第二十四話 「雪解け」

 それはもう晴れやかな日々が始まった。

 魔王としての責務はとてもやりがいのあるものだった。  


 配下の魔人達は気のいいやつばかりで、俺が人族だからと拒絶されることはほとんどなかった。人族は大抵の場合魔人の特徴を持つ者を蔑み拒絶するというのにだ。

 中には姿形が醜い者もいれど、薄汚い人間などよりはよほど綺麗に見えた。

 俺がしたように下剋上を試みる魔人もいたが、彼らは敗北すると潔く死ぬか忠誠を誓い。懐に潜ってからの裏切りなどは在りえなかった。

 力が全ての世界に生きる種族はなんて美しいのだろう。

 だから俺は彼らに報いるため、戦場では常に最前線に立って戦った。


「魔王アレン! 世界の裏切り者め! その首貰い受ける!!」

「あぁ、獲れるものなら好きなだけ獲っていくといい。それとな、世界は人間のものじゃあないんだよ」


 当然ながら戦場で相まみえたり、城に侵入してくる者の中には英雄や勇者と呼ばれるような誉れ高き者がいる。

 それらは俺に傷をつけるだけでなく、一度や二度は殺してきたこともある……が、最後には一人残らず死に絶えた。

 どうしてかって?

 それは殺意以外何も携えずに立ち向かってきたから。

 絆して和解しようとは欠片たりとも考えていなかったから。

 十や百殺されたくらいで俺の心は折れないことを知らなかったからだ。


 それでたしか、三十年ほど時間をかけて世界に巣食う人間の三割を浄化した辺りだったか。


「申し訳ございません魔王様! エルフと半魔の侵入者二名、こちらへ向かってます! 奴らは『バカな弟子を叱りに来た』などと言っており、城内の兵を総動員して当たらせていますが抑えきれそうにありません!!」

「あー……うん、アレは無理だろうねぇ……。誰も死なないうちに通してあげて。命は大事だからね」


 ちょうど四将が出払っている際にやってきてしまった。

 すぐに轟音と共に扉が吹き飛ばされ、勇士達の死臭が残る謁見の間に見知った二人がずかずかと足を踏み入れる。


「うひょーっ! ほんとに魔王になってやがるよアイツ! さすがは俺らの弟子だな!」

「馬鹿者、ふざけている場合ではない」


 ライノはやはり朗らかで馬鹿げたことを言い、それをアイヴァラが冷静にたしなめる。二人は何ら変わりなかった。

 ただ、その瞳の奥ははっきりとは読めない。

 怒っているようにも見えたし悲しんでいるようにも見えた。

 

「これはこれはお師匠様、お身体の調子はよろしいですか?」

「おう! 俺はいつだって元気ピンピンだぜ!」

「お前こそどうだ、無理をしていないのか?」

「無理なんてそんな! ここでの生活はとても幸せなものですよ!」

「そのようだな。先ほども誰一人として逃げなかった故、骨が折れたぞ。ここでは・・・・えらく慕われているようだな」

「そうなんです! 彼らはですね――」


 少々棘のある言い方ではあったが気にせずに、いかに魔人が人族とは違って素晴らしいかを熱弁した。


「というわけで! 師匠達も俺と一緒に戦いましょう! 二人には四将の座を与えますよ! どうです?」


 しかし二人は答えない。


「心配せずとも人族以外には手を出しませんよ! やつらの土地を全て奪い取って、それをみんなで分けるんです! ね? 素晴らしいでしょう!?」


 再度答えを求めると、ライノが頭をかきながら先に口を開いた。 


「あー、わり。今はそんな気分じゃねえんだ」

「言わなくても分かっているだろうが、お前を止めにきた」

「へぇ、止めに……。どうやって止めるんです? 俺を殺しでもしますか?」

「どうせお前は何度殺したって止まんねーだろ。その目を見りゃわかるぜ」

「だからまずは説得する。……アレン、愚かで愛しい弟子よ。我々と共に罪を償おう」


 魔王になって初めてのことだった。殺意や害意を持たずに俺をどうこうしようという言葉を聞いたのは。

 やはり師匠達は短絡的で思慮の欠けた人間とは違う。

 だからなおさら人間なんぞに肩入れさせたくはない。


「アイヴァラ、聡明で廉直たる我が師よ。……えぇ、知っていましたよ。師匠ならそうやって手を差し伸べてくれると。ですがそれは無理な相談です」

「実は私もお前がそう言うことを知っていた。言葉で分からないのならやはり、身体で分からせるしかないな。……やるぞライノ」

「遅めの反抗期ってヤツだな! 腕がなるぜ!」


 そして始まった。

 二百年ぶりの手合わせだ。


「お手柔らかにお願いしますよ……っとォ!」


 瞬時に距離を詰めてきた黒い巨躯、繰り出される剛拳をスレスレで避ける。

 そのかわりに皆から意見をもらって手作りした玉座が砕け散った。

 勇士達の血を塗りたくり、鉄よりも硬い鉱石でできているのにだ。


「馬鹿者、しっかり当てろ」

「当てたと思ったんだけどなー」

「ライノは相変わらずの馬鹿力ですね。すでにおと「衰えたなんて言わせねーぜ!?」


 言葉の通り、すぐにこちらを向き直って止まらぬ連撃を繰り出してくる。

 力と速さ、そして精度が桁外れの殴り蹴り頭突きが無数に放たれて、


 俺はそれを全て捌いた。


「にゃろう……! 師匠からのプレゼントだぞ!? 一つくらいもらえってんだ!」

「嫌ですよ。一発でも食らえば死んでしまいますから」

「おいアイヴァラ!」

「しようのない奴め」

 

 見ていられないなと、アイヴァラも加勢に入る。

 一息で十の矢を放ち、それらはまるで意思を持っているかのようにライノの背後から俺目がけて飛んでくる。ライノはライノで後ろに目がついているかのように避け続ける。

 もちろん意思を持っているわけではなく後ろに目がついているわけでもない。

 ライノならどうするか、アイヴァラならどうするかをお互いに分かっているからできる、二人の信頼関係の上に成り立つ奥義だ。 


「――《エヨアザム煙人ケムリビト》《タカラウブムスベ》《ムスベヨカラグサ》」

 

 むろんアイヴァラは矢を放ち時折ナイフを投げるだけでなく、魔法を誤爆の一つもせずに極めて冷静に行使する。

 八百年と生きて最も敵に回したくないと願った相手だ。

 いざ相手にするとこちらも頭をフルに回転させ全力を出さねばならず、大変骨の折れることこの上ない。


「《ハシカゼイカリニコタエヨ》《噴骨砕芯フンコツサイシン》《ンデラカセ蝗火イナゴビヨ》」

「……これまた達者になったものだ」

「師匠の教え方が上手かったからですよ」

 

 言い方を変えれば、全力を出せば対処できるということ。

 

 どんな酷い目に遭おうと抵抗できずに泣き叫んでいた頃の俺はもういない。

 小指一本しか使わなかったライノに喧嘩で負けたのも。

 アイヴァラの稽古から逃げ出した三秒後にぐるぐる巻きにされたのも。

 みな遠い過去のことだ。


「オイオイどうすんだよアイヴァラ! あいつめっちゃ強くなってんぞ!?」

「やり方はどうであれ先代の魔王を打ち倒したのだから、強いに決まっているだろうが」

「知り尽くしていますから」


 ライノがアイヴァラを、アイヴァラがライノを知り尽くしているように、俺だって二人のことを知り尽くしている。

 二人の戦う姿を誰よりも近くで誰よりも長く見てきたのだ。

 それがこんな形で役に立つとは思ってもいなかったが。


「このままやっても勝てはしないと薄々気付いているでしょう? 二人が俺を強くしたからですよ。今日はこの辺りで帰って休んだらどうですか?」


 それともこの城に泊まってはどうですかと提案しても、二人が手を止めることはなかった。

 二人の相手をするのは一瞬たりとも気の抜けないものであったが、それでも少しずつ楽になってきた。


「おやおや、少々鈍ってきましたねぇ」

 

 ライノは衰えていないと言いながらも、やはり精彩を欠いた動きが目立ってきたのだ。

 千年は優に生きると言われているハイエルフのアイヴァラはともかく、彼はただの魔人と人間のハーフである。

 いつ死んでもおかしくはないお歳には違いない。


「アイヴァラ、アレでいくから頼むわ」

「分かった」


 するとライノが拳を止めて一旦距離を取り、ぽつりと告げた。

 次いで深く空気を吸い込み、



「――うォアアアアアアあああああああああああッ!!」 



 耳をつんざくような声で咆哮。


「何ですか……その姿は……」

 

 ライノは初めて見る姿に変容していた。

 漆黒の巨躯が少し縮み、黄金色に輝く鎧のようなものが全身を覆っている。


「いくぜぇ……」


 大きく右足を振り上げ、床を踏みつける。

 それで床が砕けて埃と破片が舞い上がる。

 音と衝撃からして先ほどより膂力が数段上がっているのが分かった。

 さらにその衝撃でバランスを崩さないようにと気を取られた刹那、彼は目と鼻の先に。


「速っ――」


 避けようとした時にはすでに両腕を掴まれていて。

 そのまま流れるように羽交い絞めにされた。

 同時にライノは俺の口を塞ぎ、アイヴァラに目線を飛ばす。



「――《結ベヨ絡ミ草》《資モ産モ凍テ結ベ》《イマシメノ磐牢バンロウ》!!」



 アイヴァラが全身全霊でそれらを唱え、俺はライノと共に厳重に拘束された。首から下をがっちりと固められた。

 やられた。

 多少侮ってはいたが油断していたわけではない。

 それでも対処できなかった。


「魔王様を助け出せ!」

「おぉッ!!」

「すぐにお助けします!」


 影で見ていた魔人達が一斉に飛び出す。

 

「やめろお前達!! このような拘束すぐに解く! 何も手を出すな!」


 情けない真似はしたくなかった。

 何より二人に皆を傷付けさせたくなかったし、二人を傷付けてほしくもなかった。


「ひゅー、さすがは魔王様だぜ。かっくいー」

「……師匠、さっきのは何です」


 冷やかしを無視して問う。

 首を回して後ろを見ると、ライノはすでに黄金色の鎧を纏ってはいなかった。

 しかしあれは見間違えではない。


「へへ、お前にはまだ一回も見せたことはなかったな。アレはじーちゃんに教わったんだけどな、使うとめっちゃ強くなれんだ。んで、めっちゃ命を削る。反動がでけえんだ。……実は今もクッソ身体が痛え」

「何を馬鹿なことを!!」

「私もそれを見るのはまだ二度目だ。一か八かの窮地に陥った時にしか見たことはない。それほどお前が強くなっていたということだ」


 アイヴァラが弓をしまってゆっくりと寄ってきた。


「この程度の拘束で俺をどうこうできるとでも?」

「もちろん」

「俺が自爆すれば全て吹き飛びますよ?」

「そうか。ならやってみるといい」


 拘束から逃れるために二人を巻き込んで自爆。

 そして俺だけが無傷な状態で蘇る。

 そんなこと、できるわけがない。


「…………卑怯ですよ」

「これが最善手なのだから仕方ない。氷も根も取ってやろうか? そんなものなどなくとも後ろの馬鹿一人で十分だろうしな」

「どんなに衰えてもお前を締め続けるくらいはできるぜ!」

「……ハッ! 俺は不死者だから大丈夫ですけど、二人はいつまでそうやっているつもりで?」

「お前が頭を冷やすか、それか我々が死ぬまでだな。ハイエルフの執念深さをなめるなよ?」

「我慢比べといこうぜ?」


 二人は死ぬまでこうしていると言い切った。

 俺がそんな死に方をさせないことを知ってて。

 全部見抜かれていた。


 だから俺は最後の足掻きに二人を説得しようとした。

 決して話に乗らないことは分かっていながらも。


「師匠達も人間の醜悪さを知っているでしょう!? それこそ裏切られたことだって何度もあるはずだ」

「まぁ、あるわな」

「違いない」

「じゃあなおさら、奴らが世界を食い散らかして壊してしまう未来だって想像に難くないでしょう!? 全ての人間が団結すれば魔界を攻め落とすことだってできるのに。世界から同族の三割が消え去ることはなかったのに。いつだって分裂が融和を上回っている。人族というのは戦神の創造物であって、本質的には争いを望んでいるからだ。そしていつか世界全土に戦火が燃え広がる時がくる。ならいっそ、今の内に全て消し去ってしまえばいいんだ!!」


 俺は息を荒げて心の内を解き放った。

 溜め込んできた憂いや哀しみ、腹の底から湧いてくる怒りと憎悪、誰にも委ねられない責任感。

 その全てを理解してくれると信じて。

 

「お前の考えはよく分かった」

「つーか話なげーよ。そこまでアイヴァラを見倣わなくていいんだぞ」

「なんだと!?」

「それで、どうなんです!?」


 理解した上で否定されることが目に見えていたから答えを急かした。


「どうってまぁ、お前の言うことはだいたい正しいよ。あいつらって俺の次に馬鹿だし」

「概ね間違っていないな」


 しかし二人は否定しなかった。


「……だ、だったら!」

「しかしそれはまだ先のことだ。いつかきっと滅びに向かうだろうが、今ではない未来のことだ。どうするかはその時になってから考えればよい」

「そんときに俺とアイヴァラがまだ生きてたら一緒に懲らしめてやるよ! な?」

「うむ。愚か者らに熱い灸を据えてやろう」

「だから今はまだ、そんな張り詰めた顔してねえでよ。笑ってようぜ」

「あぁ……そう……」


 ふっと身体の力が抜けた。

 一人で先走るなと諭されて、肩にのしかかっていたものがどこかに消えた。

 師匠達が最初に宣言した通りに説得されてしまったのだ。

 それらを自覚した途端に涙と鼻水が吹き出てくる。


「ぅ……ぐっ、俺はまだ……全然、弱かったんですね……うぁ……」

「あーあー、またアイヴァラが泣かしやがった」

「お前の締める力が強すぎるせいだろうが」


 俺は少し落ち着いてから、二人にちょっとした頼みごとをした。


 もう一度師匠になってくれませんか?

 罪滅ぼしの旅に同行してもらえませんか?


 といった情けないものだ。

 さっき卑怯な手で嵌められた仕返しに、二人が断れないようにほとんど泣き落としに近いやり方で頼んでやった。


「まぁ、全部合わせて二千万人は殺してしまったので、二人が死ぬまでには終わらないと思いますけど」

「……ったく、しょーがねーなー」

「いいだろう。我々が死ぬまでの間、性根から鍛え治してやる」


 そうと決まれば早かった。


 俺はすぐさま中央大陸に送った魔人達を帰還させ、いつかここでの恩は必ず返すことを全軍の前で約束して魔王の座を降りた。

 その際文句を言う者は一人もおらず、中には寂しくなるなと泣いてくれる者も。

 そのせいで俺もまた泣いてしまって、「こんな泣き虫は魔王にはふさわしくねえな」「さっさと行っちまえ」などと皆に笑われながら魔界を後にすることに。

 

「あー……結局全部無駄だったなぁ……。ほんと何してたんだろ」

「いや、無駄じゃねえぞ。お前はようやく頼れる仲間を見つけたんだ」

「我々が死んだあとで何か耐え切れないことがあれば魔界に逃げ込んで、彼らに手を貸してもらえばいい」

「そんなもんですかね」

「そんなものさ」


 師匠達が死んだ後も当然旅を続け、二千万人殺した償いに同じ数を救った。

 償いを終えてからは、また訳あって魔王になったり俺と同じ境遇の者に手を差し伸べたり、新たな師を見つけたり今度は俺が弟子を作って連れまわしたり、とにかく気の向くままに世界を巡った。

 それら全てを見せると何十日もかかってしまうので、詳細は省くとしよう――




「――そして今まで生きながらえてきましたとさ。……大丈夫かい二人とも?」


 二人の額に置いていた手を離す。

 先にマニックが目を開き、次いでコウヒさんが赤く腫らした目を開いた。あまりにも辛く凄惨な場面を見たせいで泣いてしまったのだろう。申し訳ないことをした。


「ひでえもん見せやがって。アレ全部本当にあったことかよ……?」

「もちろんだとも」


 石の座席に拘束した二人を解放して。

 それから俺が不死者であることの証明にと、足元に落ちている毒矢を拾って心臓に刺し入れた。


「…………ね?」

「俺の三日間を返せこの野郎」


 マニックが立ち上がって固まった手足をぶらぶらと振りながら悪態をつく。

 コウヒさんは俺を凝視したままピクリとも動かない。


「というわけで、これが俺の正体さ。裏切るのも裏切られるのも大嫌いな臆病者だよ。信じてくれるかい? あぁそれと、何か質問があれば好きにどうぞ」


 二人はちらっと視線を交わし、少々黙り込む。

 十数秒してマニックがうん、うん、と。ひとりうなづいて口を開いた。


「ま、お前が味方だってことを信じるしかねえわな。その気になればいつでもこの国を滅ぼせるんだしよ。それと質問……ってのはねえけど、言いたいことはある」

「ほう?」

「お前の過去を観ながらずっと思ってたんだけどよ、ありえねえくらい馬鹿だなって」

「私もマニックと同意見です。あなたは呆れるくらいお人好しだと思います」

「ええっとそれは……。褒めているのか、それとも貶しているのか」


 どっちだ? どっちでしょう? と二人は各々疑問を浮かべ、結局答えを出さずに流した。 


「ま、とにかくアレだ。俺がお前だったらもっと上手く生きてるっての」


 つまりお前は不器用な人間だなと貶されている気がして釈然としなかったが、表も裏も全て見せあって信用してくれたことだけは分かった。俺という存在を受け入れてくれたことも。

 なので、本来は専行するはずであった計画を二人に打ち明けることにした。


「……というわけなんだ。協力してくれるかい? 俺のため、いいや、カレンのために。……つまりは俺のためなんだけど」

「嫌だと言ったら?」

「君達の記憶を消して帰すか、革命が終わるまでこの部屋に閉じ込めることになるね。好きな方を選んでくれたまえ」

「ったく、素直に協力してやっから一杯奢れよ」

「私も手伝わせていただきます」

「ありがとう! ありがとう! んふふっ!」


 思わず頬が緩んでしまう。

 しかしそれではまずいと、パンパンと顔を叩いて締まりを取り戻す。 


「さぁ、我が友よ! とにかく今は時間が惜しい、さっそく準備に取りかかろう! 皆が笑っていられる未来のために!」


 締めの言葉を述べてから。

 俺は二人に、それも片方は先程殺しかかってきた者に背を向けて石の隠し扉を開けた。


「……ん? どうした?」


 どういうわけか二人はその場から一歩も進まない。

 それでいて何か言いたげな顔をしている。


「マニック? コウヒさん? 俺の顔に何かついています?」

「……いえ、顔ではなくて、その」

「あー、カッコよく決めてくれたところわりぃが……ケツ、丸出しだぜ」

「ケツ? ……あっ」


 尾てい骨の辺りを触れると、そこに布はなかった。

 そういえば、身体の一部を竜に変化させた時にぶっとい尻尾を生やしたんだった。

 それで服に大穴が空いてから、俺は気にもせずにずっと……


「誠に申し訳ございません、死んで詫びます」

「わ、私は好きですよ! 惚れ惚れするような大臀筋だと思います!」

「それはどうも……」


 なんとも締まりの悪い終わり方になってしまった。

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