第37話 呪いの廃城

「ところで、ハロルド様、あなたは素晴らしい判断力と勇気、剣術の腕前をお持ちです。一つ相談してもよろしいでしょうか?」


「何なりとご相談ください。喜んで解決して見せます」


「言おうかどうしようかと迷っていたことがあります。昔から言い伝えになっていたのですが、最近ますます気になって仕方ないことがあるんです」


「そういわれるとますます知りたくなりますね……話してください!」


「この城の北の森を超えた荒れ地に、何百年も前のものと思われる廃城があります。私の父の先祖が来るよりもずっと以前に、この辺りに住んでいた王の居城だったと言い伝えられています。村人たちは、近寄ると昔住んでいた人々の霊に呪われると、森の向こうへは行きません。荒れ地の向こう側の村へ用があるときは、別の道を通り遠回りしていきます。ところが、森へ狩りに行った猟師が、何気なくそちらの方を見ると、廃城の中へ入っていく人影を見たというのです。人影はすばしっこくあっという間に消えてしまい、じっと目を凝らしてみていても出てこなかったそうです。始めは幻を見たのかと信じられなかったそうですが、昼間の事ですから、そんなはずはありません。別の日に再び、廃城を見に行ったそうですが、人が出入りする気配はなかったそうです。そこに昔住んでいた者たちの亡霊をみてしまい、自分は呪われてしまうのではないかと恐れていましたが、特にその後悪いことは起こっていないようです」


「僕に、探検に行ってほしい、ということですか?」


「実はそうなのです、それで言おうかどうしようかと悩んでいたのです。勿論私も一緒に行きますので」


「廃城があるからと言って、何百年前に朽ち果てたのです。呪いなんてないと思いますよ」


「そうですか? 風が吹くと、そのあたりからヒューヒューと人の泣き声のような声が聞こえてくるのだそうです。そんな話を聞くと、私も怖くて森の向こうへはいけません。本当に、呪いなんて言い伝えに過ぎないのでしょうか?」


「そうだと思います。僕はむしろ、そんな言い伝えのある廃城へ入って行ったのが誰なのかが気になりますね。あなたの好奇心が再び目覚め始めましたね」


「あらっ、そうですね。不思議なことがあるとついつい気になってしまいます」


「気になってしょうがないのですね?」


「そうなんです!」


「夜も眠れない?」


「実はそうです」


「分かりました! 行ってみましょう」


「本当ですか?」


「それしかないでしょう。解決する方法は」


「私も行ってもいいですか?」


「そう来ると思いました。一緒に行きましょう。でも危険が伴います。兵士たちも一緒につれて行きますよ」


「ありがとうございます。呪いの正体がわかるかもしれません」




                 ⋆


 ハロルドとエレーヌは、北の森の向こうにある廃城を見に行くことにした。中に誰が潜んでいるかわからないので、武装した兵士たちを伴って行った。


「エレーヌ様、馬には乗れるようになりましたか?」


「はい、もう大丈夫ですよ!」


「それでは、馬に乗っていきましょう。何かあったらすぐ逃げられますから」


 それを聞いて、エレーヌは奮い立った。


 森は多少の高低差はあったが、馬で通ることは十分可能だった。道幅もかなりあり見通しもよかった。木々の葉は季節がらだいぶ落ちてしまい、視界は割とよかった。そのため、猟師も人影が見えたのだろう。


 森が途切れて雑草が生い茂った草原に出た。雑草もかなりの丈があり、走りにくかったが、何とか廃城が見えてきて、すぐ近くまでたどり着くことができた。


 くすんだ黄土色の石の土台が残り、それが途中で途切れている部分と、一応屋根まで続いていて部屋のようになっている部分もある。弱くなったところが、風雪に晒され部分的に崩れてしまったのだ。


 ハロルドと武装した兵士たちは慎重に歩みを進め、廃城の内側へ入った。屋根のある部分には、誰かがいたような気配があった。草が踏まれていて土が見えている部分に足跡があったのだ。壁のすぐそばには、地下へ降りていく階段がある。狭い階段を一人また一人と降りていった。地下室のようになっていたが、そこには人影はなかった。


「大丈夫だ、誰もいない!」


 それを聞いた他の兵士たちは、みな階段を下りて地下室へ入った。数百年を経過していたが、周りが石で囲まれているせいか、崩れてはいなかった。入っても大丈夫そうだ。


「エレーヌ様、入っても大丈夫です。こちらへ来てください!」


「はい、ちょっと怖いですけど、行きます!」


 後から来たエレーヌは、震えながら恐る恐る階段を下りた。外側の残っている外壁に比べて、中は意外と広かった。持ってきたランタンに火をともし、照らしながら足元の安全を確認しながら一歩一歩奥へ進んだ。一人の兵士が、「うわっ!」と叫んだ。


「どうしたんだ!」


 ハロルドが訊いた。


「人骨が見える! それもいくつも」


「キャッ、怖い!」


 エレーヌがハロルドの背にしがみついた。


「踏まないようによけて通ってください」


 人骨をよけながら灯りで進行方向を照らし、さらに進んでいく。黒い壁や床をまっすぐ奥へと進んだ。ここで突き当りかと思ったら右手に細い通路があった。人一人がやっと通れるぐらいの幅で、頭上や足元には蜘蛛の巣が張っている。空気は冷たく湿っていた。その先に何があるのか全く分からず、慎重に進んだ。


 狭い通路を少し行くと急に広いスペースが現れた。そこには、なんとノミやシャベルなどの掘削用の道具が置かれていた。道具は大昔の物ではなく最近持ち込まれたもののようで、使用されている形跡があった。


「何に使ったんだろう?」。


「部屋の中を照らして見てみよう!」


 兵士たちは、ランタンを手に持って左右に揺らしながら、一歩一歩地面や壁面を見ていった。


「おっ、こっちの土がかなり深く削り取られている。その下に何かが見える!」


「どこだ! どこだ!」


 声のする方へハロルドと数人の兵士が行った。そこはほかの場所よりもかなり低くなっていて、人力で掘ったような形跡があった。しかも掘られたのは最近のようだ。


「地面を掘って、何かを発掘していたのか!」


 下に向けて灯りを照らすと、そこには藁で編んだシートが掛けてあった。


「降りてみよう」


 ハロルドが、兵士の手につかまり下へ降りた。


「ハロルド様、お気を付けください!」


 兵士が声を掛けたが、ハロルドは藁のシートを端からそっとはがした。皆かたずをのんで見守っている。


「ここは、昔王家の財宝を隠しておいた部屋だったのだろうか? 何かを掘り起こしていたようだ! 人がいたのは宝を探すためだったのか……」


 ほんの少し地面に出ている部分からは、金属のようなものが見えている。


「人が戻ってきて掘り起こさないよう、何人かの兵を見張りとして残しいったん城へ戻ろう。発掘するかどうかはルコンテ王国のアルバート王の判断を仰ぐことにしよう」


 エレーヌも、その時は後ろから他の兵と共に着いてきて、様子を見守っていた。


「猟師が見たのは、宝探しをしに入ってくる人影だったのね!」


 城へ戻りそのことをアルバート王に報告した。現状のままでは、人が入って掘り起こしてしまうので、見張りを立てながら発掘調査をすることになった。


 発掘調査の結果、その部屋からは昔の財宝が出てきた。王冠、首飾り、指輪、宝剣などの宝物だった。それらはルコンテ王国の宝物庫へ大切に保管されることとなった。当時を知ることができる貴重な資料だ。


「長年の呪いの正体がわかりましたね」


「はい、亡霊が出るとか、呪われると語り継がれていたせいで、誰も足を踏み入れなかったのでしょうね」


「盗賊の正体はわかったのですか?」


「いえ、あれからもう姿を現すことはないそうです。発掘を始めたので逃げてしまったのでしょう。他に持ち出されていなければいいのですが、いくつかの宝物は既に盗まれてしまったかもしれませんね」


「盗賊も見つかるといいのですが、一つ謎は解けましたね!」


「はい、呪いは本当にないといいですが……私たちこれから大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫ですよ! 宝物は大切に保管して誰の手にも触れさせないようにすれば」


「そうですね。白骨が出てきたときは驚きましたが、それもちゃんと埋葬してあげたそうです。しかし、いつも私のせいで、無茶をさせてしまいますね。ありがとうございました」


「いえいえ、最近はそれも楽しみの一つになりました」


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