第12話 苗場山
サブリーダーの乗ったバイクと、ワタル達のトラックは、野沢温泉から南の曲がりくねった山道を登って行く。
前方にあるのは、鳥甲山という標高二千メートル級の山で、その付近からは、南側に越後山脈の山々が幾つもつづき、志賀高原、浅間山へと続いている。その浅間山の数十キロ東に、ワタル達が二日前までいた榛名山がある。これはワタル達が繰り返し学習した地理だ。
鳥甲山の中腹を南へ回り込み、山道を下ると、川の流れる温泉地を挟んで、東側に同じような標高の苗場山がある。その川の手前で車の通る道は途絶えていた。トラックを温泉場の駐車場に停め、その日は「連盟」のメンバーの旅館に宿泊する。
翌五月二十五日、ここから苗場山へは車が上れない山道となる。運搬ロボットに旅館から提供された食品などの物資を積んで、三人は徒歩で登っていく。
道とは言い難い険しい登山道を二時間ほど登った山の中腹辺りに、苗場山の避難所はあった。そこは岩場に囲まれた窪地で、低木の生えた中に、洞穴の住居が十数個並んでいる。この避難所にはP国軍の乱暴狼藉から逃れるために新潟、長野から避難してきた者が多いと、サブリーダーが来る途中に言っていた。実際、いたのは若い女性が多かった。女性たちはワタル達と運搬ロボットを珍し気に見ていたが、ほとんど何の反応もなく洞穴の住居に消えていく。
ここのリーダーと隊員の大部分は、関越自動車道方面に出動しているので不在という事で、ワタル達は運搬ロボットから食品などの物資を下ろし、指示された洞穴に運んだあとは、すぐにサブリーダーのいる洞穴に入り、大人しく居候する事になった。女性たちはワタル達を避けるようにしている。
サブリーダーは煙草に火をつけ、ワタル達にも勧めながら、(二人とも煙草は吸わないので断った)小声で、話し出した。
「彼女たちは、ひどい目にあってますよ。だからここには陽気に話しかけてくる女性はいませんよ。仕方ないですね。しかし、あなた方は新潟で○○テレビから女性芸能人達を助け出した。素晴らしい。実は、私達もこの女性達をP国軍から助け出しました。そういう事です。」
サブリーダーはむりやり陽気にしようという感じで、ワタル達が助け出した女性芸能人の名前や様子を聞いてきた。ワタルもオダも、あまり覚えていないのだが、助け出した芸能人の名前を思い出せるだけ並べ、その度にサブリーダーはタバコを吸いながら、「そうですか!」「そうですか!」と小声で、喜んでいた。
翌五月二十六日の昼過ぎ、関越自動車道方面に出動していた苗場山部隊の数十人の隊員達が帰ってきた。苗場山のリーダーも元気な様子で、ワタルやオダと握手する。そして、関越自動車道の戦闘を興奮冷めやらぬ様子で語りだした。
新潟から芸能人を救出してきたバスを追って、関越自動車道でC国軍の大部隊が迫ってきた事、それを関越トンネルの出口で待ち構え、トンネル出口から出てきたC国軍の装甲車をバズーカで撃破して、C国軍の大部隊を関越トンネルの中に大渋滞させた。そして、榛名山部隊の女性リーダーの指示でロケット弾を一発お見舞いした。トンネル内に渋滞したC国軍の大部隊は、燃料弾薬を誘発させて、渋滞のまま全滅した。
「こんなにスカッとした事はない!」
「あのロケット弾はすごい威力だ!」
「むちゃむちゃ感動した!」と、隊員達が口々に語る。
「C国軍のやつらは、関越トンネルの中で大渋滞して袋のネズミよ!そこで待ち構えて、出口からロケット一発!トンネルの中は大爆発!」
「C国軍の奴ら、オープンで蒸し焼きにされたチキンみたいになってるだろうよ!ざまあみやがれ!」
「トンネルの中で大渋滞!これはヤバいんじゃね?ってC国軍の奴ら、思ってたはずだぜ!」
「前がつかえてる!戻れ戻れ!って大慌てで、おしっこ、チビってたかも知れねーーな!」
「そこへ、でっかいロケット弾一発!」
女性たちもみんな洞窟から出てきて、話を聞き、笑顔を浮かべている。
ワタルとオダのレキオス部隊も、信濃坂でそのロケット弾をC国軍をお見舞いしたという話を、サブリーダ―が大声で話すと、その場はお祭り状態になった。
「C国軍の奴ら、坂の上に逃げたしょぼいトラックがロケット弾を持っていたとは知らなかっただろうな!」
「大集合をかけて、坂を上ろうとしたら、アッ大変だ!ロケットが飛んできた!どうしよう?」
「あのロケットを食らったら、全滅も良いとこだ!C国軍の奴ら、丸焼きだな!」
「直火焼きで、真っ黒こげだよ!」
「俺たちはトンネルの中にお見舞いしたからな、一発でC国軍の蒸し焼きは十分だという事で、もう一発は取っておく事にしたんだ。榛名山の女傑が持ってる。C国軍の奴ら、榛名山に近づいたら終わりだな!」
「またC国軍の焼き過ぎグルメが始まるな!」
「伊香保温泉だけに、イカの丸焼きC国風だな!」
たいした食事もなく、酒も出なかったが、「関越トンネルの蒸し焼き」と「信濃坂の直火焼き」の話は尽きることなく、その宴会は笑い声が絶えず、夜まで続いた。
翌朝、洞窟で、苗場山部隊とご飯、みそ汁、漬物の朝食をいただいていると、女性達三人が顔を出して、ワタルとオダに頼みがあるので、朝食の後来てほしいという。
ワタルとオダが女性達の集まっている洞窟に行くと、元気の良さそうな茶髪の女性が言い出した。
「私達も、苗場山部隊として戦闘訓練を受けたい。銃の撃ち方とか、格闘術とか、教えてもらえませんか?二人は訓練を受けてきたプロでしょ、お願いします!」
ワタルとオダは、そう言われて驚いたが、相談の結果、
「俺たちだけでは決められないので、ここのリーダーに相談して良いかな?」と答え、一度男たちの洞窟に戻り、二度寝している山賊の様な顔のリーダーを起こし、聞いてみた。
「えーーーっ、そうなのか?女達が、銃とか格闘術とか教えてもらいたいと言っているのか?良いと思うよ!自分達を自分達で守ろうという事だから、君らには言いやすかったんだろうな、教えてやってくれるか?こっちからもお願いするよ!」
という事で、ワタルとオダは、苗場山部隊の女性メンバーの俄か教官という事になった。集まった女性は元気そうな約二十名、子供、病人は除外する。
銃の撃ち方、その場面、タイミングを、弾を抜いたけん銃、小銃、機関銃を借りてきて教える。ひとりひとり、構え方から教えていく。女性たちは、真剣に教わる気の様だ。格闘術と言う事だが、正直、ワタルとオダは敵と格闘した事がない。女性なら、敵と格闘しなければならなくなった時点で、かなり危険としか言えない。
オダはそれよりも、という事で、多機能メガネを取り出し、説明を始める。
「このメガネは、夜間に赤外線スコープとなって暗闇でも辺りが見えるので、敵をすばやく発見できる。しかも、右側のボタンを押すと、左側から見えない小さな毒針が目の前の敵に発射される。痛みはなく、一分後に敵は叫び声も上げずに意識をなくして倒れる。そして、十数分で死ぬ事になっている。この多機能メガネを、ひとつ君たちに進呈しよう。俺はこのメガネで、C国軍の警備兵を十人以上眠らせてきた。」
女性たちが、目を輝かせて「すごーーーい!」と声を上げる。
「俺はこのメガネ専門だが、こっちのワタルの専門はレーザー銃で、C国のパトカー装甲車戦闘ヘリ、戦闘機合わせて三十台以上やっつけた。」
女性たちが、ワタルの方を見て、「すごーーーい!」と声を上げる。
ワタルは、頭を掻いて照れたように笑う。
オダは毒針をロックしてから、女性達にメガネをかけさせ、操作法を教える。使用するのは、一分以内にその場の敵兵全員に毒針を撃てる場合に限る。でなければ、他の敵兵に毒針使用が気づかれてしまう。などの注意をする。
ワタルもレーザー銃を持ってきて、自慢げに女性達に見せて回る。
女性たちは、この後、オダとワタルに、新潟の○○テレビで、芸能人達を助け出した時の事を聞いてきた。
「TKBもいたの?女子アナも?○○も?○○も?・・・」
オダもワタルも、これで何回目だろうと思いながら、助け出した芸能人の名前と、名前を思い出せなければ、その芸能人の特徴や出演番組、ドラマを思い出して、名前を当てるという形式のクイズ大会の様になり、かなり盛り上がる。女性達に、大人気状態になったワタルとオダは、夕方まで、教官として楽しく指導を続けた。
苗場山部隊の男たちが、時々その様子を覗きに来て、羨ましそうに帰っていく。
オダとワタルが、夕刻前に男達の洞窟に戻ると、さっそくひやかされる。
「モテモテだな、あいつら、あんなにはしゃいでいるのを見た事ないぞ!」
「オレ達にはしかめっ面しかしねえもんな!あんな陽気な顔も出来るんだな!」
「モテモテのイケメンのお二人、ご夕食をどーーぞ、どーせ、あちらでご馳走されてたんでしょーーけど!」
「まあまあ、頼まれて、一生懸命教えてくれたんだ!感謝しろよ!」
「こいつら冗談ですよ!あいつらが元気に笑ってくれて、良かった!」
とリーダーが、ワタル達に言った。
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