第20話 浅間山決戦

 六月三日深夜、浅間隠山の南の峠に到着したA隊が、赤外線スコープで見たのは、南西十キロの方向の浅間山周辺に展開しつつあるC国軍の圧倒的な規模の大部隊だった。

 しかも、北の嬬恋村方面から「ロマンチック街道」を通って、戦車隊を含む大増援部隊が続々と、浅間山方面へ向かっている様子が見てとれる。C国軍の部隊はさらに、浅間山の西方向南方向へも移動し、浅間山を包囲しつつある。


 藤野隊長はA隊の主だったメンバーと協議を始める。

「これは絶好の機会だ、C国軍の北からの増援部隊が到着し集結するのを待ち、装甲車に残っている27発のロケット弾を、一気に発射しよう!」

「賛成だ、それしかないだろう。27発のロケット弾をC国軍のどこに発射するかをしっかり分担しよう」

「しかし、その前に、敵のミサイル攻撃に備えるために、装甲車を出来るだけ離れた位置に散開する事が必要だ。」

「ロケット弾を撃った後でその地点に留まるのは、ミサイル攻撃の標的になるだけだ。だから、各装甲車はロケット弾を撃ち終えたら、すぐに各地点からC国軍に突っ込んでいく。これしかない!」

「その時はロケット弾を撃ち尽くして、全装甲車が身軽になっている。機関砲と機関銃でC国軍相手に撃ちまくるだけだ!」

「その時C国軍がどれほど残っているか不明だが、相手には重火器も戦車もほぼ無くなっている筈だ。この好機を逃す手はない!」

「そのとき我々を掩護してもらうため、レキオス部隊のトラックは峠に残り、1発のロケット弾を必要な時に、C国軍のど真ん中に発射出来るように、準備してもらおう。」

 九台の装甲車の配置、27発のロケット弾の発射時刻、C国軍の何処に撃ち込むのかの詳細な分担等を取り決め、協議がまとまった

 A隊の九台の装甲車が、峠前方の窪地に散開していく。トラックはロケット弾を発射した後、C国軍のミサイルの標的とするため峠の中央の目立つ場所に置かれた。ワタル達は、トラックから遠く離れた岩陰に、運搬ロボットとロケット弾発射台を準備して待機する。こうして、すべての準備は整った。


 夜明け前に浅間山の南の方角にかすかな爆発音がして、炎が上がっているのが見えた。それはしばらく続き、C国軍機が上空に現れ、浅間山の南方向にミサイル攻撃を始める。

A隊は、C国軍の増援部隊が到着し集結するのを待っているので、まだレーザー銃を撃たない。ここでC国軍に、連盟の装甲車部隊の存在を知られては、27発のロケット弾をC国軍に一斉発射するという作戦がぶち壊しになる。


 浅間山の南の方角で数発のミサイルの爆発が起こり、銃声は聞こえなくなった。


 空が徐々に白みかけ、浅間隠山の南の峠からは、薄暗い中に一万を超えるC国軍の大部隊が、浅間山の北・東・南の三方から灰色の帯のように取り囲んでいるのが、浮かび上がるように見え始めた。

 C国軍の灰色の帯は小さな動きを繰り返し、徐々に規則正しい模様へと変化していく。


 そして、辺りが明るさを取り戻した5時43分、ついに浅間隠山の峠付近から、A隊の27発のロケット弾がC国軍の部隊に対し一斉に発射された。ロケット弾は滝のような白煙を残してC国軍へ突進していく。

 C国軍の各所でロケット弾の強烈な爆発が起こり、炎が噴きあがる。


 峠から見ると、C国軍の灰色の帯は各所に大きく赤黒い花が咲き、火炎と黒煙が立ち昇る奇妙な模様を見せている。

 暫くすると、残った灰色の部分が四方に広がり、赤黒い花だけが残る。そして、その外側で灰色の部分が小さくまとまり、細い帯となって一部が北方向へ、一部が南方向へ移動を始めた。


 そしてその機を逃さず、峠前方の窪地でロケット弾を撃ち終えたA隊の九台の装甲車が全速力で坂を下り始める。坂を下りきったところで九台の装甲車は散開し、C国軍に向かって突進を始めた。

 その頃、浅間隠山の峠付近に、C国軍のミサイルが連続して着弾し、標的として置いてあったトラックを破壊粉砕し、轟音を響かせた。


 北方向へ移動していたC国軍は、峠から下りて突進してくる装甲車群を迎え撃つため、散開した部隊を集結し、岩陰、道路の側溝、車両の残骸に身を隠し、銃撃を開始する。ロケット弾の被害を免れた少数の移動式砲台も、装甲車に向けて砲撃を開始した。

 C国軍部隊とA隊の装甲車群との距離が数百メートルに近づこうとした時、浅間隠山の峠付近から、レキオス部隊の最後のロケット弾が白煙を上げてC国軍の真ん中に飛び込んできた。

強烈な爆発音と地響きが起こり、C国軍部隊の中央部は火炎と黒煙の立ち上る廃墟と化し、移動式砲台や兵士の姿は消えた。

 A隊の9台の装甲車が、その中へ突進していく。喜屋武隊長が運転するレキオス部隊の装甲車も、C国軍の中に突進する。九台の装甲車の前面の機銃がうなりを上げ、残存するC国兵に容赦なく銃弾を浴びせていく。


 その時、北方から「ゴーーー」という飛行機が飛来する音がすると同時に、C国軍機から空対地ミサイルが多数発射され、A隊の装甲車群に着弾した。回避する間もなく、二台の装甲車が被弾し大破炎上した。被弾した装甲車の一台は、喜屋武隊長が運転するレキオス部隊の装甲車だった。


 頭上から飛び去るC国軍機に向けて、残り七台の装甲車がレーザー銃の射撃を開始する。浅間隠山の峠付近からも、ワタルの構えるレーザー銃が発射され、飛び去ろうとするC国軍機二機が炎上し、南の方角へ墜落していく。


 突然、浅間山の南方向から砲声が起こり、南方向へ移動を始めたC国軍部隊の前方が停止する。湯の平高原から出撃した浅間山部隊の本隊が、三輌の戦車を先頭に、C国軍の部隊に向けて前進攻撃を開始したのだ。三輌の戦車が、重火器のないC国軍兵士の中に突進蹂躙し、戦車の後に続く浅間山部隊の隊員達の銃撃がC国兵をまとめて処理していく。


 北からの装甲車による攻撃、南からの戦車による攻撃に追い詰められ、C国軍の兵士は逃げ惑う他なかった。そしてついに、出口のない絶望的な状況となったC国軍兵は、次々と武器を捨て降伏した。C国軍の投降者は約二千人、戦死者は九千人を超えた。


 浅間山部隊は、投降したC国兵を武装解除した後、四列の隊列で、両側に見張りを立て、湯の平高原方向へ行進させる。隊列の先頭は三輌の戦車、最後尾は浅間隠山から下りてきたA隊の7台の装甲車だった。

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