第25話 帰還

 六月二十八日の朝、米軍の補給艦は1200人の芸能人・著名人を乗せて、四国沖から宮崎港へと到着した。

 港には大勢の人々、マスコミの取材カメラが詰めかけ、久しぶりに見る芸能人達を出迎えた。日の丸が振られ、人々が歓声を上げる。

「バンザーーイ!」

「○○さーーーん!」

「お帰り!良かった良かった!」

「ずっと、待ってたよ――!」

が飛び交う大騒ぎの中、芸能人達が桟橋へ降りていく。

 盛大な歓迎式が行われ、芸能人達に花束が贈られ、日本政府要人が歓迎の言葉を述べる。「えーー日本政府は、C国政府と様々な場で協議を重ねた結果、この様に無事に、日本国民を母国に迎える事が出来た事は、日本政府としても、感無量の想いでございます。(泣) 今回のみなさんの帰還がぁーー、今後のぉーー、C国との友好関係にぃーー寄与するものである事をーー心から確信いたします。そしてぇーー・・・」

 日本政府代表の長い台本読み上げコメントが終わった後、芸能人達へのマスコミのインタビュー、それぞれのファン達との歓談が続き、数時間経った夕刻、ようやく港は静けさを取り戻した。


 翌六月二十九日早朝、米軍の補給艦は、沖縄へ行く約二十名を乗せて、寂しくなった宮崎港の桟橋を離れた。残った約二十人の中には、東京で活躍していた沖縄出身のタレントも数人いる。その人達も、ワタルも、アサミも、屋宜も、苗場山の四人の女性達も、皆言葉もなく、只々疲れた様子で座り込んでいた。

 補給艦は鹿児島沖を通り、黒潮の流れに逆らって、種子島、奄美大島を通り、南下していく。徐々に気温が上がり、海の色が明るくなっていく。


 七月一日、透き通るような青い空と、サンゴ礁のあるコバルト色の海の中を、ワタル達は辺野古港へ帰り着いた。

 五月七日に、ここ辺野古港をレキオス号に乗って十一人で出発したレキオス部隊は、三人となって戻ってきた。


 見ると、辺野古港のやたらと広いコンクリート岸壁の一角に、数十人の賑やかに踊っている人達がいる。一緒に帰ってきた芸能人の誰かのファンがいるんだなと、ワタル達は考えていた。

 ワタル、アサミ、屋宜と苗場山の四人の女性達は、補給艦の米兵たちに感謝し、深々と頭を下げて最後に降りて行った。すると、あの賑やかな数十人の人達が、ワタル達七人を出迎えてくれた。

 その中にTKBの衣装を着た女性が三人いて、ワタル達に向かって、声をそろえて、

「レキオス部隊の皆さん、ありがとう!」と叫んだ。

 三人のうちの一人の女性がこう言った。

「宮里ヒロシさんに、東京でTKBのみんなを捜してほしいって頼んだのは私です。レキオス部隊のお陰で、先月TKB十一人が帰ってきました。今ここにいるのがそのうちの二人です。助けられたTKBは、みんなレキオス部隊の皆さんに心から感謝しています!宮里ヒロシさん達は、今はいないけど、私達の心の中にずっと生きています。その気持ちを心を込めて歌います。聞いてください!」


  海鳴りが聞こえるね 遠い砂漠の風の様に


  海鳴りが聞こえるね 遠い星のささやきの様に


  心に感じる いつまでも


  貴方の優しさ いつまでも 


  悔し泣き 嬉し泣き おぼえて居るから


  忘れない きっと忘れない


  I miss you!   I miss you!


  いつまでも フォーエバー


 三人のTKBは、同じく三人となってしまったレキオス部隊のワタル、アサミ、屋宜の前で一生懸命、泣きながら歌ってくれた。その周りの数十人のファン達も、控えめにオタ芸をしながら、みんな泣いていた。苗場山の女性達も泣いていた。


 ワタルはその時、北の空に七つのなにか小さく光るものを見た。それが、目のゴミだったのか、渡り鳥だったのか、ドローンだったのか、UFOだったのかはわからなかった。しかしワタルは、レキオス部隊の喜屋武隊長やサキやオダや宮里組の四人が来てくれたような気がしていた。北の空の七つの小さい光は、TKBの三人が歌っている間、たしかに揺れていた。


 その後ワタル達七人は、三人のTKBとファン達と路線バスで那覇市内に向かい、アサミのおばさんが経営する沖縄料理の食堂に行った。

 小さい食堂で、数十人のファン達は入れないので、TKBのファンは代表を四人残して、残りは近所の店に分散し、店をまたいで大宴会状態となった。

 アサミのおばさんが、

「アサミ―、心配したよ!もうどこにも行かんでよーー!」と言う。

アサミもおばさんもサキの事は言い出せない。しかし、アサミもおばさんも、涙がいっぱい溢れていた。

 屋宜が「よーーし、今日は俺のおごりだ!みんな、高いものを注文しろ!」と言う。

「えーーっ、他の店にいる奴もですか?」とTKBのファン代表が言うと、

 屋宜が「あーー、」と言葉に詰まったところで、すぐさま、ワタルが「そっちの分はオレが出す!みんなおごりだーー!」と叫んだ!

 アサミが「ワタル、でーじハバぐわーー!」と言う。

 この日の出費は屋宜一万五千円、ワタル三万円ほどだったが、レキオス部隊の給与が各自三か月分、百万円近く振り込まれていたので、余裕だった。


 アサミのおばさんが、ワタルの肩をつかんで

「アサミ―、この人と、にーびち(結婚)したら良いさーー!」と言う。

 アサミが、「うん!そうする!」と言う。

 ワタルが急にむせこんで、食べかけていたゴーヤーチャンプルーをテーブルにまき散らした。

 屋宜が笑って「にーびち、ぐすーじさびら (結婚、おめでとう)!」と言う。

 みんなも「「にーびち、ぐすーじさびら!」と続いて、食堂のなかはお祝い状態になり、屋宜とおばさんがくねくねと踊り始めたのをきっかけに、みんながカチャーシーを踊り始めた。近所の食堂にいたTKBのファン達も「なんねー」「にーびち」と聞いて店の前の通りで踊りだす。近所の爺さんがそれを見て三線を弾き唄いはじめる。久しぶりのカチャーシーに、見知らぬ人々も笑顔で参加し始めた。


 その晩アサミは、「ホテル代がもったいない!」と言って、ワタルのアパートに押しかけて、「うわーー汚い部屋!」と言いつつ、泊まった。

 次の日アサミは「ひとり口は食えないけど、ふたり口は食えると言う諺も有るさ――!」と言って、それからずっと、ワタルのアパートで暮らす事となった。

 ワタルの金はすぐに、「無駄遣いするといけないさーー!」と、アサミに取り上げられた。

 そして、アサミは、おばさんの食堂の近くの店を買い取って、ふたりで食堂を始める話をワタルに相談し始めた。

 アサミは何でも話が早い。

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