第31話 京都での戦闘

山科の地でP国軍を制圧した浅間山部隊の装甲車群は、東海道本線を越え、西にに向かって走行し、いよいよ京都市街地を横断する五条通りに入った。


賀茂川に架かる五条大橋に差し掛かった浅間山部隊は、橋の手前で佇む数十人の日本人住民と思われる人々を発見した。華やかな着物姿も多く、神主、僧侶姿の人達もいる。浅間山部隊の先頭の装甲車の前に出てきた代表者らしき僧侶姿の老人が、対応した連盟の長野県本部長に、恭しい丁寧な様子でこう言った。


「私たちはこの京都に住む日本人の代表です。東の方から、私達を助けに来ていただいた方々だと存じます。心から感謝いたします。P国軍の方は私どもが話を致しまして、この京都を災難から守るため、P国軍が京都から出ていく事に同意していただきました。どうか、今すぐ京都の街中に入り戦いを始める事は、ご容赦いただき、P国軍が立ち退くまで、今暫くお待ちいただくようお願い致します。京都は千五百年の歴史ある都、どうか、この都を守るために、私ども京都市民の願いをお聞き届け頂きます様、お願い申し上げます。」


連盟の長野県本部長はそれを聞き、怒りを押し殺した表情でこう言った。

「我々本州奪回連盟は、P国軍に支配される日本人達を、そのままにしておくわけにはいかない。今現在も、日本人がP国人に被害を受けている。一刻の猶予も出来ない。そこをどいてもらおう!P国軍を日本から追い出すまで、我々は戦い続ける!」

と言って、連盟の装甲車群に発進の命令を出した。浅間山部隊の装甲車群は、スピードを上げて次々と五条大橋を走り抜け、京都の市街地に突入していった。


こうして、浅間山部隊の装甲車群が五条通りを進んでいくと、行く手の大きなビルが建ち並ぶ方面からP国軍の激しい銃撃が始まった。市街地上空を先行していた連盟側のドローンが、P国軍の発砲位置を確認し、そこへ浅間山部隊の装甲車群から催涙弾が次々と撃ち込まれる。ビル内部から白煙が上がり、飛び出してくるP国軍兵を、浅間山部隊の装甲車群がレーザー銃の正確な射撃で倒していく。米軍から供与された新型戦闘用ロボットを先頭にして、浅間山部隊の隊員がビル内に突入し、残存するP国軍兵を射殺あるいは拘束していく。

この戦闘用ロボットは、隊員の犠牲を払う事なく敵兵を倒すことができる。ただ、味方や住民に発砲しないように、隊員が後方から制御する必要がある。戦闘が終わった後、浅間山部隊は装甲車数台を見張りに残し、本隊は次の目標へと進んでいく。


さらに進んでいくと、二条城方面からP国軍の小型ミサイルが連射され、連盟の装甲車部隊を目がけて飛んでくる。一台の装甲車が被弾したが、頑丈な装甲で守られた装甲車内部は無事だった。連盟の装甲車は、その方向にロケット弾一発を発射し沈黙させた後、数機のドローンを飛ばせて、二条城内の様子を偵察する。ドローンからの映像を確認でP国軍砲兵の位置と状況を確認し、ロケット弾の必要なしと判断した連盟は、二条城内へ催涙弾を次々と撃ち込む。二条城内部から白煙が上がり、P国軍兵が飛び出してしてくる。浅間山部隊の戦闘用ロボットと装甲車のレーザー銃が正確な射撃でP国軍兵を倒していく。


このような戦いが、大通り沿いの官公庁・民間のビル、御所、神社仏閣、各大学の敷地の至る所で繰り広げられた。浅間山部隊は、幾つもの小隊に分かれ、P国軍との戦いに京都市街を駆け回った。P国軍との戦いに巻き込まれた住民の犠牲者も増え続けた。普通の民家の中にP国軍が入り込み、家の住人を人質・盾にして戦う事態も度々起こった。ある旅館にP国兵がいるとの通報をうけ、隊員が駆け付けた。すると、P国兵は若い女性を拘束し、後ろに張り付くようにして入口に出てきた。

こうした敵兵と日本人住民が混在した場所では戦闘用ロボットを使うわけにはいかない。敵兵と日本人住民を一瞬の間に見分けることは不可能で、日本人住民を殺害する危険があるだからだ。

P国兵は「食事を出せ!運転手付きの車を用意しろ!でないとこの女を殺す!」と叫んでいる。P国兵は女性の体に隠れて見えない。

女性は「撃ってください!こいつを殺してください!」と叫んだ。

P国兵は女性の体を後ろから殴り、女性が崩れ落ちるように頭を傾けた。

P国兵の顔が一瞬見えたのを逃さず、連盟のレーザー銃が発射され、P国兵が倒れる。

P国兵が建物の中に人質を取って立て籠もった時は、時間をかけて説得しつづけ、P国兵の疲労を待って、深夜に突入するしか方法がなかった。


民家での戦闘で活躍したのは、数か月前迄「日本忠誠軍」としてP国軍の手先となっていた京都出身の青少年たちだった。京都の町屋の入り込んだ場所に詳しく、顔見知りの人達と連絡を取り合い、住民を安全な場所に移動させ、P国軍の潜伏情報を懸命に集めた。しかしそれでも、民間人が犠牲となる悲劇が各所で起こり、約4千人のP国軍を掃討するために1万人近い京都市民が巻き添えになった。


一週間以上が経ち、ようやく京都市全域のP国軍を掃討し終えた浅間山部隊は、その晩、大文字山に「FREE」という字をLEDライトで灯し、その麓で数十発の花火をあげた。生き残った多くの市民達が笑顔で通りに出てきて、浅間山部隊に感謝し手を振った。


その数時間後、京都市内のP国軍を制圧した浅間山部隊は、休養する暇もなく、さらにP国軍を追って、嵐山・福知山方面へ向けて出発していく。P国軍の反撃態勢が整わない前に兵庫県北部に進撃し、日本海沿岸を進む北アルプス部隊と合流し、山陰の鳥取・島根のP国軍本体を叩き、日本から追い出す覚悟だ。

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