第11話 日本海

 ワタルとオダは、新潟市の中心街で遭遇した十数台の警察車両と攻撃ヘリ2機をレベル3のレーザー銃で破壊した後、新潟市の中心部の大通りを西へ進み、信濃川に架かった橋を渡り、日本海沿岸の港に達した。

 港近くの駐車場で、中国製の中型トラックを調達する。運搬ロボットとレーザー銃担当のワタルが荷台に乗り込み、オダが運転して行く。橋をもう一度渡り、予定通り海岸沿いの国道を南西方向に走行する。こうして、ワタル達が目立つ行動をすれば、C国軍の注意を引き付けて、芸能人救出組の脱出を助ける事ができるはずだ。

 空が白みかけ、ようやく見えるようになった日本海の海岸にそって、ワタル達を乗せたトラックは快調に走行を続ける。時折現れるC国軍のドローンは、運搬ロボット備え付けの監視装置で追跡レーザーが作動し、かなりの遠方で撃ち落とされる。C国軍が攻撃してくる気配は今のところない。


 日本海の海岸沿いの国道407号線を、南西方向に走行し続け、ようやく日が昇る明け方、現在も稼働している柏崎刈羽原発を通り過ぎる。原発は戦争になれば真っ先に狙われるといわれたが、P国は日本海側の放射能汚染は避けたかったらしく、核ミサイルの被害は太平洋側の都市と自衛隊基地に集中した。


 トラックは青黒い波のひろがる日本海を右手に見ながら走行を続ける。柏崎を過ぎた頃、荷台の運搬ロボットの監視装置の警報が鳴り、前方からC国軍の軍用車両群が近づいてくる事を探知した。オダとワタルは耳にかけたレシーバーで話し合い、ここで中型トラックを左折させる。

 C国軍の軍用車両は一キロ以上離れた国道を一列になって近づいて来る。国道を左折したワタル達から見ると、C国軍の車両の列は一塊から徐々に横に広がっていく。ワタルがその横に広がったC国軍の車両を右手に見える先頭から順に、スコープの拡大照準を使いレーザー銃で狙い撃ちしていく。普通の銃の射程は一キロメートル未満だが、レーザー銃は十キロメートルに届く。レーザー銃は百発百中、勝負は一方的となり、国道はC国軍の車両の残骸が続くスクラップ国道となった。


 ワタル達のトラックは、国道のわき道を南の山岳地帯を目指して走行を続ける。C国軍の車両はスクラップの脇を通り抜け、わき道を後方から追ってくる。

 トラック後方の北の空にヘリ音が響き、C国軍の攻撃ヘリが現れる。ワタルのレーザー銃が難なく二機を撃ち落とす。トラックの荷台からは、後ろからくる敵を撃つ方が狙いやすいという利点もある。


 トラックは辺りに田んぼの広がる国道353号線を南下していく。

 ワタルは、遠く日本海上に二機の戦闘機らしき機体を発見し、スコープで確認し、レーザー銃を発射する。一機が遠くの海上に落下して爆発炎上する。もう一機は去って行く。

 オダがワタルに、「お前、腕がいいな!」と言う。

 ワタルが「それほどでもあるさーー」と答える。


 トラックは、信濃川の上流沿いの国道をスピードを上げて通過し、坂を上り続け、峠に到着した。「信濃坂峠」という標識がある。峠から見下ろすと、前方には長野県の湯沢温泉へ向かう曲がりくねった国道が続いている。峠の後方の国道には、装甲車も含む数十台のC国軍の軍用車両が集結してきている。レーザー銃のバッテリーはあと数台を破壊するだけの残量しかない。

 ワタルとオダは、今が残り一発のロケット弾の使い時だと判断した。運搬ロボットを使って、ロケット弾を離れた位置に降ろす。円筒状の容器から三脚のように発射台が開き地面に固定され発射準備が完了する。ワタルとオダは「しかます!」と声をかけあい、物陰に伏せ、発射ボタンを押した。

 高性能爆弾を搭載したロケット弾が発射される。ロケット弾は白煙を残して、峠の下の敵部隊をめがけて突進し、C国部隊の集結した地点で「ドドーン」と地響きをあげてさく裂し、ほとんどの軍用車両を破壊した。


 ワタルとオダは、ロケット弾がなくなり身軽になったトラックに飛び乗った。トラックは峠から、片側一車線の舗装された坂を軽快に走り下りる。

 カーブの続く坂を下り続け、平坦になり、辺りがひらけて田畑や人家が多くなったので、運搬ロボットにほろをかけて目立たなくする。白樺の木が立ち並ぶ川沿いに走行を続け、昼を過ぎたころ、野沢温泉の広告塔のある地点に到着した。


 野沢温泉の中心街をさらに山へ上った奥に「本州奪回連盟」に紹介された○○旅館はあった。オダが受付で名前を告げると、受付の男は

「小田様と島崎様ですね、ご予約承っております。」

と答える。(ワタルの名前は「島袋」なのだが、宿帳に沖縄らしい名前を記入すると目立つので、そうしたらしい)

 まず、駐車場のトラックと運搬ロボットのバッテリーの充電を依頼する。駐車場まで行って確認したあと、女中さんの案内で、最上階の部屋に通される。

 部屋の中から、湯煙の上がる野沢温泉の景観を感心して眺めていると、さきほどの受付の男が現れて、こう話し出した。

「当旅館の番頭の佐藤といいます。話は「連盟」のほうから聞いています。遠く沖縄から来ていただいたという話を聞いて、かなり驚きました。本当にありがとうございます。当旅館の従業員はすべて「連盟」の支持者です。連絡致しましたので、もうすぐ「連盟」の者が来るはずです。それ迄、心置きなくお過ごしください。」


 番頭の佐藤さんは、ワタル達を安心させようとしているのか、野沢温泉の状況を話し出した。

「ここも九年前の夏以来、大変な状況です。P国軍はここまで侵入してきて、野沢温泉中で、乱暴狼藉を働きました。殺された人も百人を超えると思います。しかし、なんとか、C国軍の幹部に陳情して金を渡し話をつけ、P国軍に引き取ってもらい、やっと野沢温泉を守ることができました。」

「しかし、日本人として、C国軍の支配を受け続ける事はむろん絶対反対です。だから、「本州奪回連盟」と連絡を取り、出来ることは何でも協力させてもらいたいと考えています。今回、遠く沖縄から新潟まで、日本の芸能人の救出に来られたという事を聞きまして、心から感謝します。」


 今度はオダが、自分は神奈川の出身で、沖縄に修学旅行で滞在していてそのまま沖縄に在住している事、レキオス部隊に参加しここまで来た経緯、そして、新潟市で○○テレビのビルに侵入し、女性芸能人達を救出した事、自分達は救出したバスが新潟を脱出するのを助けるために、新潟県内で戦闘を続けながら、ここまでたどり着いた。信濃坂でロケット弾をC国軍に撃ち込んだのは自分達だ、等を説明した。


 番頭の佐藤さんは、心から喜んでいる様子で、

「そうですか!TKBも助け出したんですか!他には女優の○○とか○○とか、・・・」と手を打って喜んでいる。

「やりましたね!そういう事なら、この○○旅館の総力を挙げて、田舎料理ですが最高のご馳走を用意させます。では、調理場にはっぱをかけに行きます」

と言って、部屋を出ていく。

 女中さんに岩風呂に案内される。久しぶりの風呂というか、沖縄ではシャワーで済ませるので、たぶん数年ぶりの風呂になる。のりのきいた浴衣に着替えて部屋に戻ると、まさに盆と正月が一緒に来たような豪華な料理の数々がずらりと並んでいた。女中さん達がにこやかに給仕をしてくれる。ワタルにとっては、テレビでしか見たことがない料理の連続だった。ただ、酒を飲むのはこの緊急事態に不謹慎なので、二人とも断った。


 女中さん達と楽しく会話し、豪華な食事をゆったりした気分で続けていると、夕刻近くになって、「連盟」の苗場山のサブリーダーという中年の男がやってきた。群馬県本部長からあらましは伝えられているという。

 レキオス部隊から譲り受けたロケット弾は、昨日深夜に、富山のC国軍の空軍基地に発射され、大被害を与えた。日本海各県のC国軍は、慌てて、富山に急行したらしい。そこへレキオス部隊が新潟で芸能人救出作戦を実行した。いま、C国軍は「東海人民共和国」始まって以来の大混乱状態にあるらしい。


「我々苗場山部隊も、レキオス部隊の芸能人救出を掩護すべく、数日前から関越自動車道周辺に出動しています。まだ情勢ははっきりしません。お二人にはこの旅館でゆっくりしていただきたいのですが、そうもいきません。ここにはC国軍の手が伸びてくるでしょう。今すぐ、我々と苗場山の避難所に移動してもらいたい。」

 ワタル達は風呂に入り、豪華料理で腹が満たされ、すっかり休日モードに入っていたのだが、そう言われればごもっともという事で、すぐに浴衣からもとのジャンパージャージに着替え、旅館の人々に礼を言い、トラックに乗り込んだ。

 ワタル達のトラックは、サブリーダーのバイクの後について、夕暮れの野沢温泉の湯けむりの中を、南の山道へと出発した。

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