第24話 二千人救出

 翌朝、あの評論家はC国軍の数人の兵士に引きずられて、C国軍の高級車の後部座席に放り込まれた。

 評論家は「何だ!どうして私だけこれに乗るんだ!」と声を上げる。

 前日、日本側から、C国軍に、この人物だけ新潟に連れ戻して拘留してもらいたいという依頼があった。この評論家を日本側に返すと、C国に対する誹謗中傷を行う可能性があり、両国の友好関係を壊す原因になるという説明だった。

 C国軍の高級車は、事情が分からず、まだ何かを叫んでいる評論家を乗せて、新潟方面へ去って行く。


 その数時間後、昼前になってバスの手配が整い、四十台のバスが伊香保温泉の駐車場に並んだ。約二千人の芸能人著名人達が、次々とバスに乗り込み、榛名山部隊に頭を下げたり、手を振ったりして出発して行く。

 ワタル達も、年配の人達が多い一台のバスに乗り込み出発する。

 車から振り返ると、運搬ロボット「ライデン」の上で榛名山の女性リーダーが、関越トンネルの時と同じように、大きい身振りで手を南の方角へ何度も振り上げて笑っていた。ワタル達三人は、バスの中から深々と頭を下げるのみだった。


 バスの中で、以前テレビに良く出ていた、今は白髪の元アナウンサーがワタル達三人がレキオス部隊の生き残りだと誰かに聞いたようで、インタビューをしてくる。

「君達がレキオス部隊?沖縄で、その冒険参加者募集に応募したのは二月の事だっけ?それから約3か月訓練して、5月7日に北部の辺野古港を出発した。・・・」

 屋宜が「他の皆さんの迷惑になるから、その続きは横須賀基地に到着してからに願います」と答えたが、元アナウンサーはその後もバスの中で筆談で取材を続けた。


 バスは関越自動車道を南下し、国道へ降りてしばらくして、あの気の良い口の軽い青年のいるガソリンスタンドで給油する。

 青年は一月前に、芸能人達をバスで運んでいた時に見たアサミを覚えていたらしく、「お客さん、前も芸能人を乗せたバスに乗ってましたよね!あの僕と話してた人は今日はいないんすか?」と聞いてくる。

アサミは、宮里ヒロシの事だと気づいたが、

「今日はいないね、別のところで仕事してるよ」と答える。

ワタルにも話しかけて、「ひょっとして、○○食品の冷凍車に乗ってた人?」と聞く。

ワタルは「よく覚えてるな――」という。

「あのとき運転してた人は、今日はいないんすか?」

ワタルも。オダの事だと気づいたが、

「そうだね、今日は別のところに行ってるね」と答える。

「こんなに芸能人が来る日は、このガソリンスタンド始まって以来っすよ!」

「東海人民共和国友好何とかというフェスティバルが、もうすぐあるらしいよ。」

「すごいすね!それでこんなに芸能人があつまるんだ!チケットとか販売されるんすか?」


 ガソリンを満タンにしたバスは国道を南下し、埼玉から、東京の八王子、町田市を走り抜け通り抜け、無人の神奈川県内を走行し、廃線となった東海道新幹線の高架橋を潜り抜け、三浦半島東岸の米軍横須賀基地に到着した。

 横須賀基地の米兵たちは、小さな日の丸と星条旗を持って出迎えてくれた。

 救出された二千人の芸能人達は、それを見て心から安堵した様子で、

「ありがとう!」

「サンキュー!」

を繰り返す。

 ワタル達を出迎えてくれたのは、あの苗場山の四人の女性達だった。この女性達は、二週間前に浅間山部隊と一緒に箱根山のC国検問所で、多機能メガネで十数人のC国兵を眠らせた。そして、ワタル達のトラックに同乗して横須賀基地に来てから、ずっと自主的に米軍基地内の掃除をして働いていたらしい。

 女性達が「レキオス部隊、ハバぐわー!私達も一緒に沖縄に行っていい?」と言うので、思わず三人とも「いいとも!」と答えた。この女性達は沖縄の海で泳いだりして、ゆっくり一休みしたいのだろう。それは良い事だ。


 横須賀基地には、米軍のイージス艦二隻と補給艦二隻が、T字型桟橋に停泊している。米軍の説明では、補給艦はそれぞれイージス艦に護衛されて、一隻は北海道からハワイ、米本土へ、もう一隻は九州から沖縄へ出発するという。


 米側の申し出で、この日は控えめな歓迎会が開かれる事になった。

 日本の中でもトップクラスの芸能人達は、こういう場が久しぶりなのだろう、服装こそ地味だが、歓迎会は異様に盛り上がり、米女性兵士の歌う日本の歌が、最後には日米の大合唱になった。



 翌日の六月二十七日、まず北海道からハワイ、米本土へ向かう補給艦がイージス艦とともに出発する。この補給艦には約八百人が乗り込んだ。アメリカは日本からの移民に優先的に在留資格を与えている。この補給艦には比較的若い人達が多く乗り込んだ。ひとしきり、別れの式典が行われた。


 その数時間後、今度は、九州から沖縄へ向かう補給艦が約千二百人を乗せて出発する。補給艦に乗り込んだ一行は、ワタル、屋宜、アサミと苗場山の四人の女性達という賑やかなものになった。

 四人の女性達は、船の中で芸能人を見ると、「キャー!」と言って遠慮なく近づいて行き、ケータイで写真を撮る。アサミも一緒になり、五人組で芸能人の間を行ったり来たりして、大いに盛り上がっている。芸能人達も久しぶりにファンに「キャー、キャー」言われて嬉しかったのだろう。五人組の図々しい女たちを歓迎して、こっちにも来ないかと、わざわざ寄ってくるものもいる。ワタルと屋宜は、それをあきれた様子で見ていた。


 補給艦は、三浦半島から太平洋へと乗り出す。補給艦の前には堂々としたイージス艦が進んでいき、補給艦はその後をアヒルの子供のようについて行く。

 船は、雪の残っている絵画の様な富士山を右手に見つつ、南西へと進み、夕刻には紀伊半島に達した。


 アサミとワタルと屋宜は、レキオス号がひと月前に上陸した防波堤のある海岸の方向に手を合わせ、亡くなったサキと宮里組二人に「何時かもう一度来て、三人の墓を建てる。」と約束した。

 白髪の元アナウンサーが来て、

「ここが、レキオス部隊が五月十一日に上陸してP国軍にロケット弾を発射した場所ですか?」と聞く。

 亡くなった人達の為にも、事実を伝える事はたいせつなので、七人は個室ラウンジで、元アナウンサーのインタビューを受ける事にした。インタビューは夜遅くまで続き、録音された。

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