第19話 装甲部隊

 一時間後には、レアード中佐が浅間山部隊とレキオス部隊の隊員たちを前に、通訳を通してレクチャーを始めた。

「この24台の装甲車は、時速百キロを超えるスピードと、炭素繊維で強化された装甲を誇る米軍の開発した最新鋭の装甲車両で、日本の自衛隊の皆さんの役に立ってくれると確信している。」

「装甲車に搭載している自動追跡レーザー装置は、レーダーと赤外線に反応して、敵機や敵地上部隊を探知し自動的にレーザーを発射する。だがその威力は限定的で、その理由は相手がダミーの場合の無駄な電力消費を抑える事にある。敵機や敵車両を破壊するには、各隊員が、各装甲車上部に2丁づつ装備されたレーザー銃を撃つ必要がある。レーザー銃を撃つ隊員は、自動追跡レーザー装置と共に、赤外線スコープ、目視などで、常に周囲の状況を注意しておく必要がある。攻撃は先手必勝となる。その点レーザー銃は、射程距離が長く、10km以上という優位性を持つ。近い敵に対しては、装甲車前面の機銃と機関砲を使う。」

「12台の装甲車に搭載されているロケット弾は各6発。最大射程は8kmで、これは通常のロケット弾の1.5倍の射程。着弾時に分裂し、半径80m以内の多数の車両・熱源を自動追跡し、穿孔破壊する爆弾を搭載している。従って、万一敵の攻撃により装甲車が破壊され、ロケット弾が暴発する事態を考え、誘発を防ぐために、装甲車は常に100m以上の車間距離とる必要がある。従って、隊列が長くならないためにも、C国軍の注意を分散するためにも、ここ横須賀基地から浅間山に向かう時には、二手に分かれて、別々の道を進む事を推奨する。」


 ここで、隊員から

「浅間山にC国P国の弾道ミサイルが飛んでくる可能性はあるのか?」という質問が出た。九年前の夏、各地の自衛隊基地は、P国から飛来した弾道ミサイルにより壊滅したという事実がある。レアード中佐が答える。

「大型のミサイル、あるいは核弾道ミサイルが飛来する可能性はない。C国軍は本州四国内に、軍用機と小型ミサイルは多数保有しているが、大型のミサイルを保有していない。P国軍も同様。C国軍はC国内にある弾道ミサイルを日本に向けて撃つ事はない。C国は日本を平和的に統治しているという主張をしており、その主張を覆す行為は出来ないからだ。P国軍も同様。」

「P国は、本州の関西以西を占領しており、その現状はP国にとっては最上のものだから、関西以西を攻撃されない限り、現在の占領状況を危機に陥れるような行為は出来ない。つまり、浅間山にも、横須賀基地にも、君達、装甲車部隊にも、C国・P国の大型の弾道ミサイル、あるいは核弾頭ミサイルが飛来する可能性はない。安心して、C国軍と戦ってもらいたい。」


 夕刻を過ぎていた。夜間は敵航空機が目視しにくくなり、レーザー銃の使用が困難になるという理由で、浅間山部隊とワタル達は、横須賀基地内の米軍用兵舎に分散して宿泊する事になった。


 翌六月二日、装甲部隊となった浅間山部隊とレキオス部隊が、横須賀基地を出発する。部隊は、レアード中佐の提案通り、二手に分かれる事とし、A隊は北上して関越自動車道沿いに群馬から西に向かうルート、B隊は中央自動車道沿いに西に向かい、山梨から北へ向かうルートをとる事になった。その南の箱根北を通るルートは、昨日浅間山部隊が突破したので、C国軍が待ち構えている可能性が高い。

 車間距離を百メートル以上とる必要があるため、A隊B隊の二手に分かれても、車列は、それぞれ一キロメートル以上の長さになる。各隊は12台の装甲車、そのうち6台の装甲車に6発づつのロケット弾が装備され、いつでも発射できる様に発射筒に準備完了している。


 レキオス部隊は藤野隊長が率いるA隊の最後尾についていく。

 装甲車には喜屋武隊長と宮里組二人とレーザー銃の扱いに慣れたオダ、小さく見えるトラックには、ワタルとアサミと屋宜が乗車している。トラックの荷台には、使い慣れたレーザー銃、運搬ロボットに加えて、米軍から新たに供与されたロケット弾一発も積み込まれている。

 百メートル以上の車間距離をとったA隊の長い隊列は、スピードをあげて、藤沢から東京の町田、八王子と北上して行く。レーダー探知機、赤外線スコープに注意するが、上空・地上の全方向にC国軍の姿はない。

 見晴らしが良い方がレーザー銃やロケット弾を使いやすいという判断で、A隊は埼玉に入って、国道から片側三車線の関越自動車道に進路を移し、走行を続ける。


 A隊は、埼玉から群馬に入り、藤岡ICから国道に戻り、走行して行く。

 中山道沿いに西に向かった地点で、C国軍の攻撃が始まった。赤外線センサーが警報を発すると同時に、前方から砲撃が始まった。右側の榛名山へつづく稜線からも、砲撃が始まる。砲弾はA隊の車列の先頭の二台に命中し、被弾した装甲車は爆発炎上する。百メートル後方の装甲車群が機関砲で反撃を始め、更に数百メートル後方の装甲車群からロケット弾が続けて発射される。前方と右手のC国軍に向かって、それぞれ3発のロケット弾が発射された。耳が聞こえなくなるほどの爆発音と、山が崩れるほどの振動が続き、C国軍からの砲撃は停止した。


 暫くして、上空を覆う煙の中にC国軍機が見えた瞬間、ミサイルがA隊の車列に着弾し、四台目の装甲車を破壊した。飛び去って行くC国軍機に装甲車からレーザー銃が発射され、複数のC国軍機が空中で爆発し粉々になる。

 それらが数分で起こり、戦闘はあっという間に終わった。


 A隊の車列の前方を走っていた装甲車三台が破壊され、十名以上の隊員が犠牲になった。C国軍の砲撃による破壊で左斜面からの崖崩れも起こり、前方の道路は通行不可能となる。残ったA隊は、犠牲者に黙とうし、車列を反転させ十数キロ戻り、もう一度今の道より北側の、榛名山の南麓を東西に通る道に、九台の装甲車とトラックの車列を乗り入れる。


 榛名山の南麓を西に走行し、榛名湖の南岸近くまで進んだ地点で、またC国軍の砲撃が始まった。右後方に見える榛名山の稜線辺りから砲弾が飛んでくる。数日前に苗場山部隊と戦っていたC国軍と推測される。被害はないが、装甲車列の周りに大きな爆発が起こる。

 直ちに、榛名山方向に3発のロケット弾が発射される。前回は1発、今回は3発で、榛名山のC国軍がどういう状況になったかは想像がつく。

 C国軍からの砲撃は無くなり、榛名山方向に黒煙が立ち昇る。

 A隊の九台の装甲車は、浅間山の北東に位置する浅間隠山(あさまかくしやま)を目指し走り続け、上り坂を走行して行く。時折、岩陰で待ち構える少数のC国兵を装甲車前面の機銃で排除しつつ、A隊はカーブの多い坂を上り続ける。


 A隊が浅間隠山南の峠へたどり着いたのは、辺りが闇に包まれる深夜だった。浅間山はそこから南西の方向だが、星空だけが明るい状況で、すべてが暗闇の中に沈んでいる。しかし、よく見ると浅間山周辺には何かが動いている気配があった。

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