第42話 エピローグ

  ボルブドール王国に春が巡ってきた。冬の間眠っていた木々が一斉に芽吹き、草原は緑の絨毯で覆われた。エレーヌを載せた馬車が街道を走ってくる。ハロルドは待ちきれず、草原の向こうからそれを見つめていた。ハロルドの乗った馬は次第に馬車に近づき、馬車の中からもハロルドの姿が見えるようになった。


「ハロルド様だわ! 馬車を止めてください」


 窓を開けて、御者に呼び掛ける。

 

 それを見ていたハロルドも、笑顔で手を振っている。


「ここでちょっと寄り道してください! プレゼントがあります。ちょっと待っていてね」


 ハロルドは馬車を下りて、草原の中に進んでいった。草の中にある白い花をいくつか摘むと戻ってきた。


「クローバーの花が満開ですね」


 ハロルドは恥ずかしそうに、頬を赤くしている。そしてあろうことか、馬車の前に立っているエレーヌにひざまずいてクローバーの花束を捧げたのだ。


「僕の国へようこそ来てくださいました。異国の地で生活するのは大変なことでしょう。でもここへ来てよかったと思ってもらえるように努力します」


「まあ、ありがたい御言葉。私はあなたに拾ってもらえて、最高の気分です」


「そうですね、僕が拾ってあげたんですから……もうどこへも行けませんね」


 二人は顔を見合わせて大笑いしてしまった。


「あなたがいると、何をしても楽しいのです。だから、ずっと捕まえておくことにします」


「全くもう、私の持ってきたものと言えば、タルトとアップルパイのレシピ、それから、部屋から見たルコンテ王国の森の絵柄の刺繍だけです。ドレスはハロルド様のお気に入りのピンクのものを持ってきましたが」


「ピンクはお似合いでしたね。さて、もうお城へ向かいましょう。庭園の花も満開です」


「はい、ここからは一緒に参りましょう」


 エレーヌは馬車の窓からハロルドが馬に乗り並走するのを眺めながら、揺れに身を任せていた。普段から乗馬の練習に余念がないのか、体はほとんど揺れず美しいフォームで並走している。髪の毛がそのたびにさらさら揺れるのも美しい。一方ハロルドも、馬車の窓から外を眺めているエレーヌの姿を見ながら、馬を走らせていた。少し切れ長の目も、小さな口元も、小首をかしげて自分を見つめるしぐさもかわいらしい。


 春の暖かい日差しが二人の上に降り注いでいた。



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森で拾われた令嬢は、婚約破棄され『普通』に生きることにしました 東雲まいか @anzu-ice

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