第35話 その後

 P国軍が再び日本に、というよりC国管理下の「東海人民共和国」に対して、複数発の核ミサイルを使用した事は、即座に東アジアを取り巻く周辺国に大きな反応を引き起こした。


 その三十分後、C国本土のミサイル基地から数百発の核弾頭ミサイルが、予告なく一斉に、P国本土の全域に向けて発射された。C国の超高速ミサイル群は45秒でP国本土に到達し、95%の住民を消滅させ、ミサイル基地、移動式ミサイル、核施設、空軍基地等の軍施設を含むほぼすべてを破壊した。


 そして、その5分後にアメリカも動いた。米軍はまず、日本海と太平洋に潜んでいたP国の核弾道ミサイル潜水艦四隻を、潜水艦と航空機からの攻撃で破壊した。と同時に、米国は、数百発の核弾頭ミサイルをP国全土に向けて発射し、P国を再び焦土とした。地表を掘削し地中深くで爆発する特殊な核弾頭ミサイルも百発以上撃ち込まれ、地下軍事施設を重点的に破壊し、P国全土に震度10クラスの地震を引き起こした。


 さらにその三時間後、ロシアが核弾頭ミサイルが数百発の核弾頭ミサイルをP国全土に向けて発射し、P国を三度焦土とした。この頃にはP国内には小動物の姿も見られなくなっており、ただ無人の黒い荒野に地割れと山崩れを引き起こしただけだった。これはC国、米国の核ミサイル攻撃に対抗する示威攻撃であったとも、旧型の核ミサイルを処分しただけだったとも言われている。


 C国は、すべてが終わったのちにこういう声明を発表した。

「C国とC国を構成する共和国は、他国からのいかなる軍事攻撃にも、核戦力で反撃する正当な権利を有している。今回P国が、我が東海人民共和国に向けて核ミサイルを発射し、多くの人民を殺戮した行為は、とうてい許せるものではない。P国政府は東海人民共和国の人民に対してだけでなく、P国の人民に対しても、罪を償わねばならない。C国はP国の人民の為に、新たに『東北人民共和国』を設立し、P国の人民を救済する。」


 米国も声明を発表した。

「今回の核攻撃は、大変遺憾なものであるが、アメリカとしては、P国の核攻撃に対する正当な反撃である事を確信している。他国を攻撃する手段として核を用いる野蛮な国家に対しては、適正な対応をとる必要がある。今回の事が教訓となり、他の国が核を用いようとする際に、自制する材料となるだろう。他国に向けて核を使用する事は、自らの国を核によって消滅させる結果を招く。」


 ロシアも声明を発表した

「ロシアには、東アジアの平和と安定を脅かす、いかなる軍事的行為にも、正当な対応をする能力がある。今回のP国軍の暴走は、東アジアと人類に対する脅威であり、看過する事はできない。ロシアは、関係諸国及び日本政府と、東アジアの平和と安定について、話し合う用意がある。」


 こうして、C国と米国とロシアからの約千発の核攻撃で、P国内に居住する指導者達を含めた数千万人のP国人は完全に抹殺され、無人の荒野となったP国は、C国支配下の「東北人民共和国」となった。


 日本に寄生していた五百万のP国人は、本国へ帰還する事となったが、天国のようなこの地を離れ、廃墟となった本国へ帰還する事を拒否して、徹底抗戦するP国人も多く、その戦いはゲリラ的に数年続き、巻き添えとなった日本人は5万人を超えた。最終的に、本国に帰還したP国人は約2百万人だった。


 P国軍の核ミサイルで「連盟」の浅間山部隊、榛名山部隊、北アルプス部隊はほぼ壊滅した。しかしその後、「連盟」の各部隊は再び、長野・群馬で再結集され、武器を取った日本国民とともに「連盟」の存在を、より強固なものにした。


 米軍の支援を受ける「連盟」に対して、C国軍は「対決よりも融和」と言う方針を継続する事となり、P国軍の代わりにC国軍を島根・鳥取・京都・滋賀に駐留させた他は、「東海人民共和国」内での「連盟」の活動を容認する姿勢を示した。


 その数年後、日本政府はC国と「日本C国安全保障条約」を締結し、その結果C国軍は新潟・島根に在日C国軍基地を残した他は、本州・四国の駐留を終了し本国に撤退した。これは国際情勢の変化で、日本に駐留し武装化した日本国住民と敵対するよりも、日本を友好国として残す方がC国の利益にかなうと判断した、という分析がされている。

 日本政府はロシアとも「日ロ平和条約」を締結し、北海道の稚内と函館に在日ロシア軍の駐留を許可した。


 こうしてP国の侵攻から15年を経て、日本国は北海道・本州・四国・九州の支配を回復した。日本国は、過去の米軍の「核の傘」に依存した愚かな防衛政策を反省し、米国・C国・ロシアの三国が対等な友好国として日本国内に軍隊を駐留する、ある意味最も安全な多国籍国家として存続する事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る