ワールド:マルジナリア 物語の外の騎士
七地 辰哉(白色のアイリス/ブリンガー(誓約生徒会))
今から自分達が遣わされるのは、滅びの寸前で人々の想いが留まる世界だという。
「……要はそこって、滅んじゃった世界からあふれた人たちが生きてる世界なんだろ? タツヤが守るのにピッタリな所だよな。もしかしたらそこに、お前の生き別れた兄ちゃんも居るかもだし」
うんうんと、羽根を模した仮面を手に一人に納得した様子の千鳥に、辰哉は呆れを滲ませる。
「何処だろうと、滅びを許容できる世界など無い」
己の手に在るモノクル仕立ての仮面を握る。今度は千鳥が辰哉に向けて肩を竦めてみせた。
「タツヤ。お前、そういうトコだぞ」
「何の話だ。文句があろうがお前が喚いて逃げ出そうが俺の意思は変わらん」
「逃げ出せるんなら逃げたいけど。でも、オレが逃げたらタツヤ一人になるだろ? そっちのがオレはイヤだから」
軽やかな声に、辰哉は一瞬言葉を詰まらせる。その僅かな間に気付いた幼馴染が受容を湛えた微笑を向けた。
それならば、と。辰哉の眉間の皺が一層深いものになる。
「一蓮托生の覚悟があるのなら――俺に、ついて来い」
真っ直ぐに向けた言葉に「行く!」と間髪入れずに千鳥は胸を張って宣言する。
「覚悟ってお前と一緒にいるってことだろ? なら、ずーっと前にすんでるぜ!」
彼が姿を変えた白い羽根のような光に包まれて、辰哉は裾が長い黒の軍警服を身に纏う。左目を仮面で覆い右手に銃剣を持った騎士は、守るべき世界へと足を踏み出した。
*****
トーマス・ネルソン(琥珀色のあじさい/シース))
「あー……こりゃあ、確かに不味いヤツだなぁ」
「女王陛下が『備えよ』と仰っていたのは、こういう事でしたか」
粋に着崩した和装の男と洋服に身を包んだ隻腕の男が苦い顔を揃えて外の様子を伺う。霧の帝都を覆う脅威の気配は直ぐ傍まで迫っていた。
「……これも、あの人が引き起こしたのか?」
「通常の迎撃戦のような桜機関の力のみによるものではないと、陛下からの書面にはありますが」
それでも、桜の皇帝が無関係という訳ではないのだろう。苦い溜息を吐いた結城に、トーマスは眼鏡越しの碧眼をスッと見開く。
「気が重いと仰いますか?」
「まさか。ンな訳ねぇだろうが」
「それは良かった。ここでMr.が怖気づくようでしたら、気付けに蹴りを入れて差し上げようかと考えていたのですが。杞憂で済んで何よりです」
「お前さんよぉ……」
常と変わらない細めた目をしたトーマスに、呆れ交じりの声を結城が零す。ガシガシと黒髪を掻いた男は顔を上げて口を開いた。
「こんな中途半端な所で終わってたまるもんか。誰に間違ってると言われようが、俺は絶対に諦めない」
結城の決意の言葉に「でしたら」とトーマスは返す。
「存分に間違い続けてください。その間違いが正しさを導くまで」
言い終えると同時にトーマスの姿は霧のように消え、長い金髪を結っていた琥珀色のリボンがはらりと宙を舞う。残された男が、それに向かって手を伸ばした。
ステラレイド 終末のフォーリングスター -或る星の騎士達が迎えた“その刻”- ゆたか@水音 豊 @bell_trpg
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