勝手はよく知っている。ドアから勉強机までに障害物はないので、真っ直ぐ歩を進めて、一つ目の隅に辿り着く。そこから机を避けて……
「――っ! いてっ」
右足の小指に、椅子の脚が直撃してうずくまる。妹が通ったせいかは知らないが、普段と位置がずれていた。
「お兄ちゃんも引っかかってるじゃん」
「うるせーな」
じわりと痛む小指を無視して、部屋の壁に沿って進む。無事にタンスがある隅まで、移動できた。そこから曲がって進むと、壁の感触が急に柔らかくなって一瞬ビビる。カーテンを閉め切った場所だった。
驚かせるな、と内心で思いつつ、手探りで前に進み、――やがて妹にぶつかった。
ごちん、と楓が額を壁にぶつけた音がした。どうやら肩を叩く前に、追突してしまったようだった。
「あ、ごめん。前にいたの、分からなかった」
「けっこう痛かったんだけど……」
「だから、ごめんって言ってるじゃん」
恨みがましそうな妹の声。だが真っ暗闇で動き回れば、事故は起きるもの。そう妹を説き伏せて、スクエアは中止になった。
「じゃ、電気つけるからな」
そう手を伸ばして、颯太は電源スイッチがないことに気づく。一瞬、疑問を感じたが、近くに本棚があったので納得する。電源はドアのところにしかない。
移動して部屋の明かりをつけると、始める前と変わらぬ、自分の部屋が戻ってきた。
「……ん?」
再び違和感を覚える。
「なあ、楓。お前、俺の背中を叩いた後、動いたりしてないよな?」
「動いてるわけないじゃん、何を言ってるの?」
さっきまで楓がいた本棚近くの隅と、自分がスタートしたドア近くの隅を、颯太は見比べる。どう考えても手が届く距離ではない。
冷たいものが背中をよぎるのを感じながら、颯太は妹に声を掛けた。
「お前、俺のところまで来れて無くね……?」
あの暗闇の中で、背中を叩いてきたのが妹でないというならば、いったい誰が……?
2人でスクエアやってみた 瀬岩ノワラ @seiwanowara
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