第27話 飛騨川の戦闘

 そしてある日、約一年間続いた「C国による平和」は崩壊した。突然、P国軍の大部隊が滋賀県から、県境を越えてC国支配下の岐阜県郡上市付近まで侵入して来たのだ。


 P国政府は「日本軍ゲリラが協定を破り、滋賀・三重のP国軍を攻撃し、P国人に危害を与えた。これは東日本の狂信的日本人テロ組織からP国人民の国家的権利を守る為の自衛的行為だ」と声明を出し、P国による東日本への軍事侵攻の正当性を主張した。この時点で、C国は何のコメントも発表していなかった。


 P国軍は、P国軍は実効支配する西日本地域の日本人から選抜した優秀な青少年を選抜し、徹底した訓練を行い、日本人を正しく更生させ、P国に感謝し忠誠を誓う数万人の「日本忠誠軍」を創設していた。

 滋賀県から侵入してきたP国軍は、五千人の「日本忠誠軍」を先頭に、岐阜県西部の関市、郡上市の市街地を蹂躙し、逃げ遅れた日本人住民を殺戮し始めた。


 P国軍侵攻の通報を受けた「本州奪回連盟」は、すぐさま全軍が出動し岐阜に駆けつけた。下呂市付近まで進出してきたP国軍本隊を迎え撃つため、緊急出動した連盟の装甲車部隊が集結した場所は、北アルプスと中央アルプスの境、御岳山西の飛騨川沿いの高台だった。

「連盟」側は、高台の中央に浅間山部隊二千人と装甲車36台、北に北アルプス部隊千人と装甲車24台、南に榛名山部隊千人と装甲車24台が勢ぞろいし、飛騨川を見下ろしている。各部隊はいずれも、米軍から供与されたロケット弾、レーザー銃を充分に装備している。

 これに対し、P国軍の前面には、飛騨川の東岸に五千人の「日本忠誠軍」がまるで無防備な態勢で整列している。白地に赤い日の丸をデザインしたヘルメットをかぶり、日の丸の大きな旗を掲げている。重火器は無く、機銃、小銃だけの装備で、ほとんどが年少者から編成されていた。そのはるか後方、飛騨川の西岸には、P国軍の大部隊約一万人が控えており、ここには、重火器、各野砲、戦車、ミサイル発射車両が装備されている。


 P国軍からの攻撃開始の合図のサイレンが鳴り渡り、飛騨川の東岸に展開する「日本忠誠軍」の五千人が一斉に、日の丸の大きな旗を掲げて「連盟」の各部隊めがけて前進を始める。無数の白地に赤のヘルメットの隊列が横長に展開して行く。


 「連盟」各部隊は、この異様な「日本忠誠軍」を相手にせず、はるか後方の飛騨川西岸に控えるP国軍大部隊に向けて容赦なく、滝のようなロケット弾を浴びせた。P国軍部隊の各所で強烈な爆発が起こり、壊滅状態となる。P国軍は「連盟」側のロケット弾の飛距離について何の情報も持っていなかったようだ。


 後方の状況には関係なく、日の丸の大きな旗を掲げた「日本忠誠軍」は前進を続け、喚声をあげて連盟側へ突撃を開始した。中には立ち止まる者もいるが、後ろにいるP国軍監視兵から銃撃を受けて倒れていく。

連盟は、大音量のスピーカーで「我々は日本人を救うための全員日本人の部隊だ。君たち日本人の若者を傷つける事はしない。このレーザー銃は、君たちを気絶させるだけで、殺しはしない。武器を捨てなさい!我々は君たちを仲間として歓迎する!」と通告した。

しかし、この説得も効果なく、「日本忠誠軍」の狂気に満ちた突撃は、ついに「連盟」各部隊の前方百メートルまで近接した状態となり、やむを得ず「連盟」各部隊は、ずらりと並べた装甲車から、レベル1(black out)に設定したレーザー銃を発射し、殺さず気絶させるための応戦を始める。身を隠そうともせずただ突撃してくる「日本忠誠軍」は簡単にバタバタと倒れていく。

しかし、倒れても後方から新たな兵が突撃してくる。倒れた兵も暫くすると立ち上がって突撃を再開する。仕方なく、連盟の部隊はレーザー銃を撃ちながら後退していく。


 戦場にはゾンビと化した「日本忠誠軍」五千人がさまよい、「連盟」の部隊に迫って来たが、「連盟」の隊員たちがレーザー銃を連射し「日本忠誠軍」の前進を止めた。しかし、倒されても銃を向ける者もいて、「連盟」の隊員たちはそれを制圧するためにレーザー銃を幾度も発射しなければならなかった。気絶して身動きしない者達を後ろ手に手錠をかけ、武器を押収していく。ようやく「日本忠誠軍」を全員を制圧した隊員達は、ただ絶望を感じ、ため息をついている。


「これが日本人なのか?」

「同じ日本人が、こんな事をするのか?」

「若い奴らばかりじゃないか!」

「どんなことをされて、こうなったんだ?」

「なんて事だ!信じられん!」


 いくら洗脳されたとはいえ、日本人が、数千万の日本人を虐殺したP国人の手下になって、同じ日本人に向かって来るのだろうか?(脳をいじられて、何らかの電子チップを埋め込まれたという噂もある)しかし、それにしても、日本人がこの様な行動をとるとは信じられない。

 そして何よりも、日本人の若者を洗脳し日本人同士で戦わせるという汚い手を使うP国軍を、決して許す事は出来ない。榛名山部隊の女性リーダーも、心から憤りを感じていた。


ともかくP国軍を一方的にせん滅した「連盟」の三部隊は、意識を回復した五千人の「日本忠誠軍」を、用意したバスやトラックに分乗させ、後方の長野県にある「連盟」の収容先へと出発させた。そして、勝利の歓声を上げる事もなく、静まり返った中、さらに、岐阜県内のP国軍残存部隊掃討のために、移動を開始した。

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