第21話 凱旋
C国軍に勝利し、湯の平高原に二千人のC国兵捕虜を連れ帰った浅間山部隊は、捕虜達を別荘やペンションに収容し、見張りを立てた。
榛名山の最大洞窟に集合した浅間山部隊は、C国軍に大勝した事、特に横須賀基地から戻ってきたA隊の装甲車とロケット弾の威力に沸き立っていた。
長野県本部長と群馬県本部長は、感激のあまり涙を流している。
「こんな事は初めてだ!一万を超えるC国軍の大部隊を打ち負かした!」
「あの装甲車とロケット弾はどうしたんだ?」
A隊の藤野隊長が、横須賀基地の米軍から装甲車とロケット弾を供与された経緯を報告すると、長野県本部長が、
「米軍が横須賀基地に戻って来てくれたか!これでC国軍から本州を奪還できるぞ!」と叫ぶ。
それを聞いた部下の隊員たちも「オーーーーー!」と喜びの声をあげる。
しばらくその騒ぎは続いたが、二人の本部長が、
「みんな!これからどうするかが問題だ!ここはみんなで考えよう!」
と騒ぎを収める。
「これでC国軍の主要部隊は壊滅した。しかし、まだC国軍の部隊はたくさん残っている。軍用機も戦車も重火器も持っている筈だ。これを本州全土から追い出すにはどうすれば良いのか、みんなの知恵を借りたい。」
A隊の藤野隊長が、
「実はもう一隊、十二台の装甲車と多数のロケット弾をもつB隊が、中央自動車道沿いに、山梨から浅間山に向かっている筈ですが、何か情報はありませんか?」
「実は、それについては、昨日、中央自動車道の笹子トンネルで大爆発があったという報告がある。詳細は不明だが、とんでもなく大きな爆発だったらしい。残念だがそのB隊が被害を受けたという事も考えられる。」
笹子トンネルは約五キロの長さがある。B隊が先を急いで入り込んだ可能性がある。そこでC国軍の待ち伏せ攻撃を受けたら、最悪の事態になる。
長野県本部長が声をかける。
「遠く沖縄から来て、我々を助けてくれたレキオス部隊、横須賀基地へ行くために勇敢に戦った山崎隊、そして浅間山に戻って来てくれた藤野隊、浅間山部隊の勇敢だったすべての仲間に感謝し、黙祷!」
一分間の黙祷の後、二人の本部長、藤野隊長を始めとする浅間山部隊の主要なメンバー間で、今後の方針についての協議が始まった。
「現状、我々連盟側部隊は長野、群馬の精鋭を集めた約三千人、戦車、装甲車、その他の重火器を持ち、C国軍の捕虜約二千人を収容している。これに対して、C国軍は、一万人以上の主力を失ったが、この近辺の、群馬・埼玉にも、日本海沿岸の福井・石川・富山・新潟・山形・秋田方面にも、計約十万人近いC国軍と百万人を超えるC国人が残っている。これに対抗するためには、やはり早急に、横須賀基地の米軍と連絡をつけて、もっと多くの武器を供与してもらう他はない。同時に、岐阜・群馬・栃木・福島・宮城・岩手・青森の各部隊にも協力を要請する。」
「元自衛隊員の我々だけでは、本州をC国軍から奪回する事は出来ない。C国軍に対抗するためには、日本国民ひとりひとりが武器を持って立ち上がるべきだ。我々が持っている武器、C国軍から奪った武器に加えて、米軍に依頼してできるだけ多くの銃・弾薬を供与してもらい、出来る限り速やかに日本国民に分配し、C国軍に対して抵抗する力を持ってもらう。これが、国民が自らを守る事になるはずだ。」
「C国軍よりもP国軍が問題だ。この本州では、P国軍はC国軍の配下に入った事になっているが、近畿以西の本州西部ではP国軍が暴走している。C国の『抑制のきいた統治が利益になる』という方針に反して、P国は『日本野郎を根絶やしにする』というとんでもない方針を表明している。現在我々は、岐阜より以西のP国軍支配地域の日本人住民とは連絡が取れていない。」
「関西方面のP国軍は、P国本国から五百万人の軍隊と一般人を、島根・鳥取・京都・滋賀に移住させている。移住して来たP国人は日本人住民の家を奪い、日本人住民を奴隷としてこき使っている。その結果、P国人は本国での生活に比べると天国の様な暮らしをしている。P国人は決して日本を離れようとはしないだろう。」
「P国軍は抵抗する日本人を強制収容所に送り込み、簡単に抹殺処分している。しかも、日本人青少年を洗脳しP国軍兵に仕立て上げ、P国軍に従わない日本人を密告させる等の悪辣な手段をとっている。P国軍はC国軍よりもタチが悪い。」
「本州西部からP国軍を追い出すためには、C国軍と捕虜を交換して和平に持ち込み、連盟とP国軍との戦いには中立の立場をとるという約束をさせるべきだ。そうする事で、連盟はP国軍との戦いに全力を尽くす事ができる。」
「その為には、まずこの二千人の捕虜の存在をC国軍に伝えて、C国軍が収容している日本の有名人、芸能人を始めとする人々との交換解放を提案する。これはC国の面子を考えて、マスコミに公表しないで、秘密裏に行う。この交渉を基に、C国軍との休戦持ち込み、必要なら二人の本部長が出向いて、C国の幹部と笑顔で会談し、友好をアピールする。こういう提案にC国が乗ってくる可能性はある。」
「情報によれば、C国はP国の暴走を警戒している。P国の日本占領地区でのやり方は、明らかにやりすぎで、日本人と敵対して抹殺するより、利用して協力させる方をとるべきだと考えている。P国の核ミサイルについても、それが万一、C国へ向かうという事態になれば大変な事になると懸念を持ち、P国の核ミサイルの数を制限しようという圧力をかけているらしい。」
「逆に、P国側もC国に不満を持っている筈だ。百年近く前、P国が日本から独立した時、C国がP国人の多く住む地域を奪ったという因縁がある。」
「しかも、そもそもP国が日本に核ミサイルを撃ったのは、C国の了解を得ての事だが、P国にすれば、日本を核ミサイルでやっつけたのはP国であり、P国には日本を占領する権利がある。それを途中からC国が出てきて、P国の占領地域を横取りした。けしからんという事だ。」
「C国もP国が反感を持っている事に気付いている。だから『何時かP国の核ミサイルがC国に向かうのではないか』という疑いを持っている。C国が、核ミサイルを手放さない危険なP国と縁を切って、核ミサイルを持たない安全な日本と手を結ぶ事も、ありえない話ではない。」
と、浅間山部隊の主要なメンバーがこのような協議をしていた時、二つの連絡が入った。
ひとつは、全滅したと思われていたB隊の装甲車六輌が湯の平高原に到着したという連絡。もうひとつは浅間隠山の峠にいるレキオス部隊からの連絡で、
「亡くなった隊員達の墓を造らせて欲しい」という内容だった。
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